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新世代デザイナーのグランドデザイン


色、素材、仕上げ…
モノの表面の構成要素を切り口に活動しているデザイン事務所がFEEL GOOD CREATIONだ。
COLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISH(仕上げ)の頭文字を取って「CMF」。
この古くて新しい提案に改めて刺激を受けるデザイナーも少なくないのではないだろうか。
今回はFEEL GOOD CREATION代表の玉井美由紀さんに話を聞くとともに、
同社とCMFとコンピュテーショナルデザインをつなぐ試みを行っている
アプリクラフトの中島淳雄氏にその狙いを聞いた。

[プロフィール]
玉井美由紀:1993年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。1993年〜2005年株式会社本田技術研究所四輪デザイン。2007年株式会社FEEL GOOD CREATION設立。代表取締役。2008年~2013年オートカラーアワード 審査員。2010年首都大学東京非常勤講師。2013年株式会社エムクロッシングMaterial ConneXion Tokyo代表取締役就任。
http://feelgood-c.com/

中島淳雄:電気通信大学材料学課卒業。電子部品メーカーエンジニアを経て、日本コンピュータービジョン社などで3D CAD/CGアプリケーションのテクニカルサポート、プロダクトマネージャー担当。1997年株式会社アプリクラフト設立、取締役。2008年株式会社グリフォンデザインシステムズ設立、代表取締役。慶應義塾大学意匠設計非常勤講師。日本デザイン学会会員。日本建築学会会員。
http://www.applicraft.com/
http://www.griffinds.jp/


●FEEL GOOD CREATION設立までの経緯

−−まず、玉井さんご自身の経歴とFEEL GOOD CREATIONを作るきっかけから振り返っていただけますか。

玉井:私は元々大学(武蔵野美術大学)では、テキスタイルのデザインを学んでいました。就職の際、ファッション、アパレル、インテリアなどが好きで、興味はあったんですけれど、ファブリック中心であることと、好きなので趣味のままの方がよいかなと思い、クルマは幅広くいろいろな視点から開発ができるので、自動車業界を就職先に選びました。

卒業後、本田技術研究所に入社して、配属された4輪デザイン室で主にシートのファブリックの開発、インテリア、エクステリアのカラーマテリアルやシボ、後はフロントパネルのウッドやアルミなど加飾パネルのデザインなど全般的に行っていました。自動車業界ではカラーマテリアルを専門に開発する組織があって、デザイン室の中のカラーマテリアル担当という立場でした。

−−玉井さんご自身もカラーマテリアルに興味があったのですか?

玉井:そうですね、テキスタイルのデザインを学んでいたので、色や素材感など関連しますし、クルマの場合は布だけではなく金属など硬いものも含まれてきますが、そういった素材も含めて、全体的に興味がありました。

−−ホンダでは何年デザインをされていたのでしょうか?

玉井:13年、同じ部署でカラーマテリアルのデザインを担当していました。一番最初にメインの担当になったのが1997年のS-MXというフロントシートがベンチシートのクルマでした。かなりインパクトのあるクルマで、「バーンと目立つ」をキーワードに、内装色をブルー系、ベンチシートにオレンジの光沢シートを用いました。補色対比で見せるデザインですね。その他、ステップワゴン、オデッセイ、インテグラの米国仕様車など、特徴的なクルマを担当させていただきました。最後に手がけたのが2006年のシビックでした。

−−その後、ホンダを退職後、2007年にFEEL GOOD CREATIONを立ち上げるわけですが、その経緯をお願いします。

玉井:退職時点ではFEEL GOOD CREATIONの具体的な構想はまだなかったのですが、独立してCMFをやっていこうと思っていました。自動車業界ではCMF、カラーマテリアルは当たり前のことなんですが、CMFという概念で幅広い分野で仕事をしたいと思っていました。

−−そして2007年にCMF専門のデザイン事務所、FEEL GOOD CREATIONを設立されたわけですね。

玉井:立ち上げ当初数年は1人で活動していて、その間は試行錯誤の連続でした。最初はぜんぜん順調でなく、なにより「CMF」という概念を伝えられなかったです。お客様には、言っても言っても理解されない状況が3〜4年続きました。もうこの仕事無理なんじゃないかなと思っていたくらいなんですけれど(笑)、やっと最近少しずつですけれどご理解いただけるようになってきた状況です。

−−CMFという概念、手法が認識されていなかったとのことですが、特にプロダクトデザインですと、デザイナーさんは形状や素材にはこだわりますけれど、カラーマテリアルとなると、二の次に考える方も多いように感じます。

玉井:おっしゃる通りで、自動車業界ではデザインのヒエラルキーがあって、エクステリア、インテリアがあって、カラーは後でいいや、みたいなところがありましたね(笑)。ところがお客様の視点で考えると、今は女性ドライバーも増え、家族の中でも、女性がクルマ選びの選択権を持っていたりします。車種の次に購買意欲の決め手となるのは色とか素材で、実は非常に重要なポイントだと思います。

それなのに、開発の段階では色や素材にあまり注力されないという状況には疑問を持っていました。お客様が重要と感じることを作り手側が共有できていない。そういう点は自動車業界のみならず、モノ作り業界全般に感じていたので、CMFを広げていけるのではないかと思い、独立しました。

−−確かに色とか素材感は後付けが現状ですね。男性向けは黒とシルバー、女性向けはピンクとオレンジ(笑)。

玉井:形できたから後で色決めてよ、みたいな流れでしたよね。その工程の順番自体が違いますし、開発の上でCMFはかなり上流の、一番最初に考えるべきポイントだと思います。

−−ちなみに、CMFと従来からの表面加工技術はどう違うのでしょう?

