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▲写真1:ソニー・コンピュータエンタテインメント、ネットワークレコーダー&メディアストレージ「nasne(ナスネ)」1TBモデル 22,000円(税別)約43×189×136mm (幅×奥行き×高さ)(最大突起物含む)、約460g。(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その46
テレビの在り方が大きく変わる装置
ソニー・コンピュータエンタテインメント「nasne」をめぐって


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●テレビは旧メディア?

テレビは、その登場から現在までに、その見られ方も随分変わっている。最初は、街頭テレビのような形で、社会で共有されるメディアとして登場し、やがて各家庭の中に当たり前にあるファミリー共有メディアとなる。ビデオの登場で時間に縛られないパーソナルなメディアへと変化し、それはハードディスレコーダーによって完成する。そこまで来たことで、各家庭に当たり前にあって、みんなで見る、というテレビの見られ方は崩壊し、ユーザーが個人的に何を見るかを「選ぶ」メディアになっていった。

その「選ぶ」には、テレビ番組だけでなく、あらゆるメディアや娯楽や情報ソースが含まれ、その自由度においてインターネットやSNS、電子書籍やネットTV、ネットラジオといったメディアにはやや後れを取っているのがテレビの現状だと思う。もちろん、電源を入れれば、必ず何かが放送されていて、無料で見続けることができるという気軽さは、まだまだ他のメディアの追随を許さず、メディアや情報、娯楽に対してそれほど強い興味を持っていない層には、これ以外は必要ないというメディアであることは、テレビの普及以来変わっていない。問題は、この忙しい生活の中で少しでも多くのメディアに触れたいと考える人たちにとって、番組表に縛られ、モニターの前で一定時間束縛されるテレビは、放っておくと、うっかり見るのを忘れてしまうようなメディアになっていることも間違いない。

一時期、パソコンでテレビ録画するようになった頃、録画した番組を家族で共有したり、ネット越しに視聴したりといったことができたのだけれど、それが一般的になる前にデジタル放送が始まってしまい、その強固なコピーガードのおかげで、気軽に共有できなくなってしまった。その後のコピーガードの緩和で多少の共有機能は復活したものの、パソコンでのテレビ録画は、それほど普及しないまま、「テレビも見られるパソコン」というあたりで落ち着き、パソコンでは、むしろhuluなどのネット配信による動画やテレビ番組、映画の視聴が一般的になった。ちょっと話は脇道に逸れるが、最近、huluで先に配信して、一週間後にテレビで放映といったスタイルの番組も登場してきていて、ネットとテレビの逆転がすでに始まっているのは興味深い。


●「nasne」で変わるテレビの視聴スタイル

ソニーの「nasne」(写真02、03)は、これらの諸々の上にある新しいテレビ視聴環境だと思うのだ。発売自体は、2012年8月なので、もう3年前の製品ということになる。しかし、当初、プレイステーション3のテレビ録画用周辺機器として登場したせいか、一般の注目度は今一つ低かった。また、タブレットやスマートフォンからも利用できたのだけれど、それをネットワークの外からインターネット経由で使えるようになったのは2014年のこと。さらに、2015年の3月に、これまでプレイステーション専用だったアプリケーション「torne」のタブレットやスマートフォン版「torne mobile」が登場。誰もがnasneの機能をフルに使えるようになった。

nasneは、簡単に言えば、ハードディスクレコーダーにサーバー機能が付いたものだ(写真04)。または、ネットワークハードディスクにテレビチューナーが付いたものとも言える。ハードウェア的には、それだけのものなのだけど、元々家庭用ゲーム機用に作られているためか、そのインターフェイスや動作速度、設定の簡単さといったソフトウェアの部分がとにかく優れている。その感覚は、初めてiPodが登場した時の、iTunesとiPodの関係に近い。そう言えば、先にソフトウェアであるtorneが出て(torneは今年で5周年)、その後、それに対応するハードウェアとしてのnasneが出たというのも、iPodを思い起こさせる。

驚いたのは、その設定の簡単さ。特に、ネットワーク内で使用するnasneを選ぶだけで(写真05)、後はネットワークの外からインターネット経由で、録画予約や修正はもちろん、録画した番組を見たり、放映中のテレビを見たりといったことがタブレットやスマートフォンから可能になる(写真06)のは、本当に楽で便利だ。また、アンテナ線1本で、特に分波などしなくても、地上波だけでなく衛星放送も受信できたり、ネットワークの設定に普通にDHCPサーバーが使えることなど、パソコン周辺機器というより、家電に近い操作感なのだ。具体的には、電源とアンテナとLANの3つのケーブルをつなげば、後は、地域の設定と、各アプリケーションからの使用機器の指定だけで、使用開始できるのだ。

