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▲写真1:文庫本(1,500円)と電子書籍(300円)
の納富廉邦著「百四十文字小説集(笑)」。(ク
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今、気になるプロダクト その44
電子本と紙の本の距離を考える。
BCCKSで作った文庫本
「百四十文字小説集(笑)」をめぐって


納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。


●紙の本と電子の本

多分、本が売れないとか、そういうことではなく、元々、本なんて大して売れていないというか、売れないからといって刷り部数を減らして、書店の店頭に並ばなくなれば益々売れないなんて当たり前で、それとは関係なく、デジタルで読める、書店を通さなくてもダウンロードで買える本の普及は、「本」というプロダクトを見直すきっかけになっていると思う。

「本」を、紙を束ねて作った出版物、と定義した場合、その範囲はとてつもなく広い。一方、「電子書籍」を、ある程度まとまった量のテキストや写真、図版を、何らかのビューワーでリニアに読み進むもの、と定義した場合、その範囲は案外狭いのだ。だから、普通に本を読んでいて、「これは電子化できないだろうなあ、少なくとも今のままでは」と思うことは多い。それこそ、文庫本を読んでいても、阿佐田哲也さんの一連の麻雀小説の、普通に文字組の中に頻発する牌活字(写真02)は、版面をそのままスキャンするような形でないと、いまのところ電子化は難しいが、マンガや写真集以外では、あまり版面スキャンによる電子化はされていない。効率のためか、ビューワーアプリとの関係か、ある程度フォーマットを決めて、それを元に電子書籍のストアを開いて、という現在の主流のスタイルは、イレギュラーな形の出版物の電子化には弱いのだ。

それこそ、「豆本」とか「大型本」というのは電子化すると意味がなくなる。かつて、筆者とテクニカルライターの大谷和利氏で、iPod nanoを使った「電子豆本」(写真03)を作ったことはあるが、あれは、豆本のようなハードウェアとしてのiPod nanoがあったからこそ。当たり前だが、電子書籍はハードウェアに縛られるが、紙の本は、ハードウェアとソフトウェアが一体化しているというか、製品自体が専用ハードウェア一体型なので、コンテンツの幅が広いのは当たり前だと言える。「製品」という部分で比べた場合、電子書籍は多分、この先もずっと、紙の本を越えることはない。

ただ、「本」の多くは、テキストと写真と図版でできていて、さらに、その多くは、ほぼテキストだけでできている。そして、製品としての意味がテキストにしかない本も多く、それらは圧倒的に電子書籍に分がある。特殊な文字を使わない「テキストファイル」の形で再現できる要素については、現状のフォーマット、例えばePubでも十分だろうし、そこに多少の写真や図版が入っても、紙の本と電子書籍の間に内容的な差はほとんど生じない。そして、単に「読む本」であれば、電子書籍は圧倒的に便利なのだ。そのメリットは、片手で読める、光がいらない、大量の本を持ち歩ける、時間が分かる、ハードカバーの本に比べると軽い、その場で好きな時に購入できる、栞などを挟む必要がない、文字の拡大ができる、音声読み上げができる、保存場所を取らない、などなど。

紙の本のメリットは、現在のところ、古本として売れる、貸し借りできる、所有しているという満足感、電子化できる、といったところ(この中の、貸し借りできるというのは実はとても重要なポイントなのだけど、そこを掘ると、ちょっと違う話になるので、ここでは、電子本の貸し借りもできるようになるといいなあ、と言っておくに止める)。

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▲写真2:阿佐田哲也氏の麻雀小説に頻繁に登場する牌活字の例。文中にも文字と同じ扱いで登場するため、図版で処理するのも難しい。画面は、自分でスキャンしてデジタル化したもの。(クリックで拡大)



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▲写真3:iPad nanoにJPEGで本のコンテンツを入れた「nanobook」というデジタル豆本。大谷和利氏のアイデア。(クリックで拡大)






