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KAIRI EGUCHI DESIGNの代表、江口海里氏は、大阪を拠点に「アジアのデザイン事務所」のコンセプトの元に活動。国内だけでなく、中国、台湾などでもプロダクトデザインの実績を重ねている。フットワークだけでなく家電から日用品、家具まで手掛けるフィールドの広さも魅力で、どんなプロダクトにも江口海里らしさを感じさせる。今回は、大阪・難波の古い建物をリノベーションしたオフィスに江口氏を訪ね、デザイナーになるきっかけから現在のビジョンまで、十分に語っていただいた。

江口海里/KAIRI EGUCHI DESIGN
http://kairi-eguchi.com/


[プロフィール]
1980年大阪生まれ。38歳。1999年大阪市立工芸高等学校プロダクトデザイン科卒業。2001年大阪市立デザイン教育研究所デザイン学科プロダクトデザインコース卒業。コンピュータサプライメーカーに勤務後、2003年よりデプロ・インターナショナル・アソシエイツに勤務。2008年に28歳で独立し、KAIRI EGUCHI DESIGNを設立、現在に至る。




●プロダクトデザイナーになったきっかけ

--ではまず現在に至るきっかけからおたずねします。子供の頃からモノ作りは好きでしたか?

江口:小さい頃から立体物がすごく好きでした。絵も好きで表彰状などもいただきましたが、何より好きだったのがLEGOなんです。小学校の高学年までずっとLEGOで遊んでいました。当時レゴビルダーの仕事を知っていたら、本気で目指していたかもしれません(笑)。父がシルバーアクセサリーの作家で、母が七宝焼きを作っていたので、家庭環境の影響もあったと思います。

高校進学に際し、普通科にはあまり興味がなくて、大阪市立工芸高等学校に進学しプロダクトデザインを勉強しました。実は母親も兄も同じ高校だったので、親しみがあったのかもしれません。進路は建築かプロダクトかで悩みましたが、自分にとって未知の領域だったプロダクトを選びました。卒業後はさらに大阪市立デザイン教育研究所のデザイン学科プロダクトデザインコースで学びました。

--資質のままに、ストレートに現在にいたる感じですね。

江口:そうですね、今思えばそんな感じです(笑)。たしか2000年、専門学校の1年生の時にサントリーミュージアム(現 大阪文化館・天保山)でエットレ・ソットサスの個展を見まして、Memphis時代の作品がほとんどでしたが、それにシビレました(笑)。特にスポットライトがカッコよかった。その時にこの道で行こうと決心しました。学校の課題にはいろいろ制限や抑圧を感じていたのですが、ソットサスの作品を見て、なんて自由なんだろうと感銘を受けました。

--ソットサスの作品から、ご自身のデザインに影響を受けましたか?

江口:きっかけを与えてくれた感じですね。実際にはディーター・ラムスなど、カチッとしたデザインするデザイナーに影響を受けました。

--日本のプロダクトデザイナーはどうですか?

江口:日本では秋田道夫さん、深澤直人さん、川上元美さん、岩崎一郎さんが好きです。中でも秋田道夫さんとは仲良くしていただいていて、デザイナーとしての生き方を学びました。TAKEDA DESIGN PROJECTでご一緒させていただきましたが、秋田さんの徹底した、やりきったデザインはすごいなと思っています。

●プロのデザイナーへ

--江口さんのプロフィールを拝見すると、専門学校卒業後、コンピュータサプライメーカーでプロダクトやパッケージデザインを担当され、2003年からデプロ・インターナショナル・アソシエイツに勤務とあります。

江口:はい、2年間のメーカー勤務後は、高尾茂行さんの事務所(デプロ)で6年間お世話になりました。デプロはミラノで創業したデザインオフィスで、ここではイタリアデザインを勉強しました。自分の造型には直接的には現れていませんが、マリオ・ベリーニからの影響も大きかったと思います。

--その後28歳で独立ですね。個人のプロダクトデザイナーさんは、従来インハウスで長く経験を積まれた後に独立されるパターンが多かったですが、江口さんの世代あたりから、割と若くして独立される傾向が出てきたように感じます。

江口:私の学年は就職氷河期の一番きつい時で、私自身も美大卒などではないので、大企業の就職が難しかったこともあります。28歳で独立しましたが、デプロでの経験があるから今やれていると思っています。

--独立は暖簾分けのような形ですか、それともゼロスタートですか?