玉井:CMFは表面を構成する3つの要素なんです。そして表面加工にはレーザー加工、磨き、塗装など、いろいろな手法があると思いますが、それらはデザイン面においては、フィニッシュを表現する上での技術だと思います。技術がなければフィニッシュは表現できない、という関係だと思います。

※CMFはもともとイタリアの国際的なインダストリアルデザイナーでドムス・アカデミー(Domus Academy)の創設メンバーの一人でもある、クリノ・カステロ(Clino Trini Castelli)の言葉。

●CMFのビジネスモデル

ーーこれまで具体的にどのような活動をされてきたのでしょうか?

玉井:初期の段階では、CMFを地道に発信することがメインの業務でした。Webはもちろん、セミナーやワークションの機会があれば、積極的にお話させていただきました。毎日、Webサイトやブログに何人アクセスしたかチェックしたり(笑)。また、何社かに飛び込みでCMFのご説明に伺ったこともあるのですけれど、まるで興味を持っていただけませんでした。

そういった中で、ホームページのinfoメールからの問い合わせや、知人に紹介いただいたりと、ポツポツと仕事をいただけるようになり、それが少しずつ広がっていって今に至ります。CMFのターゲット業界は問わなかったんですけれど、自動車メーカーにいた経歴もあり、プロダクト系企業が中心でした。

−−FEEL GOOD CREATIONのCMFによる具体的な製品は例えばなんでしょう?

玉井:守秘義務があり詳細はお話できないのですが、日本の家電メーカー、自動車メーカーのデザイン室の先行開発に関わる仕事が多いですね。

ーープロトタイプですね? 試作レベル、構想段階からのデザインということでしょうか?

玉井:例えば製品にCMFを施した状態のプロトタイプとかですね。実際に製品化されたものもいくつかあるのですが、我々の仕事のアプローチは、企業のインハウスデザイナーに向けた提案になるので、我々が直接デザインするのではなく、インハウスデザイナーのみなさんがCMFに基づいて製品化されるという流れになります。公表できるモノでいえば雑貨やチャイルドシートなどがあります。

ーーFEEL GOOD CREATIONのビジネスモデル的には、直接のクライアントは企業の開発者やインハウスデザイナーになるわけですね。具体的なデザインの提案というより、コンサルティング的な意味合いが強いのでしょうか?

玉井:いいえ、デザインが中心ですけれど、CMFがデザインと認識されないことが多いのです。

ーーCMFはデザインの最上流、もしかすると形状より先かもしれませんね。ターゲットを決めた時に、色とテクスチャーから始めるのは合理的にも思えます。

玉井:はい、素材が絡みますので、CMFは形状より先なんです。素材は形状にかなり影響しますよね。CMFは全体の雰囲気、世界観を表現するための手法なんです。例えば「ほのぼのしたファミリー向け」といった時にカタチより先に全体の雰囲気をCMFでお伝えできる。それを提案することで、開発メンバー全員が同じ方向を共有しやすいのです。クルマだけではなく建築とか大きなプロジェクトでは、CMFを先行するという手法が少しずつ認識されています。

カタチが先に決まってしまうと、塗り絵的な表現しかできなくなってしまいます。例えばカチッとシャープにしたいのにパーツの素材分けができないとか、細いトリムを入れると良くなるのに元々そういうデザインになっていないとか。後付けですとそういったアンマッチが発生してしまいがちです。

−−プロダクトデザイナーさんたちのCMFに関する理解は浸透していますか?

玉井:FEEL GOOD CREATIONをスタートした2007年当時とはぜんぜん違ってきていると思います。まったく知らない方もまだまだ多いのですが、知っている方は実践されはじめています。そういう意味では今は2極化しているかもしれません。少しずつですけれど、会社の中にCMFの担当組織ができているところもあります。

−−CMFは古くて新しい概念かもしれません。

玉井:CMFは昔からありました。感覚としては当たり前のものだと思います。それを認識されなくなったのは、作る側の興味の問題もあるのかもしれません。形状は性能にもつながりますし、分かりやすいのですが、色は赤でも青でも黒でも性能や重さは変わらないでしょう? みたいな価値観はあったと思います。

色を追求していくと素材や表面加工に関わっていくのですが、そこにそれほど興味のないデザイナーが多いような気はしています。最近はそこの重要性に気づかれた方も増えてきていますが。

ですので繰り返しになりますが、開発のプロセスから変えていければいいですね。できるだけ上流から関わり、そして最後まで一緒に送り出すことも重要だと思います。

[1] [2]


話を聞いたFEEL GOOD CREATION代表取締役の玉井美由紀氏


アプリクラフト取締役の中島淳雄氏





CMFによる技術サンプル。各メーカーのテクノロジーを美しい仕上げで効果的に伝える(クリックで拡大)


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