●オンデマンド出版「BCCKS」を使ってみる

そして何より、内容を読ませるだけでよいのなら、電子本は個人による製作販売が比較的容易、というメリットが大きい。と思っていたのだが、オンデマンド出版の普及は、電子本と紙の本の距離をとんでもなく縮めてしまった。もちろん、大型本や豆本、特殊判型の本、特殊な紙を使う本などは別として、電子本として出せる本を、そのまま紙の本としても出す、というのは、かなり簡単な作業になっている。もちろん、紙の本の場合、在庫の保管場所や送料など、販売しようと思うと、やや電子本よりも面倒だが、同じ原稿からどちらでも作ることができるとなると、もう紙かデジタルかという二元論に意味はなくなる。

筆者が使ってみたのは、BCCKSというサービス(写真04)。ここでは、ePub形式で入稿した本を、電子本としても紙の本としても製作できる。しかも、有料オプションだが電子本に関しては、kindleやiBooksなどの、大手電子書籍販売ストアへの出品代行も行ってくれるのだ(写真05)。

手順も簡単。今回の筆者の場合、まずMicrosoft Wordを使ってレイアウトしたファイルを、ボイジャーの「ロマンサー」というサービス(写真06)でePub化。でき上がったファイルをBCCKSのePubエディターに読み込ませて(写真07)、さらにレイアウトを仕上げる、といった形で、まずBCCKSのストアで販売する電子本を作成した。ついでに、500円払って、kindleやiBooks、kobo、kinopyなどのストアでの販売も依頼。一冊300円の電子本が世間に向けて販売されることになった(写真08)。

余談だが、ボイジャーの「ロマンサー」は、ePubの作成と、ブラウザであらゆる環境で縦書き表示の電子本が読めるBinB形式での公開ができる、よくできたサービス。筆者は手軽にePubを作ったり、まとまった文章を知人に読んでもらうのに利用している。このサービスの、パソコンでもスマホでもタブレットでも、専用のアプリケーションなしで、ブラウザさえあれば電子本が読める(写真09)、というスタイルは、「本」という形式を考える、今回とは別の視点になると思っている。特別な何かを必要としない、という発想は、紙の本の「ハードウェア一体型ツール」としての強さに近いものだから。

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▲写真4:BCCKSのサイト。プロの自費出版本なども多く、電子本ストアとしても面白い。(クリックで拡大)



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▲写真5:100円のチケット5枚を使うことで、主な電子書籍販売サイトに配本してくれる。図の通り、印税率がストアによって違う。また、どのストアに配本するかも選べる。(クリックで拡大)



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▲写真6:ボイジャーの電子本出版サービス「ロマンサー」のサイト。EPUB作成ツールとしても便利だ。(クリックで拡大)




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▲写真7:BCCKSのePubエディターは、必要な要素を指定の欄に入力していくだけなので、かなり使いやすい。ざっとePubを作って読み込ませて、プレビューで見ながら成形、というのがオススメのパターン。(クリックで拡大)



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▲写真8:amazonでも納富廉邦著「百四十文字小説集(笑)」(300円)は購入可能。表紙画像の右端に折り線が入っているのが嬉しい。(クリックで拡大)



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▲写真9:ロマンサーで作った電子本は、あらゆるフォーマットからWWWブラウザを介して縦書き表示で読むことが可能。スマホでも読みやすい。(クリックで拡大)




●BCCKSで紙の本も作る

BCCKSでは、作った電子本をオンデマンド出版で紙の本としても買えるサービスを行っている(写真10)。読者が、電子本ではなく紙の本が欲しいと思ったら、1冊から紙の本を発注できるようになっているのだ。もちろん、その設定は売る側が行うわけで、電子本でしか売らないという設定にすることもできる。また、著者が紙の本を発注して、自分で売るといったことも可能。BCCKSで作る電子本の入稿の際、電子本のデザインとしては珍しく、表紙だけでなく、背表紙、裏表紙も設定するようになっている(写真11)のは、このオンデマンド出版用でもある。ただ、この「背表紙」というのは、今後、電子本用の本棚での表示方法の1つとして重要になってきそうな気がする。背表紙の入稿が当たり前になる時代は近いと思う。

BCCKSのオンデマンド出版で作ることが出来る本の判型は、マメ本(天地100mm)、文庫版(105×148mm)、新書版(110×180mm)、10inch版(148×192mm)、A5変形版(140×218mm)。ページ数は、48、64、96、128、160、192、224、256、288、320ページの10種類(マメ本は48、64、96、128ページの4種類)からデータに合わせて自動選択される。本文、表紙ともに白黒印刷、カラー印刷が選べる。これだけ選択肢があれば、かなり自由に紙の本を作ることができる。

