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▲写真1:ラミー「アイオン(aion)」。写真はブラックの万年筆(10,000円+税)。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その73
行き過ぎた未来に追いつくために
~ラミー「アイオン」をめぐって~


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●ジャスパー・モリソンのデザインによるラミーの新作

ラミーの新作「アイオン」(写真02)は、多分、1966年に発売されて以来、現代にまで続く、ラミーのフラッグシップモデル「ラミー2000」の、ようやく登場した現代版なのだと思う。デザインを担当したジャスパー・モリソンが、「ラミー2000」を意識したことは明らかで、しかし、興味深いのは「ラミー2000」を超えることを目指したのではなく、「ラミー2000」を現代的に解釈し直し、それを比較的買いやすい価格で提供する位置付けを設定したように見える。

「アイオン」を手にして、最初に気が付くのは、軸全体に刻まれたヘアライン加工(写真03)だろう。まるで木製の軸の手触りのようにも感じられた、「ラミー2000」の縦方向のへアライン加工ではなく、横方向にへアライン加工された軸は、樹脂ではなくアルマイト加工されたアルミニウム。樹脂に縦のへアラインの「ラミー2000」の、いかにも手で加工された軸の肌触りに対して、金属軸に機械で刻まれた横方向のへアラインは、「ラミー2000」よりも「ラミーサファリ」に通じる、デザインされたペンをより多くの人へ、というコンセプトに近いものだ。その一方で、軸からグリップへとまったく継ぎ目がなく、筆記時に段差を感じない(写真04)ことに驚くのに、さらに、スナップオンでしっかりと嵌まるキャップに驚くなど、ディテールに施された「シンプルに見せるための過剰な技術とデザイン」は、「ラミー2000」のコンセプトを引き継ぐものだ。

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▲写真2:「アイオン」のラインアップは、万年筆、ローラーボール、油性ボールペン。色はブラックとシルバー。(クリックで拡大)



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▲写真3:マットなアルマイト加工の軸の横方向に細かくヘアライン加工が施されている。(クリックで拡大)



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▲写真4:軸からグリップにかけて、継ぎ目がないように見える。それでいて、キャップはカチッと嵌まるのだ。(クリックで拡大)



また、アルミ軸に機械によるヘアライン加工とは書いたものの、その精度と完成度は高く、アルマイト処理も高い技術で行われているから、その持ち心地は一般的なアルミ軸のペンとはまったく違う、滑らかなサテンの布のような感触なのだ。

クリップも「ラミー2000」同様、スプリングを仕込んだ構造で、クリップの弾性によって開閉するのではなく、装着部分が可動する(写真05)ようになっている。しかし、その一方でクリップの素材が、比較的安価なペンにも使われているような質感で、軸の高級感やマットな落ち着いたムードから少し浮いて見えてしまうのが残念。シルバーの軸だと、その違和感は少ないが、ブラックの軸だとデザイン自体がシンプルでオーソドックスなペンの形をしているから、余計に質感の違いに目が行ってしまう。コストの問題なのかもしれないが、せめて「ラミー2000」のクリップ同様の質感を維持して欲しかった。

グリップ部分(写真06)は、サーキュラーブラッシュ加工という、同心円状に研磨する技術で、マット加工のような見た目をコーティングなしで実現。へアライン加工の軸からシームレスに、まるで違う素材がつながっているように見えて、しかも握った時のフィット感、滑り止めの機能もしっかりしている、不思議な手品のようなグリップになっているのだ。この軸とグリップについては、万年筆もローラーボールも油性ボールペンも同じ。この継ぎ目のない軸からグリップへの流れも、「ラミー2000」の再現を考えたのだと思う。

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▲写真5:クリップはマットではなく、普通に光沢があるシルバー。この質感の違いに違和感があるが、シルバー軸だと、それが目立ちにくい。ラミーの刻印はクリップの根元に。反対側は名入れ用に開けてあるのだろう。この根元部分の下にバネが入っていて、クリップを開閉する。(クリックで拡大)



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▲写真6:より細かく磨かれたグリップ部分。ツルンとして見えるが滑り止めになっている。(クリックで拡大)






●高級になった「サファリ」?

実際に使うと、キャップがやや重いせいか、万年筆(写真07)もローラーボールもキャップは尻軸に嵌めないで使う方が良さそうだ(写真08)。ローラーボール(写真09)はリフィルはサファリと同じ「LM63」なのだけど、軸が重いせいか書き味もやや重い感じ。それはLM16を使っている油性ボールペン(写真10)でも同様で、スルスルと書くなら、サファリなどの樹脂製軸のペンの方が向いているリフィルだ。同じラミーのリフィルでも「LM66」だと、「スウィフト」のような重い金属軸のペンでも軽快に書けるので、ここは「ラミー2000」に揃えずに「LM66」を採用して欲しかった気もするが、「ラミー2000」にも「サファリ」にも使われている方を選択するのは、「ラミー2000」の後継としては当然の選択なのだろう。

使っていて感じるのは、新しくなった「ラミー2000」というよりも、高級になった「サファリ」なのかも、ということ。サファリの金属軸バージョンと言えば「アルスター」があるけれど、そうではなく、「サファリ」を使っていた学生が、社会人になって使うペンとして、贅沢品ではなく、自然なグレードアップとしての「アイオン」という位置付けではないかと思うのだ。それは、「ラミー2000」が、ビジネスで気軽に使うには、やや先鋭的過ぎるし、価格的にも高いという問題もあったのだと思う(特に万年筆)。

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▲写真7:万年筆のペン先は、「2000」ほど小さくなく、「サファリ」ほど大きくない。小振りだが、インクフローは十分。ラフに使えるソリッドな書き味だ。(クリックで拡大)



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▲写真8:キャップを外した状態で筆記すると、軸が軽いせいもあって、疲れずに書き続けることができた。(クリックで拡大)







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▲写真9:ローラーボールのペン先。リフィルはサファリなどと同じ「LM63」。(クリックで拡大)



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▲写真10:油性ボールペンのペン先。リフィルはラミーの多くの油性ボールペンで使われている「LM16」。(クリックで拡大)





●「アイオン」のポジション

「ラミー2000」は、使っているとしみじみ、「どこがシンプルだよ!」と突っ込みたくなるような万年筆なのだ。何というか、もういちいち隙がなくて、それは、1966年当時に、40年後の未来を見据えて作ったのに、うっかり40年を超えて80年くらい先を見てしまったような名品を作ってしまったということでもある。だからこそ、製品ラインアップの中に、「ラミー2000」を現代に引き戻した製品が必要だったのだろう。「アイオン」が入ることで、「ラミー2000」は、きちんと、未来を見据えたデザインのペンとして、フラッグシップで居続けることができる。

そういう位置付けの製品を作るなら、ジャスパー・モリソンというデザイナーはピッタリだったと思うのだ。「使う道具」としての使いやすさと、「過剰さの上に立つシンプル」という「ラミー2000」が提示するデザインを分かりやすく見せるルックス。これらを併せ持つデザインとして、「アイオン」は、とても良くできているし、ちょっといい普段遣いとして、長く使い続けられるような形をしている(写真11)。今後、レギュラー製品として「サファリ」「2000」の間に並ぶモノとして、何てバランスの良い製品だと思うのだ。だからこそ、本当にクリップの素材は惜しいなあ。せめてマット加工だけでも。

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▲写真11:この絶妙な、スティックのようで曲線がうまく使われた「普通に見える形」が、「アイオン」の最大の特徴。(クリックで拡大)













 



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