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▲写真1:KORG「Rimpitch」実売価格2,200円前後。W69xD57xH30mm、32g(電池含む)(クリックで拡大)

今、気になるプロダクト その37
音楽機器のインターフェイスデザインを考える
KORG「Rimpitch」と「Nuvibe」をめぐって

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●サウンドホールに設置する生ギター用チューナー

KORGのアコースティックギター用チューナー「Rimpitch」(写真01)を初めてニュースで見た時、なんてカッコいいんだろうと思った。

これは、アコースティックギターのサウンドホールに装着するチューナーという、これまで見たことがなかった製品だ。チューニングの際に弾く弦とチューナーの表示を同時に見ることができるという、とても理に適ったアイデアがパッと見ただけで伝わって、それはそれで、そのデザインが優れているということなのだが、それ以前に、単に「カッコ良かった」のだ。

アコースティックギターの木の質感の中の一部分にLEDが光る機械のようなパーツが付いている、その姿は、アコースティックギターが改造されたような趣がある(写真02)。

KORGのギターのヘッド部分にクリップで装着するタイプのチューナーは、そのコンパクトさと、エレキギターではケーブル不要だし、アコースティックギターでもマイクの位置を気にしないで使えることもあって、大ヒット商品になった。もう、ほとんどのギタープレイヤーが使っていると言ってもいいくらいの人気があった。その後、チューナーと言えばクリップ式を差す現状を作ったのは間違いなくKORGだった。

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▲写真2:サウンドホールに装着すると、ギターそのものが改造されたように見えて、とにかくカッコいい。(クリックで拡大)









●プレイヤー目線のチューナーのあり方

クリップ式から、「Rimpitch」のサウンドホール装着型への流れ(写真03)は、チューナーというジャンルにユーザーインターフェイスの考え方を導入したもの。チューニングは、演奏前に行うものだからか、エフェクター類のような徹底した扱いやすさが考えられていなかったように思う。そこに演奏者の視点を導入したことが、KORGのチューナーの画期的なところだった。

その考え方を推し進めた先にあったのが、サウンドホールにチューナーを取り付けるというアイデアだったのだと思う。ヘッドにはペグがあるので、チューニング時の視線が行く場所ではあるけれど、やや遠いし、ペグを回すのと弦を弾くのでは、弦を弾く方がややデリケートな作業だ。そしてサウンドホールの方が目に近い。実際、弦を弾きながらペグを回すという作業の場合、サウンドホール側を見ながら行う方が楽なのだ。もちろん、演奏時の邪魔にもならない。うまい場所を見つけたものだと思う。

ただ、これまでなかったアイデアではあるが、なかったのにも理由はあって、実は、アコースティックギターのサウンドホールの大きさは、ギターによってかなり違うのだ。「Rimpitch」では直径9.7cmから10.3cmまでのサウンドホールに対応していて(写真04)、これは、大多数のアコースティックギターに合う標準的なサイズではあるが、入らないものには入らない。特にコンパクトなタイプのギターは穴が小さくて合わない。多少、大きい分には、実は装着の仕方次第で使えるのだけど、小さいホールには流石に無理なのだ。

そして、実際に装着してみると、アコースティックギターの穴のサイズは、本当にいろいろあるものだと実感する。そういう意味で、この製品は、アイデア自体の素晴らしさと同時に、かなり攻めた製品だったりもする。穴のサイズがまちまちだからと製品企画を没にしなかったからこそ現れた製品で、それも、この製品のカッコ良さにつながっていると思う。

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▲写真3:マイクではなく、ピエゾピックアップでボディの振動から音を拾う仕様。これは、ヘッドにクリップするチューナーなどと同様の仕組だ。(クリックで拡大)



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▲写真4:この溝をサウンドホールに差し込んでセットする。円の一部を切り取っているわけで、溝の幅にある程度収まっていれば多少サイズが合わなくても装着可能。円周のサイズ以外にも、サウンドホール周りが厚いタイプのギターだと溝に収まらず装着できない場合がある。(クリックで拡大)