今回、筆者が選んだのは文庫版。内容が、1編140文字以内の超短篇が101本というもの(写真12)なので、小型の本で1篇1ページから2ページに収まる方が読みやすい。ただ、マメ本だとページ数が足らないということで決めた。有料オプションで見本用のPDFファイルを作ることもできるが、すでに電子書籍版があるので今回は見送り。

7日ほどで、でき上がった文庫本「百四十文字小説集(笑)」が送られてきた(写真13)。パラフィン紙に包まれているのが良い。こういう小さな演出こそが、今後の紙の本に重要なのだ。製作費は1冊あたり約900円。これを1500円で販売する。文庫本としては高価だが、内容が読みたい方は電子本版300円があるし、私家版の限定品として作ったので、こういった価格設定が正解のように思う。紙質も悪くないし、表紙の印刷の色もちゃんと出ている。出版社が出している文庫本と比べると、やや作りが粗いが、小口が全部揃っていたり、160ページとはいえ束の出る紙のおかげで十分なボリューム感があって、「モノ」としての魅力は保たれていると思う。

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▲写真10:紙の本の出版設定はかなり簡単。ページ数なども自動的に計算してくれる。(クリックで拡大)



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▲写真11:表紙はオリジナルで作ってもよいし、今回の筆者のように用意されたテンプレートに画像を貼り付けてもよい。背表紙まで編集できる。(クリックで拡大)







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▲写真12:紙の本の設定が完了して印刷用データもでき上がり(この印刷用データの作成は、依頼から完了までに数時間かかる)、各種設定の確認用プレビューができる画面になる。ここで何冊注文するかを決めて発注完了だ。(クリックで拡大)



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▲写真13:パラフィン紙に包まれて届いた文庫本「百四十文字小説集(笑)」。カバー、帯は付かない。束があるのでモノとしての存在感は十分。(クリックで拡大)







●「読む」以外の魅力を考える

この、基本的には電子本で安価に読んでもらって、紙でしか読む環境がないけど読みたい人、「モノ」として保持したい人、「本」という形に価値を感じてくれる人といった方々に向けて、やや高価だが、「紙版」の本を作る、というのは、実際やってみると、これこそが「本」という商品の正しい形ではないのか、という気がしてくる。購入した本は、まず読む前に断裁してスキャンして、iPad miniに入れてから読むのが習慣化している筆者でさえ、「紙」で持っていたい本がある。でも「電子本」の形で読む読書の快適さは、慣れると紙の本には戻りにくい。「読む」と「持つ」の魅力がそれぞれに分離しているのなら、それは両方出すのが正解で、しかし、紙の本の在庫を抱えるリスクは避けたい。となると、この電子本で出して紙はオンデマンド出版、という形は理想的なのだ。

元々、自分でパソコンやスマホで書いた文章を、パソコンで編集して、電子本として流通させて、しかし、今回、「百四十文字小説集(笑)」の紙の本が届いた時、嬉しかったし、つい紙で読んでしまったのだ。そして、一篇が短く、あっという間に読めるという紙と電子で差が出にくい形式(写真14)だったこともあってか、紙に文字が並んでいて、ページを開くと次の話、パラパラめくって、気になるところを拾い読み、というインターフェイスもモノによっては悪くないと思ってしまったのだ。

「こういうの書いたんで、読んでください」と渡しやすいのもよかった。紙の束というインターフェイスのフレキシビリティは、確かに良くできているのだ。それでも「読む」ことだけ考えたら、もう紙には戻れない。ということは、今後の本は、益々「読む」という部分以外での魅力で戦うことになるのかもしれない。実際、同じ本を両方のフォーマットで作ってみた結論は、内容も込みで「読む」以外の魅力が本来本には内包されていること。しかし、その魅力が「読む」を越えるためには、さまざまなプラスアルファが必要ということ。とりあえず、筆者は、でき上がった「百四十文字小説集(笑)」用のカバーを購入者サービスとして付けることを考えている。

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▲写真14:短い小説なので、ゆったりと組んだ紙面は、紙の本ならではの味わいになった。さっと読める感じが悪くない。(クリックで拡大)
















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