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▲写真1:「ファンタジーロア」。製作Xpec社(台湾)、発行ホリゾンリンク。無料(アプリ内購入あり)。(クリックで拡大)


今、気になるプロダクト その34
モバイルゲームのゲーム性を考える
「ファンタジーロア」をめぐって

納富廉邦
フリーライター。デザイン、文具、家電、パソコン、デジカメ、革小物、万年筆といったモノに対するレビューや選び方、使いこなしなどを中心に執筆。「All About」「GoodsPress」「Get Navi」「Real Design」「GQ Japan」「モノ・マガジン」「日経 おとなのOFF」など多くの雑誌やメディアに寄稿。

●ソーシャルゲームとは?

実のところ、ソーシャルゲームが大ヒットと言われてもピンと来ないのだ。少なくとも、私の周囲でその手のゲームをやっている人はまったくいない。パソコンで遊ぶ「艦これ」は、結構な数の友人が嵌まっているが、モバイル端末を使った、ガチャ系のカードなどを集めるタイプのゲームや、「パズドラ」などは、どこで流行しているのかがさっぱり分からないくらい、まったく別の世界の話なのだ。

少し調べてみて、少し遊んでみても、やっぱりよく分からない。というか、あれはゲームなのだろうか、とか思ってしまう。かつて、私も、テトリスやぷよぷよ、上海といった、思考停止型のパズルゲームに嵌まったことはあるのだけど、あれは、何というか、その反復の気持ち良さと、努力が如実に結果に表れる面白さのバランスが絶妙だった。そして、それなりに上手くなるには時間も努力も必要なくらいには難しかったりもした。

だから、その「ゲーム性の低さ」に驚いていたのだけれど、多分、ゲームにあまり触れてこなかった人に向けた「ゲームのようなもの」が、時間潰しとして適当だったのだろう。そんな風に納得していた。だから、いつか、それはゲーム性を高めたものと、もっとゲームから離れるものとに分かれていくのだろうと考えていた。どこで流行しているのかは分からないままに(高校生の息子に聞いても、ほとんど誰もやってないと言うし)。

●Xpec社「ファンタジーロア」というゲーム

そういうことを考えていた頃、「ファンタジーロア」というモバイルゲームが発表された(写真01)。製作は台湾のゲームメーカーであるXpec社(写真02)。かなりハードな、ガッツリ作り込んだゲームを多数作っている会社が作るモバイルゲーム、というのは、今後のモバイルゲームの1つの方向性であることは確か。デモ画面などを見ると、ほとんどプレイステーション3の格闘ゲームのようだ。だからといって、いきなり、いわゆる「ゲーム」になっていると、それまでのモバイルゲームのファンはついてこないだろう。そのあたりの話も含め、台北のXpec本社に話を聞きに行ったので、今回は、そこで聞いた話を中心に、モバイルゲームというコンテンツについて考えてみようと思うのだ。

Xpec社は、2000年に創業したゲーム会社で、当初からコンソールゲームを作る会社として始まっている。その最初から、アメリカや日本と組んでゲームを製作しているのは、やはりゲーム人口も少ない台湾市場だけでは商売が成立しないからだろう。2004年のナムコと組んだPSPのアクションゲームで日本のゲームメーカーに注目されたり、2002年のハンゲーム上でリリースしたWebゲームの「カナン」の大ヒットによるプラットフォームの拡大など、順調に発展している。現在は、アメリカのAAAクラスのゲーム、つまり、「シュレック」「カンフーパンダ」といったハリウッド映画のゲーム化を手がけたり、そのグラフィック部分を担当するなど、大きな市場で戦うゲームメーカーに成長している。

「プラットフォームにこだわらず、出来ることをやっていこうと考えています。逆に、出来ないことは出来ないとハッキリ言います」とファンタジー・ロアのプロデューサーの丁逸塵氏(写真03)。そのXpec社の視点で現在のモバイルゲームを見た時に、やはり現状のサイコロで勝負するタイプのカードゲームには満足出来なかったという。また、ゲームとしてありふれてしまったと感じたそうだ。「そこで考えたのは、従来のカードゲームの敷居の低さを残しながら、もう少しプラスアルファを付け加えたいということでした」と丁氏。