そして、一旦稼働し始めれば、それだけでどこからでもテレビや録画した番組が視聴できる環境ができ上がる。しかも価格も1TBのハードディスクが入って実売2万円程度。この導入の簡単さが嬉しい。最近のネットワーク関係の機器は、どんどん設定が簡単になっていて、かつての面倒くささを考えると、いかにネットワークが当たり前の環境になってきているかがうかがえる。また、本体がルーター程度の大きさしかなく、設置場所を取らないのも導入のハードルを低くしている。今や、テレビを見て、録画するのに、単行本1冊分程度の場所しか必要なくなっているのだ。このことも、テレビをめぐる環境の大きな変化だと思う。

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▲写真2:nasneの背面はシンプル。電源端子、アンテナのインとアウト、LAN端子、USB端子(外付けHDD用)のみ。(クリックで拡大)



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▲写真3:nasne側面。BCASカードスロットがある他は、nasneのロゴが入っているのみ。完全に裏方としての機器のデザインになっている。実際にnasneに同梱されているBcasカードの色は赤となっている。(クリックで拡大)




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▲写真4:nasneの公式サイトには、詳細な情報の他、使い方の提案なども用意されている。(クリックで拡大)





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▲写真5:torne mobileのnasne設定画面。ここでネットワーク内にあるnasneが表示されるので、それを選択して、機器登録するだけで、ネットの外からの視聴も可能になる(宅内、宅外いずれの視聴も、コンテンツ内課金で別途アプリを購入する必要がある)。(クリックで拡大)



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▲写真6:torne mobileの録画番組表示画面。nasneに録画されている番組がリスト表示される。ここから選ぶだけで、見たい番組がどこにいてもネットさえ繋がっていれば見ることができる。(クリックで拡大)







●自由に好きなコンテンツが見られる意味

nasneが提供する「見る場所、時間、機器をユーザーが自由に選べる」というスタイルは、従来テレビが向かっていたホームシアター的な方向とはまったく違う。その意味では、nasneは従来のテレビに置き換わるのではなく、テレビというメディアとテレビ受像機というハードウェアを切り離す製品だ。それは、電子書籍が、本というメディアからコンテンツとハードウェアを分離したのと同じ。1つのハードウェアに依存しないコンテンツの流通という意味でも、この流れは今後加速していくと思われる。つまり、大画面化した据置タイプのテレビ受像機は、高画質高解像度のコンテンツの再生機として、ゲームやBlurayなどのパッケージメディアを中心にした再生機に、それ以外の、放送メディアとしてのテレビ番組に関しては、ユーザーの自由度が優先される再生方法にと分かれる。

nasneを使っていて感じる「未来っぽさ」は、多分、その近い将来の当たり前を経験させてくれている感じがするからだろう。できること、例えば、どこからでもスマホがあれば番組の録画予約ができるとか、録画した番組を世界中から見ることができるとか、海外でリアルタイムに日本のテレビ放送をチェックできるとか、自作のコンテンツを好きな場所、好きな端末から再生できるとか、といった個々の機能は、これまでも実現していたし、とりたてて凄い技術でもない。しかし、それらを、ソフトウェアでうまく統合することで、ユーザーは特に何かを意識することなくシームレスに利用できる。その環境が新しいテレビとの付き合い方を生んでいる(写真07)。

nasneは本来プレイステーション用のハードなので、プレイステーション4との組み合わせで使うと確かに便利だ(写真08)。ゲームのコントローラーで使うことに最適化したインターフェイスは、さすがに5年間の蓄積の賜物で、本当にスムーズに操作できる。アイコンのデザインも直観的に分かるものだし、とにかくレスポンスが速いから、操作にストレスがない。

さらに、プレイステーション4では、huluやyoutubeも普通に視聴できるわけで(写真10)、テレビや動画ファイル、ゲームやDVD、Blurayなどと合わせて、映像メディアを横断するプレイヤーとして、とても充実した環境が構築できる。テレビとプレイステーション4とLAN環境があれば、もうこれだけの環境ができてしまうのだ。そして、その中で、テレビ放送は映像コンテンツの1つとして、他と並列に扱えるようになっている。この、プレイステーション4の中では、あらゆる映像メディアが統一されたインターフェイスで同じように扱える、という状況は筆者にとって、とても使いやすいのだ。

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▲写真7:もちろん、パソコンからもnasneが使える。PC TV with nasneというソフトでnasneのコンテンツをパソコンで視聴したり、録画予約、さらにはディスクへの書き出しまで対応。しかも、動作が軽く、他の作業をしながらでもスムーズに録画番組を再生できる。
(クリックで拡大)



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▲写真8:プレイステーション4のtorneメニュー画面。メニューが円形に並ぶ独特なインターフェイスは、ゲームのコントローラーでの操作に特化した使いやすいもの。(クリックで拡大)







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▲写真9:プレイステーション4とテレビの接続はHDMIケーブル1本でオッケー。それと電源をつなぐだけ。後はネットワークの設定をすれば、ゲームでもテレビでも何でも見ることができる。(クリックで拡大)



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▲写真10:プレイステーション4に無線LANが内蔵されているから、テレビがインターネットに繋がっていなくても、huluなどのネット配信も楽しめる。(クリックで拡大)