江口:同じ地域での競合になるので、デプロ時代にいただいたお客さんの名刺はすべて事務所に置いてきて、身一つの独立でした。

それが2008年10月ですが、その少し前にリーマンショックがあって、なおさら仕事がどこにもない状態で、途方に暮れていました(笑)。当時60社くらい営業電話をかけて、1社しか仕事がいただけなくて…でも今考えれば1社いただけただけでもスゴいことだと思います。

すでに実家住まいではなかったので、1年半くらいは貯金を食いつぶしながら生きていましたね。当時は営業、コンペ、知り合いのデザイナーの手伝いなどをしていました。その経験があるから、今はすごく仕事を大事にしますし、基本的にはお断りできないです(笑)。

--ちなみにデザイン作業はCADベースですか?

江口:はい、学生、デプロ時代はAliasを使っていましたが、独立する半年くらい前からRhinocerosを使い始めました。現在に至るまで、Rhinocerosは非常に重宝しています。


●KAIRI EGUCHI DESIGNでの活動

--独立10年になりますが、これまでに印象に残った仕事はいかがですか?

江口:そうですね、大阪のユーイング(旧森田電工)との仕事は、デザインだけではなく、最初の商品企画から入らせていただき、中国の生産委託先の工場にも年に数回は行っています。企画からデザイン、試作、修正、量産まで、工業デザインの一連の流れすべてに関わっています。エンジニアリングの部分、どうやって完成させるかまで一緒にやらせていただいています。中国の生産技術は今は非常に高いですし、一番はスピードだと思います。日本の3倍くらいの早さではないでしょうか。日本で1年半かかる製品が、中国では半年で作れます。トップの決断が早いんでしょうね。

--ユーイング以外ではいかがですか?

江口:2015年に、中国のハイアール(Haier)のエアコンのコンセプトデザイン開発プロジェクトにもウチを選んでいただきました。日本の一流メーカーと同じレベルで、デザインコンセプトから高い要求とスピードを求められましたが、そこに参加できたことは自信になりました。

それと、歯科器材でオリジナル製品の開発・製造を行うデントレード、包丁メーカーの堺一文字光秀の2社の仕事。両社はどちらも担当者が後継ぎの方で、私と同世代なんです。数年後に彼らが社長になるタイミングで、いずれデザインの良いブランドにしたいという想いをお持ちで、かなり面白い仕事をさせていただいています。デザインにこだわりを持つ世代ですので、一緒にやっていて楽しいですね。

--ユーザー側から見ると、デザインにこだわる人がいる一方で、価格、機能重視の消費者も多いです。そういった中で、良いデザインの市場性はどのようにお考えですか?

江口:良いデザイン製品の値段を下げることは無理だと思います。今はWebサイトやSNSでデザインのプロセスを説明することができるので、それをきちんと伝えることが大切だと思います。それが適正な価格であれば、買っていただけると思います。

それと市場という意味では輸出も大事ですね。輸出は個人ではまだハードルが高いので、輸出業の方と組めれば、またチャンスになってくると思います。

--包丁のお話がありましたが、日本の伝統技術とデザイナーの関係は過去にも繰り返されています。ただ一過性のプロジェクトになってしまう場合が多いですね。

江口:一番考えないといけないのは、現代の生活の中で伝統工芸品をどう使うかだと思います。今のライフスタイルに合えば買っていただけるでしょうけれど、そうでなければ売れない。

居住空間のサイズもありますが、子供のいない夫婦、単身世帯、みなさん贅沢ではないですが、時にはいいものを食べたり、嗜好品に凝ったりしています。そういった今の消費者の価値観を研究して、製品を提案する。そのツールの1つに伝統工芸があるのではないでしょうか。

これまでのように伝統工芸ありきでいくと、難しいと思います。売り方、売り場も考えた方がいいのかもしれません。これまでは市場価格から判断して、むりやり原価を圧縮するようなモノ作りの空気を感じますが、それは適正ではないと思います。

