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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その62:恐怖! ハチに刺された!

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



●ドン!という重い衝撃

ちょっと前、ハチ軍団の襲撃を受けてしまった!

そもそもは炎天下の中、事務所のエントランスの植え込みの雑草取りをしていたのだが、なんだか今日はハチがやたら多いなと思っていたら、ちょうど運悪くハチの巣を揺らしてしまったようで、いきなり10数匹くらいが自分に向かってきたのだ。

どんな動物でも、子供や巣を守ろうという動機付けほど攻撃的なものはない。山の中の熊でも、子熊がいる場合が一番危険だ。この時は真夏だったこともあり、こちらは、半そで半ズボンであり、ほとんど肌むき出しの無防備な状況だった。考える間もなく、突進してくる10数匹の蜂を手で払っていたのであるが、身体の背面がやはり攻撃されてしまったのである。ちょうど黒いランニングシャツに黒い短パンで黒い色というのも良くなかったようだ。

避けたつもりだったが、4か所以上刺されてしまった。ハチに刺された瞬間の感覚は、チクリという感じではなく、格闘技の打撃を受けたような「ドン!」という感覚の重い衝撃だった。これはとても意外であった。今回刺されたのは、キアシナガバチというやつで、体調3センチくらいだろうか。調べてみると、この種類は攻撃性と毒性でトップクラスらしい。

刺された直後から、刺されたときの針がまだ身体に残されているような感覚がしばらく続いた。この日は、このあとすぐに出張で飛行機に乗らねばならず、そのままサッとシャワーだけ浴びて移動したのであるが、1時間もすると、刺された箇所すべてがみるみる赤く大きく腫れてきた。想像以上の腫れ方だったが幸いにも顔は免れた。

首や肩が真っ赤でパンパンに晴れた状態でなんとか授業を終えて、最寄りの駅の近くの病院にとびこんだものの、そういうのはやっていません! と冷たく拒否されて結局次の週に東京に戻ってから、かかりつけの皮膚科でステロイド系の塗り薬といざというときの飲み薬を処方してもらい、2週間後くらいでやっとハレが収まった。厄介なのは、一度刺されるとハチ毒抗体ができ、次に同じ種類のハチに刺されたときに、アナフィラキシーと呼ばれるショック症状が起きるらしいということである。その後、1か月くらいしてまた山でハチに刺されたが、かなり腫れはしたものの、ショック状態にはならなかったので多分大丈夫だろう。

●自然界に知恵を見る

ディズニーのクマのプーさんは、はちみつが大好きで、いつもハチに追いかけられているイメージがあるが、実際はかなり痛いし辛いものである。ハチは世界共通でずっと昔から、刺されると痛い虫の代表だろう。進入禁止とか危険ゾーンを伝える目的で、ハチの黄色と黒のストライプ模様を表現するデザインが世界共通で使われているのはとても興味深い。

鉄道の遮断機のバーをはじめとして、事故現場の立ち入り禁止などいろいろなところでこのハチを連想させるパターンが使われているのである。昆虫の見かけのパターンで応用されているのはハチぐらいなものではないだろうか。

普段からトレイルランニングとかで森を走ったりするので、大型のスズメバチにも頻繁に遭遇はしていた。また山以外でも、マリンスポーツもやっていた関係で、いろんなものには刺されてきた。その中でも一番ひどかったのは、小笠原の父島でスキンダイビング中に、カツオノエボシの大群の中に入り込んでしまい、もう、手で絡まってくるのを払いのけながら岸まで戻った時のこと。聞くと、同じような状況で数日前に救急車が出動する騒ぎにもなったそうだ。クラゲの場合もかなり痛いし、腫れもひかないのだが、カツオノエボシのきれいなブルーと痛みのイメージが合わさって似たような青色をみると複雑な気持ちになる。

付け加えれば、その時は急いで岸に戻る途中で、サンゴで足まで切ってしまい、振り返ればサメのひれが何匹か自分を追いかけているのも見てしまったというおまけまである。恐怖シリーズでいえば、以前のコラムで「その47:こわい話」があるので興味がある方はどうぞ。

そもそも、人体に針を刺すということは苦痛である。それを解決した、テルモの「痛くない注射針」という製品ラインナップがあって、とても素晴らしいデザインだと思う。人が蚊に刺されたときに痛みを感じないというところにヒントを得て作られた注射針なのであるが、針の太さがある直径を下回ると痛覚を刺激しないことの応用技術なのである。血を吸う立場である蚊にとっては機能的でもあるこのあたりに、生き物の生存のための知恵が隠されている。

ただ、現在も点滴の針はいまだに太く、将来的には何とかしてほしいものである。自分の場合、血管が細く何度も刺しまくられて、ひどいことになる。自然界から人間がヒントを受け取ることは、ものすごく多い。まだまだ、自然の中にはたくさんのチャンスが潜んでいるはずである。

思えば、テルモ社の医療機器もずいぶんたくさんデザインしてきた。少しご紹介として写真を掲載しておきたい。


2023年10月1日更新




▲近所の小さなトンネルの周囲の注意喚起。黄色と黒のハチ模様が使われている。(クリックで拡大)


▲立ち入り禁止区域のこのハチのパターンは、世界共通なのである。(クリックで拡大)


▲毎朝のジョギングコースにもスズメバチの巣の注意喚起が。(クリックで拡大)


▲筆者がハチに襲われた現場。いつの間にかハチが巣を作っていた。巣のサイズはメロンくらいの大きなもの。(クリックで拡大)




▲テルモの婦人体温計。ストレスなく、くわえやすいフォルムを目指した。(クリックで拡大)


▲テルモの人工心臓「TILVAS」。医学会総会で発表、メディアにもたくさん取り上げられた。(クリックで拡大)


▲テルモの輸液ポンプ。大ベストセラーとなった商品で、自分もお世話になった。新海誠監督の映画「天気の子」の冒頭シーンにも登場する。









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