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コラム
イラストリレーコラム:若手デザイナーの眼差し

第105回 仲野耕介/デザイナー

このコラムページでは、若手デザイナーの皆さんの声をどんどん紹介いたします。作品が放つメッセージだけではない、若手デザイナーの想いや目指すところなどを、ご自身の言葉で語っていただきます。




tunnel designというデザイン事務所を、前回のコラムを書いている河上と共同経営している、仲野耕介と申します。空間設計を中心に手がけ、プロダクトや家具も自主制作的に発表しています。

●略歴+考えていたこと

広告やCMが好きでアートディレクターになりたいと思い美大を目指しましたが、深澤直人さんの本や作品と出会ったことで、家具やプロダクトをデザインしたいと思い直して工業デザイン学科に進学、インテリアデザインを専攻しました。

そこで制作などを進めるうちに、流通やインターネット、デジタルファブリケーション技術の発展により双方向できめ細かい情報や物事の交換ができる現代において、デザイナーは発展途上のアイデア提案を社会に投げかけ、ユーザーがそれに手を加えることではじめて完成する、双方向(インタラクティブ)なデザイン、それをデザイナーの職能の枠組みとして拡張できないものか、と考えるようになりました。


●設計事務所勤務~独立

卒業後は設計事務所に2年ほど勤務しました。家具デザイナーを募集していたので応募しましたが、なぜか設計として採用され、いくつかの案件を担当させていただきました。自分はプロダクト志向が強かったので、建築的な手順や発想のスケール感の違いに苦労しましたが、刺激的な日々でした。

またその事務所の特性として、デザインされた要素で目を惹きつつも、未完成ともとれるような余地や、ユーザーが手を加えるきっかけを残すことで、建築家の意図しない新しい要素も許容する包容力を空間にもたせることによって、そこで過ごす人々がより能動的にその空間と関われるような拠り所を提供し、無意識に安心感や居心地の良さを感じさせるような設計の考え方も教えてもらいました。退職後、デザイン事務所を共同設立し、現在は主に空間設計を手掛けつつ、ここ数年は展示会などで家具やプロダクトの提案を発表しています。


●最近の活動

1.3Dプリントとパテ処理による回転体シリーズ「Gete」

「Gete」(写真1、2)は元々、去年のミラノサローネに出展する予定だったのですがコロナの影響で流れ、替わりにと声をかけていただいたDESIGNART TOKYOという展示会に2020年10月に出品しました。



▲「Gate」。(クリックで拡大)



(クリックで拡大)




FDM(熱溶解積層法)式3Dプリンタは扱いが簡単で安価なことから、広く普及しています。しかし、綺麗に出力しようとすると長い時間がかかりながら、積層痕が残るため後処理が必要だったり、時には途中で断層ができて失敗したりと、出力したものが美観も備えた商品としてそのまま成り立つほどの生産性は、まだありません。

本プロジェクトでは、その未完成な出力状態を逆手に取り、綺麗さよりも短時間を優先した設定で粗めに出力したオブジェクトにパテ盛り+研磨を施すことで、断層や積層痕を均しています。この作業は一般的には塗装の下地として使われる工程ですが、本プロジェクトではフィラメントとパテの積層から削り出されるその偶発的な色と柄を工芸品のような表情として肯定的に捉え、仕上げとしました。

工芸品の中でも、市井の人々が使うごく当たり前で安価な品を、商人たちは「下手物(げてもの)」と呼んでいました。美の対象として顧みられることのなかったそれら下手物のなかに、素材や手仕事に根付いたアノニマスで素朴な美を発見し、それこそが本来の工芸品の美のあり方であるべき、と説いたのが、柳宗理らの民藝運動でした。
本プロジェクトは、デジタルファブリケーションの市民的なあり方と、そこに個々人が手作業によって加工をほどこすことで生まれる1点物の工芸品の価値を掛け合わせた、「未来の民芸」となり得る表現手法と考え、gete(げて)と名付けました。

2.半DIY家具のための金物「KANAME」

「KANAME」(写真3、4)は、誰でも自作できる設計と、デザイン性、流通の関係を考えたプロジェクトです。DIYを前提とした、加工が容易な設計でありながら、「要」となる部品が入念にデザインされ、合理的かつユーモラスなプロポーション、発見のある動きや機能をもったプロダクトとして成り立つ要素となっています。完成形/金物のみ/(公開された図面や3Dデータを元に)全DIYをユーザーが選択するという、インタラクティブな流通としての提案も含んでいます。

その中の1点「macaron」は、ベニヤなどで自作したH型モジュールを積み上げ、特製のワッシャで挟み込んで結合することで、無限に増やせるシステムシェルフです。立てかけた本がワッシャに当たっても傷つかないための配慮から、マカロンのような丸みを持った形になりました。



▲「KANAME」。(クリックで拡大)



(クリックで拡大)




●まとめ

これらの提案は、日々の暇つぶしや生活の必要の中から発展させていったプロダクトですが、俯瞰してみると、大学の頃から考えていた「あるプロジェクトが触媒となってユーザーや社会とデザイナーが双方向につながることによって、そこに新たな価値や流通のあり方が発見される」という目的に向かって肉付けされていると感じます。

そして、コロナの状況下でもその予兆は感じましたが、現代社会が慣れきっている生活の外部化が滞り、自分の身近な生活を自分の手足を動かすことによって回していかなければならないような、「現代社会におけるサバイバル」のような状況が訪れても、これらのプロジェクトの提案によって、既製品だけに頼らないで手を動かしたり、物事をハックする思考訓練として、デザイナー、ユーザー双方のデザインリテラシーを刺激するのに役立つものになればいいな、と思っています。

また、今後もそのような新たな価値を提示できるよう、さまざまな提案を発表していければ、と思います



仲野耕介/Kosuke Nakano
北海道出身。2013年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。2014年~2016年スキーマ建築計画勤務。2017年~tunnel design。
https://www.tunneldesign.co.jp/


2021
年1月20日更新。次回は西原 将さんの予定です。



※本コラムのバックナンバー
http://pdweb.jp/column/index.shtml#mailmag

 


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