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▲写真1:コクヨS&T「ハリナックス プレス」1,100円(税別)(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その40
針なしホッチキス考
コクヨ「ハリナックスプレス」をめぐって

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●紙をいかに綴じるか

紙を簡単に綴じるツールとして「ステープラー(ホッチキス)」という道具は、それはもう良くできていて、MAXの「Vaimo 11 FLAT」(写真02)などを使っていると、そのメカニズムの精巧さと、安定した綴じ具合、2枚から40枚まで同じ針で対応する(写真03)アイデアの素晴らしさなどなど、いちいち感動してしまう。片手で40枚の紙を綴じることができるというのも実際に綴じるたびに、そのスムーズさに毎回驚いてしまう。この精密機器でありつつ、かなり大きな力をしっかりと受け止める構造の、便利な道具が1,500円程度で買えてしまえることも、本当にすごいと思うのだ。

針式のホッチキスの場合、その綴じる方法も、針金を曲げて綴じるというスタイルは分かりやすく、紙にも最小限の穴を開けるだけで綴じることができるし、リムーバーがあれば簡単に、比較的キレイに外すこともできる。そのせいか、ホッチキスというシステムに対して、特に不満を感じることもなく子供の頃から使い続けてきた。そして、使い続けてきたからこそ、「VAIO 11」の登場に感動することもできた(写真04)。不満がなかった道具の進化に感動するというのは、それはそれはすごいことでもあるし。

その意味では、実はコクヨの「ハリナックス」(写真05)が登場した時は、取り立てて驚きはしなかったし、特に感動もなかった。紙で紙を綴じるというスタイル(写真06)のステープラーは、前から知っていたし、サンスター文具の「ペーパーステッチロック」を持っていたというのもある。知識として、紙で紙を綴じるタイプのステープラーが、針式と同じ大正時代に日本に入ってきて、当時は針式よりも使われていたということも知っていた(当時、針式は本体以上に針が高価だった上に、綴じられる枚数もさほど多くはなく、そのため針がいらないタイプが重宝されたという事情らしい)。

もちろん、ハンドルを握るというワンアクションで、紙に切れ目を入れて、そこに切った紙を差し込んで綴じるというギミックは面白くて、その動作を見せるスケルトンタイプの「ハリナックス」は思わず買ってしまったこともある(写真07)。

多分、複数枚の紙を綴じるツールとして、針式のいわゆるホッチキスは、その方式にしても、製品の完成度にしても、とても高い位置に到達していて、他の方法が入り込む余地はほとんどないのだろう。針が高価だった昔はともかく、現在、針は十分に安いし、どこででも手に入る。もっとも、針がなくては綴じられないわけで、針が切れると、次に針を購入するまでは綴じることができない。また、金属を嫌う現場、小さな針を危険物とみなす現場はある。針なしステープラーは、そういう、針式ホッチキスが使えない状況でのみ、その威力を発揮するもので、つまりは、両方持っていると、ほぼ死角がなくなるといったツールなのだ。文房具で似たものを探せば、例えばカッターナイフとハサミであったり、糊と接着テープであったり、鉛筆とシャープペンシルだったり、水性ボールペンと万年筆だったり、いろいろあるが、そういうものなのだ。どちらかがどちらかに取って代るというものではない。

それは分かっているのだけれど、それでも個人的にはハリナックスに代表される、紙で紙を綴じるタイプのステープラーが好きになれない。その一番の理由は、綴じる紙自体にかなり大きな穴をあける必要があること。そして、その綴じ跡があまりキレイではないこと。針式ホッチキスのスマートさ、邪魔にならなさ加減に比べると、あまりに武骨というか、荒々しく見えてしまう。技術とギミックは、あれほど美しくも面白いのに。また、綴じられている部分を外して、1枚1枚にバラしたい時も、ハリナックスの方式は不便。キレイに外すということが、ほとんどできないのだ。大きな穴が開いているので当たり前だけれど。

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▲写真2:MAX「VAIMO 11 FLAT」1,400円(税別)。(クリックで拡大)



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▲写真3:2枚の時に折り返しがギリギリになる設計が見事。さらに針が長い「Vaimo 80」では、2枚程度を綴じる場合は、自動的に針の折り曲げ方が変わる仕掛けになっている。(クリックで拡大)



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▲写真4:「Vaimo 11」は、40枚を綴じるために従来の一般的なホッチキス針であった10号針に変えて、新たに少し針の足の部分が長い11号針を発売。その思いきりの良さも含めて面白い製品だと思う。(クリックで拡大)






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▲写真5:コクヨS&T「ハリナックス コンパクト」550円(税別)。(クリックで拡大)



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▲写真6:ハリナックスなどの、紙で紙を綴じるステープラーは、このように、紙自体を工作したような形で綴じる仕組み。(クリックで拡大)



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▲写真7:スケルトンタイプでなくても、綴じるギミックの部分は見えるように作られているあたりは流石である。(クリックで拡大)






●古くて新しい紙の綴じ方

こ針を使わず、とにかく紙を挟んでハンドルを握れば、紙を綴じることができる、というコンセプトは素晴らしいだけに、ハリナックスはとても惜しいと思っていたところに登場したのが、新しいハリナックス、「ハリナックスプレス」である。何と、穴を開けずに紙を綴じることができるハリナックスだ(写真08)。波状の刃を紙に強く押し付けることで紙がくっつくという現象は、随分前から知られていて、現に1903年にはすでに、この方式のステープラーが製品化されているし、日本でも、いくつもの製品は発売されていた。現在でも、リヒトラブの「クリップレス」という先行商品があるし、リコーのコピー機には、この方式の綴じ機能「針なし綴じフィニッシャー」を搭載しているものもある。

