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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第137回 大坪良樹/建築家

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





ueo一級建築士事務所の大坪良樹と申します。大阪の岸和田で、パートナーである上田満盛と2人で活動しています。上田(ウエダ)と大坪(オオツボ)で、ueo(ウエオ)です。

●凸凹コンビへの期待/トムとジェリー

独立してから「(見た目が)おもしろいふたりですね」とよく言われます。私は165cm80kg、相方の上田は185cm70kgと、私たちは絵に描いたような凸凹コンビなのです。

いろいろな凸凹コンビとそれにまつわる話がありますが、例えばトムとジェリーに「SLEEPY-TIME TOM」という回があります。夜更かしをしたトム・キャットはとにかく眠たくて、ジェリー・マウスがあの手この手で眠らせようとする、という話です。この回にはトムとジェリーの面白さが詰まっています。ジェリーが食パンに布をかけて枕のようにしてキッチンを寝室に見立てたり。眠たそうなトムのまぶたを上下窓のように閉めたり。眠気覚ましのコーヒーを飲み干したポッドをトムが帽子のように被ったり (fig.1)。つまりあれは、(人間的な認識で)ネコとネズミのスケールを交互に横断しながら行われる、モノや空間の形態的な連想の応酬が面白いわけです。

私たちに彼らほどの体格差はありませんが、それぞれの持つスケールの経験と認知を面白おかしく飛び越えながら設計をしたいと考えています (fig.2)。建築的な手法によってコミカルに物語が好転していく、そんな期待をさせる凸凹コンビでありたいです。



▲fig.1:トムとジェリーの見立て・形態的な連想。(クリックで拡大)





▲fig.2:滋賀に計画した「袋小路の家」建築と家具の境を曖昧にする階段と大机、日常的な居場所となるサンルームのような階段室。(クリックで拡大)







●だんじり祭りとコーナーガード

私は岸和田に引っ越してきたばかりで、このコラムの執筆中は、まだだんじり祭りを経験できていません。ちょうど準備が進めらている時期です。電信柱間に提灯が吊るされていたり、練習中のお囃子が聞こえるようになりました。ある日、商店街の曲がり角に赤白ストライプのこんもりとしたものが現れました (fig.3)。これはだんじりのやりまわし(コーナーを勢いよく曲がる)から建物を守るための手作りのコーナーガードです。

これは面白いなと思いました。ある問題に対して、そこにないものを想像しながら計画し、素材を選び空間的な処置を施し、特定のコミュニティにおいて時間を超えて共有できる。それはとても建築的な行為です。建築史家イアン・ボーデンが、スケートボーディングが身体を通じで行われる社会や都市空間への言葉なき批評であると指摘した(*1)ように、岸和田の人々は年に一度だんじり祭りを通して、曲がり角や電柱のようなありふれた物に(祭事的な)意味を与えながら、都市空間の使い手が一体誰なのかを確かめているのではないでしょうか。

その土地特有の、野生の建築/都市的な構造の中に自身も組み込まれながら、そしてまた建築という形でこの街に還元したいと考えています。戦略的にこの街に越してきたわけではありませんが、随分面白い場所に事務所を構えることになりました。



fig.3:岸和田の曲がり角にあらわれたコーナーガード。(クリックで拡大)










●ある古墳の切断面を見て思うこと

私の生まれは大阪府豊中市で、北部全体を指して北摂といわれる地域になります。千里丘陵の斜面地を残す、緑豊かなベッドタウンです。あまり知られていませんが、豊中には桜塚古墳群という史跡があります。

その内の御獅子塚古墳は、その一部を道路に削り取られています。面白いのは、削り取られた部分の擁壁の形がそのまま古墳の断面の形を模していることです (fig.4)。教科書的に眺めていた古墳が、途端に体感的で実際的なものへとなるのです。

これは建築や都市を豊かにすると(と思われる)サンプルのごくごく一部です。建築家の宮本佳明はこのような風景を「環境ノイズエレメント」と、御獅子塚古墳のような状態を「オツクリ(cut off)」とすでに定義(*2)しています。御獅子塚古墳は完全な形での保存されてはいませんが、都市の暴力的な本性も宿しながら、同時にある種の文化財としてのひとつの表現を獲得した生きた史跡のように感じます。



▲fig.4:道路によって切断された御獅子塚古墳の断面。(クリックで拡大)











●田辺の和菓子屋/明るいグレーゾーン

進行中のプロジェクトの話をしたいと思います。大阪市内、地下鉄谷町線田辺駅から徒歩0分の場所で、20㎡ほどの小さな和菓子屋の改修を計画しています。内装はほぼ居抜きで外装の計画がメインとなる物件です。

田辺駅前は3本の道路の交差点になっていて、建物はカットされたケーキのような形(fig.5)で、そこからさらに鋭角が隅切りされて3面が歩道に面しています。こうして見ると都市に引かれた線の多くは、より上位の計画からのオフセットであることが分かります。この3面合わせた間口の広さに対して、外周をまわる約11mの長いベンチを計画しました。このベンチもまた外壁から外側への、また交差点から内側へのオフセットです。建物に取り付いているようにも歩道から生えているようにも見えるものを目指しました(fig.6)。

建物の規模で見ればこのベンチは長過ぎるのですが、その冗長的な部分が公私の境界に揺らぎのある明るいグレーゾーンをつくることを意図しています。それを示すように、このベンチに最初に座ったのはホームレスの方でした。小さな建築が公園や広場のような公共的な場所に近づいた瞬間を目の当たりにした気がしました。



▲fig.5:地下鉄田辺駅前の交差点。(クリックで拡大)






▲fig.6:田辺の和菓子屋/外周にまわる長いベンチ。(クリックで拡大)







最後に、アニメーションもだんじり祭りも古墳もあらゆるものが建築的で、そこにある世界を豊かにする構造を明らかにして建築へ計画的に内在させること、それは建築家として自身の役割だと思っています。



*1 イアン・ボーデン・著 齋藤雅子/矢部恒彦/中川美穂・訳『スケートボーディング、空間、都市―身体と建築』(新曜社 2006年)
*2 宮本佳明・編著『環境ノイズを読み、風景をつくる。』(彰国社 2007年)




大坪良樹(Yoshiki Otsubo):1992年大阪府豊中市生まれ。大阪市立大学(現・大阪公立大学)大学院都市系専攻建築学分野卒。siinari建築設計事務所(現YAP)を経て、パートナーの上田満盛とueo一級建築士事務所を設立。
https://www.ueo-arch.com/




2023年9月25日更新。次回は浦田友博さんの予定です



 


 


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