ネットなどで個人販売も行える時代ですし、僕たちも今のオフィスの1階をいずれお店にしたいと思っています。自分が推しているデザイナーの商品を置いて、デザインでいろいろな人がつながる空間にしたいですね。工業デザイン事務所のプラスアルファとしてショップやギャラリーなど違う側面も試してみたいです。デザイナー自身がブランドやお店を持つ時代になってくるのではないかなと思っています。

--世代交代が進み、江口さんや同世代の方々が主流になると、ガラッと変わるかもしれませんね。

江口:上の世代のスゴい方々と同じことやっても、時代も違いますし、彼ら以上にはなれないので、僕らは僕らなりの新しいやり方を探していきたいです。
今の大阪のプロダクトデザイナーは、僕らの世代から下の世代に、例えば福嶋賢二さん、小池和也さんなどフリーランスの人が数人いて、彼らともよく飲み行ったりしています。

--今の若手デザイナーは自動車、家電メーカー出身が少ないこともあってか、日用品中心の展開をされている人が多いですね。

江口:僕自身は日用品や伝統工芸品にも興味がありますが、クライアントに求められるのはインダストリアルデザイン、工業的なモノが多いです。5万台、10万台作る家電製品のデザインを期待されていると思っていますので、まずそこで、先輩デザイナーたちの次の世代の受け皿になりたい。そして中国や台湾の工業デザインの仕事をもっと受けたいと思っています。

--それが江口さんのコンセプトでもある「アジアのデザイン事務所」ということですね。意外と同じ立ち位置の若手デザイナーっていないですよね? どちらかというと伝統工芸のリデザインなどドメスティックなデザインにこだわる方が多い。

江口:いないですよね(笑)。あまりアジアに行こうとは思わないようです。それこそ伝統工芸系の会社とのコラボレーションなどで、仕事に追われているのかもしれません。特に東京のデザイナーさんはそういった傾向に思えます。
大阪って常に東京を意識している、見ているんです。東京で何が起きているか、常にチェックをしています。僕らも東京のクライアントさんとお仕事したいと思っていますが、東京のクライアントさんから見ると、近くにたくさんデザイナーがいるのにわざわざ大阪まで目を向けない。

そこで大阪のデザイナーは東京もいいですが、同じように海外でもいいじゃないかという気持ちも持っています。

--なるほど。大阪の方が東京より海外に近いのかもしれませんね。

江口:東京にいれば海外に出る必要がないのかもしれません。僕らは大阪だけですと市場的にキツいので、地方行ったり、海外に行ったり、活動的になりますね(笑)。

--大阪で活動するメリット・デメリットはどうでしょう。

江口:デメリットの方が圧倒的に多いと思いますが(笑)、メリットは、企業数に対してデザイナーが少ないことでしょうか。京都、奈良、神戸ともつながりやすい。デメリットはデザインを観たり発表したりする機会が少ないこと。また今は、家電系の大企業の仕事がなくなっているのも辛いところです。

それと大阪のデザインシーンを発信してくれるメディアもない。ただコミュニティが小さいのでデザイナー同士仲がよく、必要に応じてワークシェアもやっています。支えあって生きている感じですね(笑)。

●中国で受け入れられる日本デザイン

--「アジアのデザイン事務所」としての活動ですが、現状いかがでしょうか?

江口:今、中国の大企業が面白いのは、ビジネスをあまり考えてなくて、むしろ社会全体を良くしたいといった大きくて高尚なビジョンを持っているところです。

例えば上海の家具のブランドに、中国のルーツを持ったオーストラリア人、いわばミックスアイデンティティのアーティストがいるのですが、その人のテキスタイルを使って、カーテン、ランプシェードなどファブリックを作って展開している。それって新しいなと感じました。日本だと純然たる日本人を応援したいと思うのですが、中国はあえてミックスアイデンティティの人を応援しています。

中国のネイティブなデザインに関しては、中国人は文化的に赤や金を用いた豪華絢爛なものを好むようですが、それが売れなくなってきている面があります。日本の伝統工芸のようにクラシックデザインになりつつあるんですね。そういった状況で、モダンな日本のデザインは一目置かれていますので、日本人デザイナーの需要があるのだと思います。

今、中国の大きい文具メーカーと仕事しているのですが、文具は中国国内でも日本のメーカーが強い。その市場を狙い撃ちすべく、日本のデザイナーを使って、中国ブランドで中国人に向けた良いものを売ろうとしています。中国は人口が13億人と内需が大きいので、他国の良い部分を取り入れて、オリジナルの価値を生み出すというスタンスをとっています。また中国はモノを作る能力が高くなってきたので、新しいビジョン、新しいサービスに参加できる機会も増えてきました。

一方、海外でもヨーロッパはなかなかビジネスになりにくいのですが、我々にとって、ヨーロッパは学びに行くところ、吸収しに行くところという意識で見ています。

--言い換えると、日本のデザインは中国では歓迎されるが、ヨーロッパには追い付いていないということでしょうか?