●幻のエフェクターが蘇る

一方、同じKORG製品で、見るからに冒険的な製品なのが、ギター用エフェクターの「Nuvibe」(写真05)。あの1969年、ウッドストックでのライブで、ジミ・ヘンドリックスが使ったことで世界的に有名になった、しかし、生産数が少なく幻のエフェクターと呼ばれていた「Uni-Vibe」を、当時の開発者を監修に迎え、現代の技術を駆使して再現した、一種のトリビュートモデルだ。

これだけでも、相当マニアックな製品だが、さらに販売価格は5万円前後。その価格は、実際に触れば分かる製品の質感(写真06)と、トランジスタを79個使用して作ったと云うアナログサウンドとしか言いようがない太いうねりを聴くと、高いとは思えなくなる、つまり、権利やステータスやブランドイメージとはまったく関係なく、「Nuvibe」を市場に出すにあたって、多分とても良心的に付けられたものだ。

今や、こんな形で世に出るコンシューマー向けの電化製品が他にあるだろうか。かつて、「ガジェット」と自らを揶揄しなければならなかったほど、一部のマニア向けに作られていたモバイルコンピュータの類でさえ、今や一般ユーザーに売れなければ製品企画が通らない。馬鹿みたいな製品は馬鹿みたいに安くないと買ってもらえない。その中にあって、実用品が、これだけ丁寧に作られて、その丁寧さに見合った価格で売られている、というだけで、何だか嬉しくなるのだ。

元々、ギターやベース用のアナログエフェクターは安くない。一方で、デジタルエフェクターは驚くほど安くて高性能だ。筆者も、KORGのPANDRAシリーズを愛用しているが、手のひらサイズで、ほとんどのエフェクトを網羅しているし、アンプシミュレーターだって付いている。アナログエフェクターは、基本的に1台1機能だ。しかも、スイッチ1つとつまみ2つ程度のものが一般的。その意味では、「Nuvibe」は、機能こそ「音をうねらせたり揺らしたりする」だけだが、操作できるつまみの数は多い。ペダルも付属しているから、アナログエフェクターの中では、かなり動かせる部分が多いのだ(写真07)。

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▲写真5:KORG「Nuvibe」実売価格48000円前後。ペダルとペダル接続用ケーブル付属。電源は、単3形アルカリ乾電池×6本、またはACアダプター(別売)。(クリックで拡大)



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▲写真6:どっしりと重い本体は、岩肌のような加工が施された金属製。上部パネルも、ヘアライン加工が美しい。(クリックで拡大)



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▲写真7:エフェクターとしては比較的操作部分が多いフロントパネル。フットスイッチは左がコーラスとビブラートの切替え、右がエフェクトのオンオフ。(クリックで拡大)



●トランジスタ79個で70年代サウンドを創出

トランジスタを79個も使って、何をしているかというと、設定した波形で音を揺らしたり(ビブラート機能)、うねらせたり(コーラス機能)するだけなのだが、その独特の揺れこそが、このエフェクターの最大の特徴。元々、光依存性抵抗素子(CdS)に豆電球の光を当てて、豆電球の光自体の揺らぎに応じて出力信号を変化させよう、というのが、オリジナルの「Uni-Vibe」の仕様で、このアイデアも相当なものなのだけど、CdSが規制により部品として使えないため、大量のトランジスタで代用しているのだ。その結果、うねりの波形を好きに設定できるという機能が加わったわけだけど、その波形を作る10個のスライダー(写真08)の横には、「この通りにスライダーをセットしたら、Uni-Vibeのゆらぎになるよ」というガイドまで付いている。

アナログエフェクターが面白いのは、この「Nuvibe」を見ても分かるように、とてつもなくすごいアイデアと技術をつぎ込んで、しかしユーザーは、ほぼ考えずに、そのアイデアを利用できるということ。トランジスタ79個で何をしているのか知らなくても、「INTENSITY」つまみを右に回せば揺れが深くなり、「SPEED」つまみを右に回せば、揺れが速くなる、ということはすぐに分かる。左のボタンを踏めば、揺れかうねりかが選択できるのも分かる。そして、スライダーを動かして波形を作るのも分かる。だから、とにかくギターをつないで弾いてみて、エフェクトのかかり具合や音色を確認したら、後は、どんな曲のどんな場面で、どんな風に使うかを考えるだけ。使う側からすると、とてもシンプルなのだ。