●torne mobileでいつでもどこでも

そして、torne mobileの登場で、その環境が持ち歩けるようになった(写真11)。もちろん、それ以前もPS Vitaなどでテレビ番組の持ち歩きは可能だったし、スマホやタブレットでもTV Sideviewというアプリ(写真12)を使えば視聴可能だった。2014年からはネットワーク外からの視聴も実現した。torne mobileは、それを押し広げたものだが、それでも、そのプレイステーションライクな操作性の良さとレスポンスの速さは、外出先でのテレビや録画番組の視聴というスタイルのハードルをとても下げてくれたと思う。

そもそも、外出先でまでテレビを見るのか、という問題もある。少なくとも筆者は、出張先のホテルででもなければ、まず見ない。それでもnasneが便利だと思うのは、机の前、家の中、交通機関、カフェ、宿泊先などを移動しながら、録画した番組をちょっとづつ見続けることができるからだ(写真13)。例えば、寝る前に見始めてしまって、ちょっと止められなくなってしまった場合でも、視聴をタブレットに移行してトイレに持っていき、そのままベッドに寝ころんで見て、眠くなったら止めて寝て、起きたら、そのまま移動中の交通機関の中で見終わる、といったことが楽に行える。パソコンで見ていて、画面上で一旦中断すれば、続きがタブレットで見られる快適さ。内容だけざっと確認したい時にスマホから呼び出せる気軽さ。1人で外食している間にも、録画しておいた番組が楽しめる安心感。多分、テレビ番組は、その程度の気軽な距離感に似合うコンテンツなのだ。


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▲写真11:torne mobile のメニュー画面。プレイステーション4とデザインコンセプトは同じながら、こちらはアイコンが縦に並ぶ。起動すると、画面下に録画した番組などについてのコメントが表示されるのも楽しい。(クリックで拡大)



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▲写真12:こちらは、TV sideviewのiPad版。機能的で使いやすいが、やや素っ気ないデザイン。メニュー構成や画面デザインがややパソコン的。(クリックで拡大)



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▲写真13:録画の標準モードは、実際の放送よりも画質を落とすモードだが、普通にパソコンやタブレットなどの画面で見る分には充分な画質。パソコンなどに落としてディスクに焼いて保存する場合は、高画質モードで録画しておく。(クリックで拡大)




●実は革新的なnasneの提案

nasneが画期的なのは、テレビの現在の立ち位置を際立たせたことにあると思う。このくらいの軽いハードでざくっと録画して、好きな時に好きな場所で気軽に見ると、今のテレビ番組も有用だし、楽しめるよ、ということを形にしたのが、この製品だと思うのだ。だから、形も素っ気ないし、ひと目に触れる場所に置くタイプの製品にもなっていない。録画した番組を外部メディアに記録したい場合は、パソコンが必要だ。しかも、録画設定の標準モードは高画質モードではなく3倍モードだし(写真14)、モバイル機器へのストリーミングは1MBを推奨している。つまり、保存やモバイルでの高画質は最初から求めていない(といっても21インチ以下の画面で見るなら十分な画質だが)。

現在、筆者は長期保存したい番組は家庭用のBDレコーダーかパソコンで録画してディスクに焼き、それ以外の番組はnasneで録画視聴。資料性があって仕事で提示する必要がある番組、何度も繰り返しみたい番組はnasne内に保存しておいて、どこからでも参照できるようにしている。nasneは外付けハードディスクもつなげるので、しばらくはこの運用で使い続けられるはずだ。映画などは、外で見たい場合でも、今は、iTunesかhulu、amazonなどで購入するのがメインだから、好きなものがいつでも見られる。オリジナルコンテンツは参照したいものをその都度nasneに突っ込んでおく。すぐ必要なものはタブレットに入れておく。これで、実はテレビを見る時間が長くなったのだ。また、ちょっとチェックしときたいという番組にも目が行き届くようになった。これは、いかにテレビは見る場所に縛られていたか、ということだと思う。

番組の検索機能を使って、気になるキーワードが含まれる番組を片っ端から録画(写真15)。移動中にスマホから録画した番組の内容をチェックして不要なものはどんどん消去。帰宅後、必要な番組だけ見る、といった作業ができると、テレビもインターネットのように利用できる。外から予約や取り消し、録画の消去まで行えるありがたさ。家の中でも、画面付の多機能リモコンを持ち歩いているようなものなので、テレビ自体の存在感が軽くなり、その分、気軽に使えるようになる。このスタイルが普及したら、番組の作られ方も変わっていくと思うのだけど、さて、どうなるのか。

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▲写真14:iPadで出先から番組表を見ながら録画予約できると、かなり時間の節約になる。他のデバイスで予約した番組も、番組表に反映されるので、予約の重複などがなくスムーズに行えるのも良くできている。(クリックで拡大)



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▲写真15:キーワードを入れれば、関連する番組をリストアップしてくれて、その場で録画予約も可能。これがタブレットで行えるというだけで、つい活用してしまう不思議。(クリックで拡大)










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