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新世代デザイナーのグランドデザイン


●帰国、そして独立

−−帰国されて、そのまま独立されたのですか?

伊藤:帰国してから、お金もなかったので、家具の取り付け職人として工務店で働きました。1年間はマンションの内装をやっていました。その経験は今でも生かせているのでよかったです。

−−では、どのタイミングで独立したのですか?

伊藤:最初は実家で自分の作品作りの作業していたのですが、住宅地の一室だったので作業音が出るなど弊害もあるので、親に出資してもらって横浜に工場を借りてスタートしました。それが2004年で、OZONEの個展が決まっていたり、日本工学院の講師も始めた頃です。

−−横浜に工場を持った頃に仕事が回りはじめたのですか?

伊藤:そうでもなかったのですが、作って売っていかなければいけない。そのために作る場所がないと何も進まないですから。当時はそれだけは成り立たないので、家具作りの仕事とは別に、非常勤講師として日本工学院八王子専門学校で家具作りを教えていました。ここで人に教えることを学べたし、それもよかったですね。

ですので、帰国してからしばらくは仕事面で苦労はしました。1つは、例えば美大出身の人たちは、社会に出ても仲間やクラスメイトのつながりがあると思うのですが、私のようにイギリスの学校出身ですと、そういうネットワークがまったくなかった。その分自分でいろいろ持ち歩きました。OZONEやIFFTなどに出展して、徐々に作品のデザインが評価されるようになりました。

−−家具職人ではなくデザイナーとしての評価が高まってきたわけですね。

伊藤:イギリスの教授にも「デザインがすべてオマエを語っていく」と言われました。作るのは誰だって作れる。デザインがあって作る技術がある、ということを叩き込まれました。

−−なるほど。横浜から八王子に移転されたのは何故ですか?

伊藤:横浜では数年活動したのですが、工場の大家さんの都合で引越しをしなければいけなくなり、移転先を探してたところ、日本工学院八王子専門学校の先輩の講師から、八王子を勧められていました。

そんなとき、ある展示会で八王子の家具メーカー、村内家具の常務を通じて副社長をご紹介いただきました。副社長は、昔は絹の町として栄えていた八王子も今は周辺の町田や立川に押され気味なので、家具作りで復興しようというお考えを持っていて、その中で、私に学校を兼ねた工場スペースとして、元ショールームだったこのログハウスを貸していただけることになりました。

−−八王子に移転と同時に学校も始めたのですね。

伊藤:私は当時、飛騨高山の国際工芸学園でも非常勤講師をしていたのですが、そこが閉校になるということもあり、副社長の想いとも合致して、八王子に家具作りを学べる場所を作ることになりました。それが2010年頃ですね。

●デザインと技術

−−伊藤さんのご自身の中にデザイナー的要素があると気づいたのはイギリスに行ってからですか?

伊藤:そうですね。そもそも絵を描くのは得意ではなかったので、自分でもデザイナーには向いていないと思っていたのですが、イギリスの学校の応用コースの教授の影響が強かったです。その教授の仕事や在籍していた会社を知り、すごい人だと分かり、その人にどうやったら認められるかばかりを考えていました。その教授は、クライアントが世界のお金持ちばかりの著名な会社のデザイナー出身で、アートアンドクラフトの世界の人なんですね。

また教授から見て東洋人の生徒は私しかいなかったので、興味を持ってくれました。教授と生徒なのですが、お互い意見を言い合える関係で、「日本人としてのアイデンティティを大切にすることとイギリスで学んだことがオマエの武器になる」と教授に言われました。

余談ですが、海外に行って日本の文化などを質問されて、何も答えられないというのは恥ずかしいことだと痛感しました。海外に行って、日本っていい国だと気づくこともありました。

−−ご自分の作品の特徴はどこにあると思いますか?

伊藤:デザインと技法が他にないと思っています。

−−イギリス仕込みの木工の技法は、日本にはない方法なのですか?

