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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その58:平均台

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



●生きるためのバランス

人生とはまさに平均台だ。

いかに心地よく長く渡れるかに尽きるのである。そして、いつかはすべての人は必ず落ちるということ。例外はない。だから、逆に言えば「どのように落ちようか論」になるのかもしれない。

バランスを崩せば容易に下に落ちてしまう。落ちたら終わり。やり直しはない。はたから見て順風満帆に進んでいるように見えても、真っ逆さまに落ちていくのは本当に簡単で一瞬の出来事なのである。登るというのは、かなりの労力と時間が不可欠なのに、それに比べて落ちるというのは、実にあっけなく完結してしまう。

要はバランスなのだ。バランスを取りながらどこまで長く快適に渡り続けられるかということなのである。ある意味それは「ゲーム」なのかもしれない。ここ数年の映画で「カイジ」や「イカゲーム」とかが人気だったが、そんな世界観がまさにシンクロしてくる。

そもそも人間は、この世に生まれてから、まず最初に、ハイハイ移動から二本足で立って歩けるようになるという第一関門がある。最近のロボットの進化はとても目覚ましいものがあるが、二足歩行が可能になって、うまくバランスを取りながら移動ができると、突然に妙に生き物的な感覚につながってくるような気がする。バランスを自らが制御しようと行うこと自体が、ある種の「生命感」「生命力」なのであろう。

バランスというのは精神と身体の両輪の平衡状態でもあるし、環境と自己のバランスでもある。さまざまな要素から左右に振れてしまうのを、自らの力で制御することだ。

●SNSはいらない


だから今の時代、できるだけ余計で不要なバランスの揺さぶりになるような要因は避けていきたいものだ。まず、その不要要因の代表的なものがSNSだろう。真実とはかけ離れた加飾された偽現実のオンパレードである。SNSは劣等感を感じさせるような構造媒体なのである。実際に会うと、写真の顔とは別人だし、お金持ち風でも、実は低収入だったりもする。グルメ写真ばかりUPしていても、実際はその他の普段の粗食が隠されていて錯覚してしまうこともある。

そんな偽情報のオンパレードに振り回されて、自分が劣等感を感じてしまうほどばかばかしいことはない。そもそも周囲と比較して劣等感を感じる必要などないのだ。人生は比較論で生きるものではない。平均台を渡っている他の人を意識するからバランスが乱れるのである。横ばかり見ては無駄にフラフラするのは当然だろう。自分の進行方向と次の一歩の着地場所を確認しつつの自分がどうであるかだけが大事。

そして、自らも誇張された充足感を周囲に発信する必要もない。SNSは悪い面だけではなく、もちろんよい面もある。ビジネスツールと考えれば効力も十分にある。でも、毎日発信して「いいね」の数を数えて、一喜一憂するのは時間の無駄であるし、最終的にはリアルな人生で満足しないで終わるだろう。それよりも、もっと目の前の現実世界を、周囲には発信せずにそっと大事に生きていたほうが楽しい。

●酒とタバコ

たった一度の平均台ゲームを無事に渡り切ろうと思うのなら、すべての中毒性のある要素はマイナスでしかない。SNSもそうだが、アルコールやたばこなども長く平均台の上に乗っていたいのならマイナス要素でしかない。アルコールもたばこも、自らをふらふらさせる要因だ。これも現実から別な空間に精神状態を逃避ワープさせるツールでもある。

「一寸先は闇」ということわざがあるが、これは人生における一歩先の不確定な要素を指す。なので、自らネガティブな方向にに誘導するのは危険である。一方で「明日があるさ」という修復的な自己治癒機能的な言葉がある。「風と共に去りぬ」という南北戦争を描いたハリウッド映画の名作があるが、ここでも「Tomorrow is another day」いう希望を含んだヒロインの締めの言葉が、きれいな夕日を背景としたシーンで終わる。

実際は物理的にやり直しができる状態というのは、本当はまだ平均台からは落ちていないともいえる。明日を作る方法というのはただ1つ。寝ることである。夜よく寝てメンタルとフィジカルをリセットさせることである。ぐっすり寝れば、明日が来るというのは実に素晴らしい仕組みなのである。よく寝るにはどうしたらいいかということに関しては、過去の本コラム、その37「睡眠力」で書いたので、興味のある人はこちらを参考にしてほしい。

●落ちる前に寝る

最近、学生と接していて感じるのが、メンタルをやられて、友人との会話も少なくなり、何となく出席が少なくなって、結局留年してしまい、そのままフェイドアウトというパターンが増えている気がする。

自分が学生だった頃、よく美大生で東京藝大を目指して、3浪、5浪などあたりまえのような世界観があった。それは本人に「落ちた」という感覚がないからできたのだと思う。そして、その結果晴れて合格するケースも多かった。

実際に落ちていないのに落ちていると思い込むほどもったいないことはない。まずはどうでもいい情報のSNSとは距離をとって、公園でも散歩に行った方がいいと思う。横を見るのではなく、自分の進行方向を観ること。あとは寝ることの重要性を再認識してほしい。


2023年6月1日更新




▲朝起きて、寝ぼけている状態でそのまま、まずは森を歩くまたはゆっくり走る。自分自身が心がけている「心地よい 今日を始める方法」。朝日を浴びて太陽のエネルギーを感じていくと、同時に精神も身体も覚醒して活動状態に入ることができる。この季節は、森の緑もきれいで一番いい時期である。(クリックで拡大)












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