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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第136回 竹村優里佳/建築家(Yurica Design & Architecture)

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





初めまして、竹村優里佳と申します。建築家として活動をして7年目となり、これまではラグジュアリーホテルの設計や美術大学の女子寮の設計に携わってきました。自身のデザインファームを立ち上げてから最初のプロジェクトとして2025年の大阪・関西万博におけるトイレの設計があります。

また、奈良とイスラエルの2拠点での建築活動に挑戦し始めたところです。以下に建築設計において考えてきたことやこれから挑戦したいことなどをご紹介できたらなと思います。

●建築のもつ可能性-歴史と人々それらをつなぐ建築とテクノロジー

将来何になりたいか、漠然と考えた時に選んだのが建築家でした。私にとっての”建築”は物心がついたときから2つの側面がありました。
1. 人間のもつ時間を超えた存在で、時に人間の関係さえも紡いでいける場所であること
2. 体験すること/居ることで人間に対してインスピレーションを与える場であること

これらの思考に至ったのは幼少期から育った生家の存在です。両親、祖父母、祖々父母そして我々孫の世代まで1つの家に住みながらも、それぞれのプライバシーを確保し共同生活を続けてきました。共同のリビングがあり、そこに帰るといつも誰かがいて、知らず知らずのうちに世代を超えた家族全員に育てられました。今ではそこに弟夫婦とその子供、時に我々夫婦とその子供も加わります。

いわゆる4世帯住宅で育った経験から、人の関係性をつなぎ、紡いでいくには建築という存在が欠かせないものの1つであることを学びました。全員が居心地よく暮らせるためには部屋の配置や構成を工夫する必要があるからです。

また、建築も世代を重ねる変化に追従して増改築が加えられます。私の生きている間だけでも4回ほど建築が変わっています(古くからの母屋と離れのうち、離れをRC造に建て替えて連結し直す。昔使っていた玄関は中庭の入口になり、新たな玄関とリビングができていたり、祖々母が営む商店の店じまいをきっかけに改修を行ったり…)。

これらの世代を超えて受け継がれていく”家”の中には、祖々父の書いた俳句の本や祖父母が世界中で集めた骨董品や美術品、生まれる前からあったであろう蔵、庭のモチノキ、そしてのその横にある庭石…などさまざまな感性を受け継ぐものが物質的にも残され、新しいものと混じり合っていきます。これらの”家”にまつわる原体験は自身の建築について考え、いつもインスピレーションを与えてくれる存在です。

人々が生きるための場所として建築があること、そしてその建築をコーディネートすることで人間自体も変化していけること。このような人間の歴史やその人ごとに求められる空間は、場所やそこに住む人とその関係性によっても違っていて、圧倒的な固有解が必要です。

建築家としてその固有解をいかに見つけることができるか、大量生産のためではなく固有解のためにテクノロジーの力も借りればどんなことができるか。歴史、場所、人間、人間関係のやり取りは1つの共同体であり社会であり、長期的に続けば文化にもなり得ます。これらをうまくつなぐ潤滑油のような存在として建築があり、そんな建築をつくっていきたいと考えています。

●最近のプロジェクトについて-大阪・関西万博での取組み



▲大阪・関西万博におけるトイレの設計のプロジェクト(トイレ2)。(クリックで拡大)






▲万博会場における敷地。(クリックで拡大)







2025年の大阪・関西万博において若手建築家優秀提案者20組に選出され、現在2025年の万博会期に向けて設計を進めています。コンペがあったのは2022年なのでかなりロングスパンのプロジェクトです。コンペで選出された後も定期的に会場全体プロデューサーの藤本壮介氏、忽那裕樹氏と打ち合わせを行い、完成に向けて励んでいます。
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20221012-01/

ここでは日本の伝統的な石場建工法にみられるような石をそのままで扱い、その力を建築空間全体に拡張していけるような空間としました。すべての自然物に霊魂が宿るとされるアミニズム信仰のある日本では、石をそのまま神様として祀っていたり(磐座)、伊勢神宮などにおいても古来より石をそのまま束として建築物が上に乗っかっています。
また古墳の文化の残る日本において、考古学の文脈では長期的に使われ続ける石は誰かによって加工されたことを忘れてしまった上で、過去に切り出された石を自然物と同じように信仰する文化も残っています(例えば飛鳥石舞台古墳などはその一例)。



飛鳥石舞台古墳:7世紀初めころ築造。総重量約2300トン、30数個の岩からなる。(クリックで拡大)










近世においてはこれらの石の力を権力の象徴として用い、数々のお城の城壁として巨石の石積みが行われてきました。今回の大阪・関西万博ではこれらの石を長期的な文脈を踏まえて現代的に解釈・再定義し、歴史を人間に呼び起こす空間装置として位置付けています。テクニカルな部分では、石を建築に取り入れる手法として3DスキャンやNCルーターのよる3次元的な掘削技術を用いて、建築と石をよりシームレスかつ合理的に接合しています。

産業革命以降、現代の我々の社会では工業製品に囲まれた空間が主軸となっていますが、「石」という人間の計り知れない存在、そして人間よりはるかに世代を超えた存在を取り込み、対峙できる空間をつくることで我々人間に数多くのインスピレーションを与える空間となることを目指しています。また、これらの石は会期終了後も、元の場所に戻しさらに別の用途としても利用することを前提に、石と人間の手の加わった建築がさらに次の世代へと残されていくこと想定しています(プロジェクトの進捗はInstagramにて随時更新)。

●今後について-イスラエルと日本での挑戦

人々やその歴史にまつわる空間を建築とそしてテクノロジーを用いて実現していくことは、より人間が人間らしくいられる空間を目指すことにつながると考えています。
「現代の画像の文化においては私たちの眼差しそのものまでもが平坦化された」(ユハニ・パッラスマー著『建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学』より)。

この言葉にもあるよう、現代社会ではあまりに視覚に依存しすぎているように感じています。写真や動画には写りきらないけれど、その物質の肌理やひんやりとした温度、触ると変形するか否か…さまざまな五感や思考に訴えかける要素は数多く存在しています。

テクノロジー先進国であるイスラエルにおいて、それらの感覚をより空間へフィードバックできる技術をリサーチするとともに、紀元前30年という遥か昔から存在するエルサレムという歴史ある都市、これらの環境に身を置き、より人間らしくいられる空間、人々にインスピレーションを与える空間のための新たな建築の可能性を模索していきたいと考えています。

当面は主拠点をイスラエルの首都、Tel-Avivとしながらも、数ヶ月に1回は日本に帰り、日本とイスラエルの両方のプロジェクトを進めていけるよう奮闘中です。イスラエルにお越しの際は是非ご連絡ください。



▲歴史の刻まれるエルサレム。(クリックで拡大)






▲現代建築の集まるテルアヴィブ。地中海沿いに人々が住まい、夕方になると平日でも多くの家族連れであふれる。(クリックで拡大)










竹村優里佳(Yurika Takemura):奈良県出身。一級建築士。Yurica Design & Architecture主催。立命館大学大学院環境都市デザイン学科卒。奈良と海外(イスラエル)を両拠点に設計活動を展開。大阪・関西万博若手建築家優秀若手提案者20組に選出(2022年)、淡河本陣リノベーションデザインコンペ最優秀賞(2017年)、日本建築学会設計協議優秀賞受賞(2018年)他多数。万博の設計では小林広美、大野宏と協働。プロジェクトごとにチームを組みフレキシブルに活動を行う。
https://www.yuricadesign.com/




2023年8月22日更新。次回は大坪良樹さんの予定です



 


 


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