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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その37:睡眠力

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



●仕事や免疫力を支える「睡眠」

気持ち良い睡眠をとっていますか? ただ、だらだらと長く寝ればいいというものでもないし、大事なのは目を覚ました時に心地よいかどうかに尽きる。最近特に感じるのが、いかに睡眠の「質」を上げるかということ。

睡眠は脳を浄化させて嫌なことを忘れてくれる機能がある。忘れることはとても大事で、忘却機能がなければ辛すぎて人生などやってられないとも思う。身体的にもトレーニングの筋肉が作られていく時間や、損傷部位が修復されているのも睡眠時間中である。

もちろん、質の良い睡眠こそが仕事のパフォーマンスを上げることにもつながるのであるが、それ以前に、人間である上で、自分の健康管理として「寝ること」は「食べること」の次に重要であり、生き物が生き続ける上で不可欠な要素だと思う。寝ることはすなわち「起きること」「目覚めること」「生き続けること」であり、1日をスタートさせるのに表裏一体の関係性がある。

自分の免疫力を上げることは、病気やウイルスと戦う上でもますます重要な時代となってきている。睡眠不足では自己免疫力はあからさまに低下していく。これからの時代「睡眠力」が鍵を握るのは間違いない。

僕の場合、デザインのアウトプットの質に「睡眠力」がものすごく影響している。深く長く心地よく眠れた朝は、その1日のデザインの質がとても良いのである。デザインの「切れ味」とか「鮮度」がいいというか。だから、明日がある限り、今日をどう眠るか? というのは大事にしなくてはいけない。長い目で見れば、その1年の収入にも直結する大問題である。昔のデザイナーにありがちだった徹夜続きで仕上げるというのは、もう今はあり得ない。

●良い睡眠をとるために

では、実際に睡眠の質を向上させるにはどうしたらいいのだろうか? このテーマに関しては、いろいろ調べたり、かなりのことを実践した結果自分なりの方法がいくつか見つかった。とても有益な情報だと思うので、少し具体的にしたいと思う。ほんとうは、ここからは有料記事です! とか書きたいけど(笑)。

(1)電磁波を遠ざける
寝る前にスマホをいじる人は少なくないと思うが、実は充電中のスマホから発生している電磁波はとても強い。寝ている時間ずっと電磁波を浴びているのはどう考えても脳にも身体にも良いはずがない。電磁波は脳の深い部分まで振動が伝わる感覚がある。電子レンジのあの効果を考えれば理解しやすいだろう。

自分の場合は、スマホ以前に寝室に充電器を置くのもやめてしまった。実際に充電器がないだけで眠りが深くなる。これは、やってみるとすぐに実感できる。部屋や家屋の構造にもよると思うが、自分から可能な限り充電器と距離を取るというのはとても有効である。

僕の場合は出張がとても多いため、宿泊の部屋が1つの場合はベッドから極力離れた場所や、バスルームで充電するようにしている。反面、スマホでアラームを鳴らすのは難しくなってしまい、ベッド脇の目覚まし時計に頼ることになるが、聞きなれていない音で起きるというのもまた良い刺激になっている。

(2)部屋を真っ暗にする
最悪なパターンでよくあるのが、酔っぱらった勢いで、部屋の電気やTVなどをつけっぱなしでソファなどで寝てしまうこと。気絶するように眠ったとしても、アルコールの作用だけなので大体途中で起きるのだが、目覚め的には最悪の気分になる。おそらく、顔や歯も磨いていないだろうし、服も着替えていないだろう。宿題をさぼった夏休みの後半の8月31日のような自己嫌悪の念に駆られる。

寝室の明るさはダイレクトに睡眠の質に影響するものだ。今、瞼を閉じた状態で、顔の前で手を振ってほしい。目を閉じている状態でも、しっかりと手の動きは瞼を通した光の強弱で感じ取れるはず。人間の感知能力は素晴らしくて、目を閉じても実はかなりの情報が脳に伝わっているのである。

明順応、暗順応という言葉がある。いったん部屋を暗くすると、小さなLEDのライトでさえものすごく明るく感じるものだ。照明の輝度というものは、決して絶対的な数値で感じるものではなく、あくまでも相対的なものである。ちなみに、寝室にTVは絶対に置かないようにしている。

(3)寝室の適温を保つ
自分の場合、通年で寝具はあまり変わらない。寝室の天井高を低く設計したので、エアコンの効きがすこぶる良いし、結果的に電気代の節約にもなっている。 寝るときは、夏は少し寒いくらいの温度まで下げて布団にくるまって寝ている。冬はエアコンは使用せず、下にホットカーペットだけ敷いて下からの暖房のみでかなり熟睡できる。基本的にはどんなに寒くても靴下は履かないし、上はTシャツ1枚というスタイル。これは今後も変わらないと思う。

