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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第157回 鈴木佑輔/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●はじめに

お笑い芸人、工務店、設計事務所勤務を経て、2024年5月に独立しました。現在、鈴木佑輔建築設計事務所として活動を行っています。日々私の頭の中にある考えを、なるべく明確な言葉で綴りたいと思います

●建築への想い

私は高校在学時より建築を学びました。その時の教育は正しく建築を作り上げるための方法論であり、建築そのものの意味について考えたことはありませんでした。建築とは無駄を省き、四角を並べて積み上げる仕事であるとすら思っていました。

自分にとっての転機は21歳の時、スペインでサグラダファミリアを訪れたことであり、その時の呆気に取られた自分を今でも覚えています。何よりも、自由であると感じました。形、光、色が溢れ出していて、設計者本人が亡くなった後もつくられ続け、建設中であるのに人が訪れ、光と空間の中に包まれている情景は、自分に対して建築の意味を予感させました。

また、同時進行でお笑い芸人としての活動を進めていた私は、建築には進まずお笑い芸人としての道を選びました。笑いもまた不思議な現象であり、明確な合図があるわけでもないのに、客席から笑いが起こります。誰もが感じ方が違うはずなのにその場にいる人たちが同じ感情を共有し、笑いという現象になって現れる体験は、今思えば私が建築へ想うことの一部になっていると感じます。

明確な言葉の前に少し私の大きな想いについてお話ししたいと思います。

人類が生み出した「便利」は、AIをつくりだすまでに発展しました。私は近い未来の中で、人類は情報だけの存在になり、生命としての本来の使命を失うと考えています。

仮にそうなった時、そうなる前に私たちに何ができるのか。私は、人類にのみつくり得るであろう未来を想像したい。人は自然の中から生まれ、自然の一部でありながらも自然を客観視することのできる唯一の生命体だと思っています。

自分以外の人、動物、それから海や風までを大きな1つの流れ(自然)と仮定した時に、それらすべてが心地よく渾然一体と存在する世界をみてみたい。きっとそれは私たちが感じる力を持っていて、生命としての使命を客観視できるようになった今だからこそできること。

そして今私たちは大きな岐路に立っているのであると思います。私は建築を通じて私たちが持っている感覚を伸びやかにして、私たちが存在する理由を追い求めたい。

●気づき

想いを持って実際のプロジェクトを考え進めていく中で、いくつかの重なった気づきがあり、それらを3つにまとめます。

・すべては相互作用であるということ
重くて硬い壁を押して、ビクともしなかった。一見何の力も働かなかったかのように見えて、壁は私たちを押し返して、私たちは押し返されています。たくさんの情報、そして便利が得られるようになった現代では、さも個としての生命、振る舞いによって完結されているかと勘違いを起こしてしまいます。

息をすること、食べること、そして死んでいくこと。すべては相互作用を起こします。行き場のないひとかたまりを避け、つながり、広がっていく場所をつくります。同時に大切にしているのは、それぞれにいきいきとする個をつくること。それらがつながったとき、単なる集合を超えた大きな全体になることです。

・場所の根源的な力と対話すること
地球を宇宙から見た時、これほどの多様性に誰が気づくでしょうか。地形、環境から始まる多様性はその地に住む人の気質をつくり、町並み、産業に発展していきます。

私たちはこれらの地域の固有性が十分に建築に反映されるよう努めます。自然に触れ、まちを歩き回り、人の声を聞きます。そうして場所に根付くような建築を目指します。同時にその建築ができることによって場所が本来持つ根源的な力を拡張するような作用を目指しています。

目に映るものだけが地域の固有性とは限りません。今現在は表出しておらず知覚することが難しい根源的な場所の力についても感じ取り、建築が存在することによって多くの人々がそれらを感じ、共有し、よりその地域と建築に親しみを持てるような場所をつくります。

・振る舞いに寄り添うこと
作り上げた建築から生命の振る舞いがはみ出すような建築を考えます。建築が振る舞いを制限してはいけません。かといって無責任に余白をつくることも建設的とは言えません。

私たちにとって振る舞いに寄り添うこととは、その建築に訪れるものにとって、最も本質的な願いを見つけ出すこと。ふとした瞬間に、今その場にいることの喜びを感じられること。


▲「蒲生四丁目の家」 集合住宅の改修。設計者自邸。大きなワンルームを高さ1.8mの可動式家具で間仕切り、その隙間は開放し子供でも開け閉めできるカーテンを設えている。RCで区画された住戸の中であっても生活の相互作用を意識し、体の大きさに馴染んだ仕切りを能動的に変化させることが家族の記憶の一部となるような場所を考えた。Ph:TAKAHASHI Kai(mapo.)。(クリックで拡大)









▲「avantgarde」 サロン店舗の改修。さまざまな対話を重ねる中で、訪れる顧客にとってオーナーの存在感が1つの大きな安心感になっていると考えた。はっきりと存在するが僅かに流動していく。という人柄や振る舞いを空間に反映することがこの場にとって必要なことであると感じた。サロンとしての動線の中で空間、色が常に変容していき、いつ来ても表情の異なる流動的な空間を考えた。Ph:Haruka Oka。(クリックで拡大)




(クリックで拡大)

 

●おわりに

今回の機会をいただいたタイミングで、過去のコラムもたくさん読ませていただきました。書き記されたような意欲が世界の行末をより豊かなものに変えていくことを願います。最後となりましたがこのような機会をいただけましたこと、また最後まで読んでいただきありがとうございました



鈴木佑輔(Yusuke Suzuki)
:1994年三重県生まれ。2014年~2019年吉本興業にて芸人として活動。2019年~2021年アートテラスホーム株式会社。2021年~2024年芦澤竜一建築設計事務所。2024年鈴木佑輔建築設計事務所設立。
https://yusuke-suzuki.com


2025年6月20日更新。次回は倉増音さんの予定です。

 


 


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