例えば、この「Nuvibe」の場合、本体右のボタンがエフェクトのオン/オフになっていて、オフにすると、完全にエフェクターの影響がない音が出るようになっている。ところが、付属のペダル(写真09)を完全に踵側に踏むと、エフェクトはかからない状態になるけれど、バッファアンプとしての機能が残る。オリジナルの「Uni-Vibe」がそうだったように、そのバッファアンプ機能を通した音の、エッジが取れた丸い、でもどこか攻撃的に歪むサウンドは、これがまた独特と云うか、アナログならではの音が出ているのだ。こんなに凝った仕様にも関わらず、操作はボタンを踏むか、ペダルを踏むかの選択だけ。使う側は、ほとんど頭を使う必要がないのだ。

そもそも、エフェクターは、「こういう音が出るもの作りましたから、好きに使って」という道具。それがエフェクターの数だけあって、それぞれ「それを使う以外では出ない音」が出る。その頂点みたいなのが「Nuvibe」で、確かに、これでしか出ない音が出る。それは筆者のようなへっぽこアマチュアギタリストにさえ分かる「特別」(写真10)。

愛用のギターは、Nuvibeより安いのだが、そのNuvibeをつなぐことで、簡単にリッチな音が出てしまう。コーラスと云うエフェクターは、元々、痩せた音をどうにかするための道具だったりもするので、音が太く、芯がしっかりした音になるのは分かるのだけど、それにしても、ギター自体の性能がアップしたような音が出る、というのはすごい。
それは、例えば、Nuvibeの後ろにディストーションをつないで、Nuvibeのペダルを思い切り踵側に踏んで(つまり、バッファのみの状態にして)、その音をディストーションで歪ませると、比較的簡単に70年代ハードロックの匂いになるということでもある。ディストーションをかけて歪ませた音をNuvibeに突っ込んで揺らすと、音の空間が大きく揺さぶられて、思わずアメリカ国歌を弾いてみたくなったりして、このNuvibeを、エフェクターのどこに加えるかで、大きく印象が変わるのが、堪らなく面白い。

歯切れが良い音ではなく、ややもっさりと重い音が得意なエフェクターなので、音が古くさいと思う人も多いだろうけれど、その古くささが、今、デジタルで再現するのがとても面倒な音だったりして、また、このギターの音を入れたからといって音楽全体が古くなるわけでもなく、確実に言えるのは、これでしか出せない音があって、これでしか弾けないフレーズがあって、これがあれば思いつくアイデアもあるということ。

ニッチと言えばとことんニッチな製品だけど、「これにしかできないこと」がある製品は強い。そして、それを販売しようと決断できるメーカーは、同じように強いと思う。需要がある場所に、その場所に相応しいデザインとインターフェイスで届ける、というスタイルは、多分、エフェクター市場が一番なのではないかと思っている。Nuvibe、この仕様で、でもちゃんと電池で動く(写真11)のも、ユーザーのこと考えてるなあと思うのだ。

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▲写真8:うねりの波形を作るコントローラー。つまみ部分がLEDになっていて、うねりや揺れの速度に合わせて光が流れるようになっている。(クリックで拡大)



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▲写真9:付属のペダルの踵側には「CANCEL」の文字がある。この部分をかかとで踏み込むと、バッファアンプの機能は残したまま、エフェクトのみがキャンセルされる。(クリックで拡大)



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▲写真10:背面パネルには、オリジナルの「Uni-Vibe」を開発し、この「Nuvibe」を監修したエンジニアのイラストの刻印まである。この特別感溢れる仕様が堪らない。(クリックで拡大)



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▲写真11:単3乾電池6本で動作する。エフェクターに多い006Pでなく、どこででも手に入る単3電池で動くのも嬉しい。(クリックで拡大)










 



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