(4)自分に最適な寝具と寝巻を選ぶ
アメリカに住んでいた時に、友人のほとんどが寝るときは全裸でシーツに入り込むというのを知って驚いたことがある。そもそも、ガウンというものは寝室から他の部屋に移動するためのものである。宅急便が来たときなど玄関やらキッチンへ移動するときに本当に役に立つ。それが、非常に快適なことが分かり、出張の時とかは大体そんな感じで過ごしているのだが、きわめて心地よい。

日本の日常ではなかなかこのスタイルは困難だと思うのだが、シーツや寝巻には肌触りの心地よいものを使用したい。おすすめは、やっぱりシルク100%の製品だと思う。1本の糸の細さとその平滑な織の効果でサラサラ感は繊維の中でも群を抜いている。とりあえずは、寝具関連は一通りシルクでまとめているのであるが、ほんとストレスないのでお勧めである。枕は個人差が激しいので、人それぞれだと思うが、こればかりは自分に合ったものを見つけて試すしかないだろう。布団は重いのがいい人もいれば、軽いのがいい人もいる。マットレスなどの種類も個人差が激しいので人それぞれ。とにかく、寝具や寝巻の素材には気を使いたい。睡眠時間は人生の1/3を占めているのだし。

(5)1日を最大限に使い切る
自分の場合は日課としてのランニングがあるのだが、ランニングを始めた15年前は、14キロも走ると、その日はもう使い物にならなくなっていた。情けない話だが、今考えるとまったく考えられない。ランニング歴は15年になるが、現在は15キロ程度のランニングだったら、特に疲労も感じることなく1日を過ごせる。フルマラソンのレースで42キロを全力で走っても、午後からは普通に仕事ができていたくらいである。

身体的に、仕事に影響のない範囲内で、ちょっと頑張ったかな? くらいの負荷をかけておくことが、その日の睡眠の質に大事なような気がする。体力や筋力は放置すれば退化する一方だし。毎日において仕事も120%やり切った状態で夕食を取れば、電気を消して枕に頭が設置した瞬間にもう、意識はなくなっているものだ。SNSをチェックしたい気持ちや気力さえもまったく残っていないし、そういうのは移動中に何もやることがない時にしている。

仕事がうまくいっている状態だと、脳も興奮状態でぐるぐると思考回路が回転しているものだが、寝る前にはそのぐるぐるに打ち勝つ程度のほどよい身体的な疲労が不可欠だと感じる。そして、ありがたいことに、身体は完全な休息充電状態であっても、脳はしっかりと仕事をしていたりする。

今の自分の仕事場は寝室と秘密の梯子で連結されており、たまにふとアイデアを思いついて目覚めたときに、10分程度作業して、また寝室に戻って深い眠りにつくということを繰り返している。これが、朝になるとすっかり忘れているので、閃きの鮮度というものは大事にしたいものだ。これは「眠りながら仕事をする」という1つの技術でもあるのだが。

睡眠に関しては、まだまだ書き足りない。フロイトの「夢判断」の話とか、「嫌な人とは付き合わない」など、きりがない(笑)。

いずれにしても、この時代を生き延びるには「自己免疫力」の自己管理がますます重要となってくると思う。もしかしたら「食事」以上に「睡眠力」が重要なのかもしれない。不要な情報を遮断して、今考えるべきことに集中して効率的に脳と身体を使い切ってベッドに倒れこみたい。「明日」が来るということが「今日も生きている」ということの証であるし。そして「ぐっすり眠れた朝」ほど準備が万全な1日はないだろう。


2021年9月1日更新




▲「ヒノキのお昼寝枕」。仕事中に睡魔に襲われた際、眠気と戦っているよりは10分でも寝ればすっきりして復活するものである。しかしながら、仕事場に枕があるというのはなんか、非常にだらしなく感じられて嫌なものでもある。ヒノキのブロックのNC削り出しのこの枕は、木材でありながらも快適に首筋や頭部にフィットする。ヒノキの香りで癒されながらの10分間は至福の時間でもある。オブジェ的なたたずまいで、オフィスに置いてもインテリアとして映える。限定生産品で現在は入手不可ですが、過去にこんなものも作っています。(クリックで拡大)





▲「著者の寝室」。天井高を通常より低く、2,200mmに抑えて、エアコンの効きを効率的に行うように設計。窓は、全開放でき、遮光も完全にできるような木製の引き戸を設置。腰掛としても使える高さの物入れは、その1つを開くと事務所に直結する梯子の通路が忍者屋敷のように隠されている。夜中にふとアイデアが閃いた時に鮮度を保ったまま作業ができ重宝している。(クリックで拡大)





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