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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第130回 池田美祐/プロダクトデザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。





●キャリアとデザインユニット結成

工場でエンジニアをしていた父に、幼い時にドライバーセットをもらったのをきっかけに、いろいろと身近なものを分解したりしていたが、この頃からものづくりに興味を抱き始めた気がする。

中学生になり携帯電話を持ち始めたときは、2000年始めのデザイン携帯がもっとも盛り上がっていた時期と重なり、デザインとは縁のない田舎の一般家庭で育った僕にとっては、初めてのプロダクトデザインという職能への出会いであった。

美術大学を卒業後、デザイン事務所に勤務しながら、パートナーの倉島拓人とM&Tとして活動を始めて4年目になる。 職場の先輩であった倉島に、一緒に展示会に出さないかと誘われたのをきっかけにM&Tとして自主発表をはじめ、徐々にクライアントから依頼をいただくようになった


▲2019年、M&Tとして初めての展示会「Imbalanced balance」。Ph:Tomohiko Ogihara。(クリックで拡大)







●初めての依頼

2021年にM&Tとして初めてのクライアントワークと呼べるプロジェクトが始まった。全国に展開するインテリアショップのアクタスが新たに立ち上げる、ミレニアル世代をターゲットとしたブランドからのデザイン依頼だった。

まずはどんなものをつくるかというところから議論を始め、ファーストプロダクトということもあり、ブランドメッセージを伝えやすい椅子やテーブルをシリーズでデザインすることになった。

具体的なデザインの作業を始める前にプロダクトのコンセプトが必要だと考え、我々は「80%」というコンセプトを提案した。自分自身や周りの人の生活環境を見回して、都内の1Kや1LDKの部屋に対し、80%のサイズ感の家具があれば、空間に対し20%の余白がうまれるのではないかという考えからだった。

コンセプトを考えるにあたり、ヒントとなったのは「軽自動車」だった。元々外国から輸入されてきた、いわゆる「乗用車」に対して国土の小さな日本人は軽自動車を発明した。乗用車よりは少し狭いが日常の道具としては十分。また、そのデフォルメされた姿は漫画から飛び出した車のようでもあり、なんともかわいらしく、海外からも「kei」と呼ばれ輸出されるほどである。


▲コンセプトの参考にした軽自動車の代表例「ホンダ シティ」。(クリックで拡大)








これらのコンセプトを軸に3本脚の椅子や、60×60cmというカフェテーブル程度のサイズ間の家具を「Per」というシリーズで展開した。この80%という考え方は家具のサイズ感というフィジカルな意味合いだけでない、良い意味での拡大解釈をしてもらい、最終的には「good eighty%」というブランド名にも採用された。

製造は佐賀県にある木工家具メーカー平田椅子に手がけていただき、贅沢に無垢のアッシュ材を削り出して作った家具は、近年多く見られる安価な組み立て式の家具とは異なり、生活環境が変わっても長い期間使われる家具になることを目指した。現在はオンラインサイトのみでの展開であるが、定期的に展示会も行っており、現在も新たな製品開発を続けている。


▲ACTUSの「good eighty%」ブランドによる「Per」シリーズ(2022年)。 Ph:Shinsui Ohara。(クリックで拡大)








●デザインの社会実装

2021年末に青森県の企業からリンゴジュースなどの絞りカスを活用して素材から製品まで作れないかという依頼を受けた。それは同年に我々が発表したL.F.M.という作品を見ていただいたのがきっかけだった。

L.F.M.はLeather fiber moldingの略で、革の製造工程で厚みを揃えたり、用途に応じて厚みを調節する際に排出される床革の削りカスを立体成型した新しい成型方法の提案と、それを活用したプロダクト群のことである。


▲2021年「L.F.M.シリーズ」。Ph:Ayaka Endo。(クリックで拡大)








リサーチを行う中で、青森県のJAでは残渣を乾燥させた状態で保存していることが分かった。それを原料とした素材を「ADAM」と名づけた。素材だけで見せるよりも、具体的な形状を与えた方が活用されるシーンが想像しやすいのではないかという考えから家具をデザインし、「SOZAI CENTER」というブランドで、2022年に青森と東京で発表を行った。

近年、プロダクトデザイナーが自主制作としてマテリアル開発を行う取り組みは見受けられるが、今回はクライアントのビジネスとして量産化させる必要があった。また、デザイナーによる素材実験は発表だけで終わってしまうことも多い。社会実装するということに対してはプロダクトデザイナーとして強い想いがあった。

なんら「ツテ」のない状態で新しい素材をつくる、というリスクの高い要求に対して、すぐに引き受けてくれる工場を探すのは困難を極めたが、1年以上におよぶ地道な工場探しの末、なんとか試作ができるまでに至った。

「ADAM」は壁紙や生地、ボードなど、様々な形態を持った素材として、2023年中の発売を目指してクライアントと伴走している。



▲2022年のADAM展示会より「SOZAI CENTER」。Ph:Tomohiko Ogihara。(クリックで拡大)









池田美祐(Ikeda Miyu):1993年群馬県生まれ。2016年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、2019年より倉島拓人とM&Tを結成。家具、生活用品、インスタレーションなどさまざまなプロジェクトを手掛ける。
http://mandt.design/




2023年1月16日更新。次回は赤木亮介さんの予定です。


※本コラムのバックナンバー

http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
 


 


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