伊藤:イギリスというと伝統的な家具というイメージがあるのですが、私が学んだのはモダンな家具作りの手法でした。自分が表現したい形に合わせて技術を取り入れていきます。無垢の木の塊を使うか、薄い突板や合板を使うか、そういった材料選びとその加工法は、デザインと見せ方次第です。日本の職人さんは、無垢材を削り出すアプローチの方が多いように思います。私は、曲げて薄さや軽さ、軽やかさをなるべく表現したい。

−−伊藤さんの曲げ技法は、例えば天童木工さんの成形合板の曲げ技術とはまた別の技術なのですか?

伊藤:曲げの方法など、技法自体は同じです。天童さんは量産が可能な大型機械を用いられています。私は同じ木から薄い板を成型するなど、そういった細かなこだわりはあります。また大手さんが作りたがらない難しい曲げ形状も作りますので、そういった面で差別化を行っています。3次元で曲げることも可能です。

−−デジタルツールはIllustratorのみですか。3D CADなどは?

伊藤;コンピュータはほとんど使いません。基本、手描きと模型です。図面も1分の1で作り、そのまま型にします。デジタルも使えたらいいなと思うんですけれど。忙しいを理由に避けていました。机の上での勉強は昔から苦手なんですね(笑)。最近は3DのNCルーターを使えばどんなイメージや形状でも作れるようですね。

−−先ほどアートアンドクラフトという言葉もありましたが、家具は芸術でもあるわけですね。

伊藤;家具に芸術性を組み込んでいければとは思っています。家具は1日のうち、本来の用途に使われていない時間がほとんどだと思うのです。イスにしろテーブルにしろ、食事していないときは、インテリアなんです。

リビングなどの空間を作っているのは私は家具だと思います。その家具の美的感覚を大切にしたい。アートになってしまうと使えなくなって、デザイン、機能重視だと面白くない。使っていないときはオブジェに見えて、なおかつちゃんと使えるもの。それをイギリスで学びました。

●木工家具の魅力を広める多彩な活動

−−八王子現代家具工芸学校ではどのようなことを教えているのですか。

伊藤;学校といっても学校法人ではなく個人塾なんですけれど、授業内容はきちんと教えますので、専門学校と同等の授業料となります。生徒は職業スキルを身に付けたい人と趣味の木工を行いたい人、両方います。授業内容によってフルタイムとパートタイムに分けています。高校卒業後すぐ入学してきた女子で、この業界の一流企業に就職して活躍している卒業生もいます。

−−帰国後これまでの年月を振り返って、いかがでしょう?

伊藤;帰国してはじめたときのイメージとは少し違う展開ですね。個人のデザイン工房のイメージでしたけど、現在は学校もやっていて教育寄りになりました。自分で選んだ道ですけれど。作家としての経歴的には成長していますし、よい方向に進んでいると思っています。ビジネス的にはもう少しなんとかならないかと(笑)。

たぶん自分のやり方に中途半端な面があると自覚しています。作品も作りますが、在庫を持って販売に注力しているわけではないですし、オーダーメイドの家具作りも行います。また学校もあるので、いただいた注文もさばききれない状況です。

それと、企業やデザイナーさんから依頼を受けてプロトタイプ製作などのサポートも行っています。多様なジャンルのお客様からお声がけをいただいていますが、可能な限りお手伝いさせていただいています。自分の活動が、木工の魅力を広げる一助になれればと思っています。

−−今後の活躍に期待しています。ありがとうございました。

 

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伊藤氏がカバーがボロボロになるまで愛読した家具の書籍「MAKEPEACE」(左)と「The Furniture of Rupert Williamson」(右)。(クリックで拡大)


「MAKEPEACE」の「SYLVAN CHAIRS」のページ。(クリックで拡大)


伊藤氏のデスク。(クリックで拡大)


1階スペースは工作機が並ぶ工場。(クリックで拡大)


伊藤氏が愛用するさまざまな洋カンナ。(クリックで拡大)











2階は教室とオフィスのスペースになっている。(クリックで拡大)


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