「人は、どうしても成功例にこだわってしまいます。そして模倣が続き、そこに新しい成功例が出てきて、それを打破する。そのサイクルが続いてしまいます」と丁氏は現状を分析。その上で、従来のゲーム以上の複雑なグラフィックを動かすだけの進化を、ハードウェアとしてのスマートフォンが獲得していると判断。カード、つまり2次元の表現から、3D表現が可能になったと考えたという。それには、元々、3Dグラフィックや3Dの複雑なアニメーションをXpec社が得意としていた、ということもあるだろう。すでに、操作感と物語性に加えて3D表現を導入した「チェインクロニクル」や、シミュレーションゲーム的な要素を取り入れた「ダークサマナー」など、単なるカードゲームを越えた、新しいスタイルのゲームが登場してきている。ファンタジーロアも、その流れの中で、「爽快感を伴う操作と表現を広げる3D技術を重視しました」(丁氏)という方向でのゲーム製作を行っている。

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▲写真2:Xpec社の受付。台北の中央にオフィスを構える。日本語ができるスタッフも多く、かなり自由なムードでゲーム製作が進められていた。(クリックで拡大)


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▲写真3:「ファンタジーロア」のプロデューサーの丁逸塵氏。話の端々に、ゲームへの愛が感じられた。(クリックで拡大)














●欧米寄りのムードを保ちつつ、日本的デザインを模索

実際に「ファンタジーロア」をプレイしてみると、確かに、その戦闘シーンが圧巻(写真04)。PSPなどの格闘ゲームと比べても遜色ない出来だ。特に、背景の作り込みによる、人物の動きに合わせて見え隠れする背景のリアリティが凄い(写真05)。また、細かいところだが、攻撃のターンが変わる際の、視点がくるりと動く際の自然さが、ゲームの進行を分かりやすくしていると思う。カードを出してから、攻撃のアニメーションに移行する際のタイムラグの無さも嬉しい。その分、章変わりのローディングは長いのだが、メモリに余裕があれば、全体をあらかじめダウンロードしておくことで、ロード時間を大幅に短縮できる。そのあたりも、PSPのゲームなどに似ている。

ゲームに華美なグラフィックは必要なのか、という議論は、ファミコンなどの家庭用ゲーム機から、次世代機と呼ばれたプレイステーションやサターンといった機器へと移行する時代には、頻繁に行われていた。ドラゴンクエストが面白かったのは、8ビットのシンプルなグラフィックが、想像力をかき立てるからで、中途半端なリアルは、かえってゲームの面白さを損ねる、という言説は、それなりに説得力があった。グラフィックは綺麗でも、ゲームとしてはつまらないタイトルが多かったことも、その論の正当性を支えた。ただ、その言説は、今となってはあまり有効ではない。そのくらい、最先端のゲームのグラフィックのレベルは向上している。それができる以上、そして、それに見慣れてしまった以上、今更、グラフィックの質はゲームの面白さとは無関係とは言えないだろう。

特に、Xpec社のように、現在のモバイル系カードゲームのメインユーザーであるライトユーザー層と、従来からのゲームユーザー層の中間を狙う場合、ゲームの満足感を手軽に味わってもらうための要素として、高度なグラフィック表現は必須。そこから本格的なゲームへとユーザーを誘導するためにも、現在の技術を見せる事は重要だろう。既に、その方向のモバイルゲームも登場してきている。そこで差別化するために必要なのは、3Dグラフィック以前に、キャタクターの造形と、ゲーム全体の世界観。「ファンタジーロア」の場合、メインとなるキャラクターのグラフィックを見て分かるように、ダークファンタジー風の世界(写真06)に設定されているが、ここに落ち着くまでにも、時間をかけ、何度も試作を重ねたそうだ。

「欧米寄りのリアルなムードを保ちつつ、日本市場で成功するデザインを模索しました」と丁氏。ファンタジーSFから萌えまでの幅の中で、リアリティが高いものをメインにしながら、幅を持たせる事で、カードの枚数が要求されるモバイルゲームの世界に対応させる、というスタイルを取っている。「ペンタッチは日本風で、カラーリングを欧米風にして、ダークファンタジーのムードに統一していきました」と丁氏が言うように、アニメ的な表現と、欧米の懐かしいSF雑誌のイラストのような世界が上手く融合したスタイル(写真07)になっていると思う。