江口:ある部分はそうだと思います。ヨーロッパ、アメリカからは、今でも新鮮だなと思わせるデザインが生まれてきますね。

--日本のデザインは世界レベルだと思いますけれど、日本らしいというか、佇まいが端正なので、押しの強さという点では欧米が勝るのかもしれません。それは優劣ではなく民族性のような気もしていますが。

江口:そうですね。きれいにシンプルに、無駄なくまとめる。これでいい、という落しどころ、これは世界中で日本人にしかできないのではないでしょうか。抜け感のあるあっさりしたデザインを求めるときは、日本人デザイナーがいいのかもしれません。

中国のマーケットでもそういった感性を支持する人がある程度いるのです。中国や台湾でもそうですけれど、若い頃に欧米で過ごした人が戻ってきていて、そういうセンスを持った人たちがビジネス的に成功すると、モダンなデザインが増えつつあると思います。

中国はお金があるので、例えばコンスタンチン・グルチッチが中国向けの家具を作ったり、フィリップ・スタルクが中国向けの携帯電話のデザインを行っていたり、世界中のトップクラスのデザイナーを起用しています。イケイケですよね(笑)。

こうやってセンスが磨かれていくので、5年、10年、20年で中国はすごく変わっていくと思います。日本の戦後、1960年代頃の高度成長期が、今中国で起こっている感じです。しかもすごいスピードで。

--中国の大都市部は資本主義社会と変わらぬ様子ですが、中国は共産主義国家です。今後どのような進化を遂げるのか興味深いと思います。

江口:政治的なことは仕事上はあまり意識したことはないのですが、ビジネスするときはある程度中国のルールを調べておく必要はありますね。契約などはかなり細かくて厳しいです。また中国に税金を納める必要もあります。我々は中国との案件をかなりこなしてきてますので、ノウハウも蓄積されました。

--では最後に、今後の展開を聞かせてください。

江口:これまで中国、台湾とは仕事をしてきましたので、ベトナム、タイ、インドネシア、シンガポールなど東南アジアにもチャレンジしたいです。視察はしています。

--江口さんご自身はデザイン作業の他、そういったマーケティングも行われているわけですね。読者にメッセージがあればお願いします。

江口:工業デザインの事務所として続けていきたい。もっと海外に出たいし、必要なら拠点も作りたい。常に目指しています。

そして大阪でコミュニティもしっかり作っていきたい。組織を大きくしたいわけではなく、いろいろな人と緩くつながりたい。アソシエーション、デザインコレクティブといった、それぞれが自立した状態で、必要な時にまとまれるようなネットワークを作ろうとしています。みんなで面白いことやりましょう(笑)。

現在、関西では独立するデザイナーさんが少ないのが残念です。それは僕ら世代がまだ憧れや夢を見せられていないんだなと反省しています。独立は悪くないし怖くないよと伝えていきたいです(笑)。

--ありがとうございました。

(2019年1月15日)




話を聞いた江口海里氏




●最近のプロダクトから


ユーイングの「セラミックヒーター」。(クリックで拡大)

本体上部の操作部をアップ。(クリックで拡大)






デントレードの持ち運び可能な「歯科器具」。(クリックで拡大)


このようにセットすることで使用できる。(クリックで拡大)






●KAIRI EGUCHI DESIGNのオフィス
3階建の古い建物をリノベーションしたKAIRI EGUCHI DESIGNのオフィスは1階が展示やショップのスペース、2階がスタッフのデザインルーム、3階は倉庫になっている。写真は2階。


3階には光造形方式の3Dプリンタ「Form 2」が設置され、稼働していた。












インタビュー時、1階はまだフリースペースとなっていた。



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