それらと「ハリナックスプレス」との一番大きな違いは、コンパクトで安価、ということだろう。しかし、これが大きいのだ。「ハリナックス」の時もそうだけれど、その方式がいかに優れていても、身近にあって、便利に使えなかったら、それは役に立たないのだ。特に、紙を綴じる道具は、ビジネスシーンでも女性が使うことが多いし、人に渡す書類に使うことが多い。そのための道具が、大きかったり、力が必要だったり、机の上で邪魔になったり、一人1台購入するには高価だったりすると、自然と使われなくなっていく。最初に「ハリナックス」が登場した時に、針なしステープラーはたくさん市場に出回っていたにも関わらず、「針なし」であることが大きくクローズアップされたのは、それらの製品が業務に使われなくなっていたからなのだ。

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▲写真8:「ハリナックスプレス」は、紙にギャザーを寄せるような感じで紙同士を圧着する。(クリックで拡大)









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▲写真9:男性なら、片手で楽に使えるコンパクトさ。丸みを帯びた筐体は持ちやすい。 (クリックで拡大)



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▲机に置いて、上から押さえつける、いわゆるスタンドタイプとしても使える形状。握力が弱い人には、この使い方が合うだろう。(クリックで拡大)






●綴じ枚数”5枚”を考える

だからこそ「ハリナックスプレス」はコンパクトでなければならなかったわけで、しかし、紙を押さえつけて綴じるためには、かなり大きな力が必要になる。また、綴じ部分は大きいほどしっかりと綴じられるが、それにはより大きな力が必要になる。小さくすると、綴じ部分も目立たず、力も小さくて済むが、綴じる力は弱くなる。それを、どの程度に収めるか、という点も、製品開発としては重要なポイント。そこで面白いと思ったのが、「ハリナックスプレス」のハンディタイプともスタンドタイプともつかない外観だ(写真09)。これは、片手で使うことも可能だけれど、それでも力が多少いることには変わりないので、力が弱かったり手が小さかったりする場合は、ハンディタイプで使えますよ、というデザイン。この中途半端で潔くないデザイン上の決断が、筆者はとても素晴らしいと思うのだ。仕事で誰もが使う可能性のある汎用の道具には、このような判断がとても重要だ。

「ハリナックスプレス」の綴じ能力はコピー用紙で約5枚まで。これは、現行の「ハリナックスコンパクト」と同じ綴じ枚数で、現在のハリナックスのハンディタイプでの最高綴じ枚数である10枚の半分。これを、少ないと見るか、十分と判断するかは、使う用途にもよるが、筆者的にはそれでまずは十分ではないかと考えている。それは、「ハリナックスプレス」をどのように使ってもらいたいかにも関わる話だけれど、筆者の場合、とにかくすべてのプレスリリースは、この「ハリナックスプレス」で綴じて欲しいと思っていて、ほとんどのプレスリリースは5枚以内に収まるからだ。

数枚程度の紙を綴じる道具として、通常は針式ホッチキスで十分なのだが、最近の40枚でも綴じてしまうホッチキスで3枚とか綴じるのは何だかオーバースペックで、しかも、スキャンしようとして針を外そうとすると、紙が少な過ぎてリムーバーが上手く使えず、結局、指で針を引き起こして引っ張って抜くという作業が必要になる。これがもう面倒で。その意味では「ハリナックス」の活躍の場ではあるのだけど、前述したように、スキャンのためにバラすのが面倒なのは針式と同じで、しかも穴が開いてしまってスキャンした時にも美しくなかったり、書類の一部が欠けたりしてしまう。

「ハリナックスプレス」の方式の場合、何か丸いもので綴じ部のギャザーを擦って平たくすれば、とてもキレイに外れるのだ(写真10)。穴も開いていないし、指も痛くならない。これはもう、プレスリリース的なもののためにあるステープラーと読んでも構わないのではないだろうか。大量のプレスリリースを受け取る編集部や筆者のようなフリーライターにとっては、一刻も早く普及して欲しい「ハリナックスプレス」なのだ。

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▲写真10:例えば、「ハリナックスプレス」本体の後ろは丸くなっているので、そこで綴じた部分を擦ってやれば、綴じた紙を、また元の1枚づつに戻すことができる。(クリックで拡大)










●これからの当たり前の文具としてのデザイン

使ってみて、まず感じるのは、小さい割りにズッシリと重いことだが、これは、刃に掛かる相当強い力を支えるための、強靭な金属パーツの重み。といっても、サイズはコンパクトだし、男性の手なら片手での操作も苦にはならない。綴じる際にそれなりの力は必要だが、古いホッチキスや従来のハリナックスとさほどの違いはない。よく、これだけ「当たり前に使える道具」に仕上げたものだと思う。

従来のハリナックスのような、綴じる際の動きの面白さはまったくないし(ただ、刃がぎゅーっと紙に押し付けられるだけだから)。デザイン的にも、遊びの要素を入れる余地が少なかったようで、従来のハリナックスのような、何らかの生物をモチーフにしている、といった裏設定もない。しかし、そこで機能美的なデザインに行かず、文房具的というか、通常のステープラーに準じたデザインにした上に、女性が使うことを前提にした柔らかいスタイルに仕上げている。その機能や構造とは相反する要素を入れた、悪い言い方をすれば中途半端なデザインの普遍性の高さに、「ハリナックスプレス」をアイデア勝負の際物ではない、紙を綴じる時の当たり前の選択肢になるような製品にしていこうという姿勢が見える気がするのだ。




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