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▲写真1:アークトレーディング「アメリカンプレス」12,960円。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その66
機能と官能の間で揺れる珈琲道具
~アメリカンプレスをめぐって~


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●コーヒーを淹れる道具あれこれ

コーヒーを淹れる道具は、幅が広すぎて比較が難しい。ただでさえ「味」や「香り」は嗜好によって評価が変わり、淹れる人によっても変わるのだから、正直なところ、「美味しいコーヒーが淹れられる」というのは、評価にならない。

それは、イヤフォンのレビューで「音が良い」「音が悪い」と書くことに意味がないのと同じだ。イヤフォンに関しては、「原音」という、これもよく分からない基準を持ち出して、それに近いほど「良し」とすることで、何となく評価を成り立たせているけれど、それは「良い音」とは関係ない。それでも基準がないよりはまし、ということなのだろう。

そもそも、家電というのは生活用品だけにレビューが難しい。機能の評価はできても、炊飯器やトースターに対して、「美味しい」は意味がない。同じパンを同じ条件で焼いて比べても、それはその時限りのものなのだ。鍋で炊くのと、炊飯器で炊くのを同じ基準で比べても意味はないし。かつて、私は、pdwebでデザイン家電の使い比べレビューをたくさん書いたが、あれは「デザイン家電」という枠があったから成立した。家電がレビュー対象になるという常識も、まだない時代だったし。

ともあれ、コーヒーを淹れる道具である。コーヒーを美味しく淹れるのであれば、今、一番手っ取り早いのは、ネルドリップだと思う。後片づけの面倒と、人力でお湯を注いでやる面倒はあるけれど、間違いなく美味しく入る。面倒を少し回避するなら、ペーパードリップも悪くない。ペーパードリップ用のドリッパーも今はいろいろあって、キーコーヒーの「ダイアモンドドリッパー」のような、誰が淹れてもそれなりに美味しく入るように作られたものから、技術は要るがフレキシブルに好みに合わせて淹れ方を調整できるものまで、今ではいろいろ揃う。味よりも、簡便性や何杯でも気軽に飲みたいという場合は、機械式が良い。

最近は、コーヒー豆を入れれば、豆を挽いて、コーヒーを淹れるまで全自動のものもあるし、エスプレッソのように、機械で淹れることが前提になっているもの、ネスカフェの「ドルチェグスト」のように、カプセルタイプのコーヒーを淹れるものまで、こちらも、好みや都合に合わせて選べるようになった。ただ、機械式は飲むのは楽だけど、片づけとかメインテナンスがやや面倒。カプセルタイプは片づけは楽だが、好きな豆を買ってきて飲むという楽しみは失われる。

●自分の手で押して、淹れる

今回、取り上げる、アークトレーディングの「アメリカンプレス」が面白いのは、とにかく速く淹れられるところだろう。お湯さえ沸かせば、淹れるのにかかる時間は約1分。これより速いのはカプセルタイプの製品くらいだろう。ドリッパーでも1分では淹れられない。そして、技術があまり必要ないこと。ポッドに中挽きのコーヒー豆を入れてハンドルをセットしたら(写真02)、お湯を入れた本体にポッドを沈めてハンドルで押し下げていくだけ(写真03)。ゆっくりと押していって、底に付いたら出来上がり。マグカップ1杯分のコーヒーが入る(写真04)。

この押し下げる速度でコーヒーの濃さが決まるのだけど、いろいろ試してみると、コーヒー豆を多めに入れて、1分くらいで底に届くように押すのが、筆者の好みだということが分かった。一度、コーヒー豆の量と押し下げ速度を掴んだら、後はもう、ほぼ失敗なく、「今日は調子が悪いなあ」とか思うことなく、自分好みのコーヒーが入る。
コーヒーメーカーとしての性質としては、まず、豆全体に満遍なくお湯が回るので、豆の個性はしっかり出る。ただ、ドリップで言えば、やや速めに落としているのに近いので、コクを楽しむよりも切れ味を楽しむ感じになる。筆者の感覚では、香りは高く、味はすっきりという感じで、朝に飲むコーヒーにはピッタリだと思った。もちろん、2分半から3分かけて、ゆっくりプレスすれば、かなりコクのある味わいになる。エスプレッソ好きには物足りないかも知れないけれど、ハンドドリップが好きな人なら、十分満足できるのではないかと思う。

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▲写真2:ポッドに中挽きのコーヒー豆を入れる。ポッドに9分目くらいが私は好み。(クリックで拡大)



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▲写真3:ハンドルを押し下げてコーヒーを抽出。この時の速度で濃さが調整できる。(クリックで拡大)



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▲写真4:このくらいのマグカップにいっぱいのコーヒーが入る。(クリックで拡大)





個人的に気に入っているのは、その後片づけの簡単さ。全部洗えるし、ガラス部品はないし、豆はポッドの中にあるだけだから、捨てやすいし、ポッドを丁寧に洗えば比較的キレイな状態をキープしやすいのだ(写真05)。この気楽さは、ペーパードリップに近い。ペーパーフィルターを使わない分、ランニングコストは安くなるし、「あー、フィルター切れてた」というようなこともない。あと、お湯を注ぐ技術が要らないから、専用のケトルも不要。味の好みで言えば、スッキリ系の豆をペーパードリップでゆっくりめで落とすのが好きだけれど、失敗がない分、出掛ける前に、帰宅した時に、サクッとコーヒーを飲みたい時はアメリカンプレスを選んでいる。

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▲写真5:部品はこれだけ。全部丸洗いできるのは楽でよい。(クリックで拡大)










●日本茶もOK

コーヒーという嗜好品の面白さは、合理性と味と香りという不確かなものを、どう両立するかというあたりで、さまざまな道具が登場するところだろう。それは多分、コーヒーが嗜好品であると同時に、機能性の飲料でもあるということなのだと思う。「アメリカンプレス」は、実験室の同僚のコーヒーメーカーが汚れていたところから考えたという、科学者の部屋から生まれたものだというのも、コーヒーという飲み物の性格が現れている。ゆっくりと味わうものでもあるし、眠気覚ましでもあるし、気分転換のものでもあるし、仕事中に脇に置いて、ずっと飲み続けるものでもある。熱々でも飲むし、冷めても飲むし、冷やしても飲む。

そう思うと、「アメリカンプレス」は、機能寄りだけれど、しっかり味わいたいというあたりに位置するわけで、それは、1日中、同じ場所で仕事をしている研究者や、フリーライターなんかに、とても合った道具なのだ。初めて使った時から、妙に気に入ったのは、それが、まるで文房具のように、机の脇に置いておきたくなるような道具だったからだろう(写真06)。コーヒーメーカーとしては珍しく、ガラスや陶磁器が使われていないというのも、道具っぽい。しかし、肝心の「淹れる」という行為には、人がしっかり関わるあたりが、また、機能と官能の間で揺れているようで面白いのだ。

などと考えつつも、コーヒーでなく日本茶を淹れるのにも使えるのが面白い。筆者は焙じ茶を「アメリカンプレス」で淹れるのが好きだ。

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▲写真6:器具っぽいデザインでガラスや陶磁器など割れやすい素材が使われてないので、置き場所を選ばない。(クリックで拡大)














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