「とにかくこだわって作った40数枚のメインキャラクターのグラフィックは、日本の有名イラストレーターにも依頼して、絶対に譲れない世界観を支えるものにしています。それ以外のカードは、やや幅を持たせて作っています」と丁氏が言うように、確かに、メインのカードのグラフィック(写真08)は、その日本風のタッチと欧米風のカラーリングの融合が絶妙。ただ、ここに辿り着くまでには、かなりの試行錯誤があったようで、見せていただいた資料にあった初期のグラフィックは、かなりアニメっぽい絵柄だった。3Dのアクションシーンをカッコ良く見せるには、ある程度のリアリティが必要だし、キャラクターの分かりやすさ、覚えやすさには、アニメ風のタッチが強い。その間の調整の過程は面白く、それは、そのまま現在のモバイルゲームの位置付けを表しているように思った。

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▲写真4:良く動く3Dアニメーションは、レンダリングも丁寧で、スマホの画面からでもその技術の高さが窺える。(クリックで拡大)



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▲写真5:通常の戦闘シーン。アクションと連動する視点の移動がスムーズで、遊んでいても疲れにくい。(クリックで拡大)



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▲写真6:暗めのヒロイックファンタジーというか、絵画のタッチを活かして、ダークファンタジーのムードを表現。(クリックで拡大)





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▲写真7:欧米風の剣と魔法の世界を基調にしながら、キャラクターには日本のアニメ風のタッチを活かしている。リアルと萌えの融合は、日本のSF読者にはむしろ馴染み深いものとも言える。(クリックで拡大)



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▲写真8:社内の壁面にズラリと貼られた、コアとなるメイングラフィック。ダークファンタジーと萌えのバランスは、このグラフィック群が規定する。(クリックで拡大)










●スマホで縦持ちでプレイする

演出面で面白かったのは、モバイルゲームの遊ばれ方が電車の中などの少しの時間であり、だから縦持ちの方が支持される、という中で、グラフィックが映える横持ちではなく縦持ちの画面を選択、その中で3D表現を考えた、という部分。いわゆる携帯ゲーム機の画面は通常、横画面なのだけれど、スマートフォンをプラットフォームにした時は縦持ちになるというのは、つまり、モバイルゲームの進化の最初が、縦持ちの落ちモノ系パズルゲームからだったということだ。テトリス、ぷよぷよなどの系列。そこに参入する場合、ロールプレイングゲーム的なものであっても縦画面が標準になる。

そのことで、例えば必殺技は、ジャンプして切り掛かる的なものになるし(写真09)、連続攻撃によって敵がどんどん浮き上がる、という演出も生まれている。また、この相手を浮き上がらせる攻撃に対して、より長くコンボを続けようとすると、カードを出すタイミングがシビアになり、アクションゲーム的な要素も入れている。「シンプルな操作で敷居は低くして、中で、よりゲームを楽しもうと思うと、練習次第で高度なこともできる、というバランスを考えています」(丁氏)。

今後、現在のカードゲーム的なモバイルゲームが、どういう方向に向かうのか、ゲームユーザーとカジュアルユーザーの二極化に進んでいくのか、それは分からない。ただ、このXpec社の「ファンタジーロア」のように、ゲームを作り続けてきたメーカーからのアプローチは、ゲームというジャンルへの愛とビジネスとしてのシビアさの両面が引き合っていて、今しか遊べない面白さを含んでいる。そして、グラフィックデザインが、これだけゲームの中心要素になっているのも、現在ならではの特色(写真10)。それを見るのも、また面白いと思うのだ。

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▲写真9:縦の構図を活かした画面デザインと、キャラクターの動き。これからのポータブルゲームは、縦構図が当たり前になるのかもしれない。(クリックで拡大)



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▲写真10:演出やアニメーションも、縦の画面で作る。縦構図のエンターテインメントというのは、これまで日本ではあまり類を見ない。(クリックで拡大)









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