リレーコラム:若手デザイナーの眼差し
第121回 林翔太郎(Vegetable Record:林翔太郎/三上僚太)/デザイナー
このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。
▶ベジタブルレコードの共同代表、所属アーティストでもある林翔太郎(写真左)と三上僚太
●Vegetable Recordについて
ベジタブルレコードは「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル(ユニット)です。
●音楽を使ったデザイン
グラフィック、テキスタイル、ロゴ、建築、照明、ファッション、インテリア、プロダクト、音(サウンド)、Webなど、さまざまなデザインを目にしますが、「音楽(ミュージック)」はデザインの文脈で語られることがまだまだ少ないように感じています。
僕たちは商業空間やプロダクトなど、あらゆる対象を、CDなどと同じ「音楽のメディア」の1つとして捉え、空間やプロダクトに対して音楽作品をリリースするように「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけています。そして、空間やものを構成する重要なデザイン要素として楽曲を捉えた、機能的で美しい音楽を追求しています。
●音楽を使った空間デザイン
流山おおたかの森S・C FLAPSのテラス音楽「Songs for 流山おおたかの森S・C FLAPS」では、シーリングスピーカーからはベースとなる楽曲、テラス各所に設置したスピーカーからは各フロアに合わせた6種類の音楽を再生。フロアを上がるごとに音色の重なりが変化して、テラスを駆け上がるのが楽しくなるような、建物や場所の特性を活かした音楽を作りました。
▲流山おおたかの森駅前にある商業施設、流山おおたかの森S・C FLAPS。(クリックで拡大)
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▲来館者用の音楽コンセプトボード。(クリックで拡大)
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▲テラスの植栽帯に設置した11台の小型スピーカー(専用の筐体に収納)。(クリックで拡大)
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6種類の楽曲は尺や音色が異なりますが、調性(音楽のキー)は合わせているので、不協和音にはなりません。バラバラの楽曲が混ざり合い、空間で1つの音楽が完成します。複数の音楽を使うことで、空間の楽曲は常に変化し、生き物のように有機的になります。
▲1つの絵画の中で同時にさまざまなことが起きている「一枚絵」のように、さまざまな音楽フレーズが同居しながらその場所の空気感と共存していくような音楽。(クリックで拡大)
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アマネク別府の館内音楽「Songs for AMANEK BEPPU」では、別府の竹細工の緻密な組み合わせや、地獄めぐりの色とりどりの湯から立ち上る湯けむりを音楽で表現。1Fの天井スピーカー、屋上スピーカー、小型スピーカー14台と、合計15曲(バリエーションも含めると合計29曲)を使って「アマネク別府ゆらり」「アマネクイン別府」館内全体を音楽でデザイン・演出しました。
▲別府市にあるホテル、アマネク別府。(クリックで拡大)
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▲レセプション~レストラン~アメニティバイキングがシームレスに広がる1Fの大空間は、シーリングスピーカーと小型スピーカー8台を使用。9種類の楽曲が混ざり合う、音楽を使ったゾーニング。(クリックで拡大)
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▲屋上のインフィニティプール。建物全体を音楽メディアと捉え、1Fから屋上まで、1つの音楽アルバムのように一貫した楽曲でデザイン。(クリックで拡大)
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●音楽を使ったプロダクトデザイン
福井県にある自家焙煎コーヒー豆専門店「COZY COFFEE」とコラボレーションした「Songs for Coffee(音楽付きコーヒー豆)」では、それぞれのコーヒーの味わいから着想を得て楽曲を制作しました。
▲パッケージデザインのような、音楽を使ったプロダクトデザイン。(クリックで拡大)
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▲QRコードを読み込むと音楽が流れる。撮影:COZY COFFEE。(クリックで拡大)
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ジュエリーブランド「januka」とコラボレーションした「Songs for januka(音楽付きブライダルリング)」では、店舗音楽として作った楽曲をベースに、リングのコンセプトや形状、加工方法から着想を得て7種類のバリエーションを仕上げました。
▲「U RIng」は、トレモロ(音量を周期的に上下させる音響機器)を使って、音の揺れをU字に見立てて編集。リング撮影:januka。(クリックで拡大)
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▲「Y RIng」は、イコライザー(音声信号の周波数特性を変更する音響機器)を使って、リングのねじれを表現。リング撮影:januka。(クリックで拡大)
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▲店内音楽も制作。リング購入者には、楽曲のQRコードを配布。撮影:januka。(クリックで拡大)
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●サイトスペシフィック・ミュージック
僕たちは作った音楽を「サイトスペシフィック・ミュージック(特定の場所に存在するために制作された音楽作品)」と呼んでいます。作品はApple MusicやSpotifyでも配信していたり、フリーダウンロード公開もしているので、もちろんどこで聴いても「かっこいいな」「綺麗だな」と思っていただけるように作っていますが、音楽をインストールした空間(プロダクト)でこそ、楽曲がもっとも真価を発揮するように作曲コンセプトを考えています。
▲銭湯の館内音楽「Song for 小杉湯」。銭湯空間の残響を活かして楽曲を制作。(クリックで拡大)
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▲那覇市にあるホテルの室内音楽「Song for STRATA NAHA」。琉球音楽の構造を分解、現代的な楽曲に再構築。撮影:ナカサアンドパートナーズ。(クリックで拡大)
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▲滞在制作した「Song for 伊勢市」。民謡や現地の環境音を音楽の素材として制作。(クリックで拡大)
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見えない環境を豊かにする音楽の力はまだまだ未開拓な部分ばかりです。「図案」が「グラフィックデザイン」に変わったように、「BGM」も「ミュージックデザイン」に変わっていくのではないかと考えています。
Vegetable Record(ベジタブルレコード)
「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた音楽レーベル。ソロアーティストのSyotaro HayashiとRyota Mikamiにより設立。デジタル、商業空間、プロダクトなどあらゆる対象を、CD、カセット、レコードと同じ音楽のメディアとして捉え、建築空間やプロダクトに対して音楽作品をリリースするように「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけています。ワークショップやライブ、インスタレーションも多数開催。
2022年5月23日更新。次回は土屋勇太さんの予定です。
※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag
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