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コラム

神が潜むデザイン

第67回:「土の建築」に魅せられて/日暮雄一

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
日暮雄一(ひぐらしゆういち):1993年豊田博之建築設計事務所、1996年武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院建築学専攻修士課程修了。1996年~2003年株式会社松田平田設計、2003年~日暮写真事務所。設計者目線から建築写真を撮る。「大地の芸術祭」などに参加。2024年~ARCHI CAPTURE、マイクロドローンを使った建築映像の新しいジャンルを開く。
https://higuphoto.com/
https://archicapture.jp/



●デザインとは

現在、私は建築の写真や映像を撮影しているが、大学では建築を学び、設計事務所で約8年間、意匠設計を行っていた。

設計事務所時代、建築設計はミリ単位で行っていた。部材の見付けを薄くし、シャープに見せるための工夫、チリなし同面での精度、目地の見せ方、といった細部へのこだわりを積み重ね、デザインは次第に洗練されていった。

当時の私は、これこそが「デザインする」ということだと思い込んでいた。

●旅にでる

一方で、学生時代からヨーロッパや中近東、南米、アジアなど、世界各地を旅していた。訪れた先では、ギリシャのパルテノン神殿、エジプトのピラミッド、ペルーのマチュピチュ、シリアのパルミラ、ヨルダンのペトラなど、古代遺跡を多く見て回った。

これらの遺跡は、当時の最高技術と素材を駆使して築かれたもので、どれも紀元前から数百年前にかけて作られたものだ。それでも、どの遺跡も美しく、現地に転がる石1つひとつから、細部に至るまでのこだわりを感じ取ることができた。そのこだわりは設計事務所で設計をしている頃の意識に近いものだった。

●ヴァナキュラー建築との出会い

その後、興味は遺跡から「ヴァナキュラー建築」へと変わっていった。初めてその魅力に触れたのは、イエメンを訪れたときだった。世界最古の都市と呼ばれるサナアの旧市街は、城壁で囲まれた都市で、低層部は石造り、中層部以上は日干しレンガを積み上げた構造を持っている。赤茶色の外壁に、補強のための白い漆喰が塗られた開口部がとても印象的だ。

また、街を歩く人々は短剣を腰に差し、頭にはターバンを巻いている。その光景はまるでアラビアンナイトの世界のようで、その場所だけは数百年前からほとんど変わらない時空が存在するようだった。

日本で言えば、江戸時代の建物がそのまま残り、侍が街を歩いているような光景だろうか。イエメン国内の他の街も訪れたが、どこも個性的で美しい。ヴァナキュラー建築は完全に私の心を鷲掴みにした。

次に向かったのは、北アフリカのチュニジアだ。映画『スター・ウォーズ』のロケ地にもなっており、そこには「クサール」と呼ばれる建物がある。これらは、ベルベル人がアラブ・イスラム勢力から逃れるために作った穀物倉庫で、日干しレンガや石を積み上げ、その表面を土で覆っている。スター・ウォーズの世界観がこの地域の建築物によって作られていることが容易に想像できる。

私は、土を素材にしたヴァナキュラー建築に強く惹かれるようになった。そのフォルムは、人間が意図して作り出したものとは思えず、むしろ昆虫や動物が自然に作り出す巣などの構造物に似た、独特の美しさがあった。

これらの建築は、自分が普段デザインする建物よりもはるかに魅力的で、デザインの域を超えた何かに触れたような感覚を抱いた。もっと見てみたい、体験したいという思いが強くなっていった。

●建築設計から建築写真へ

設計事務所で働くサラリーマンとして、長期間の旅に出ることは難しかった。夏休みを利用し、フライトが変更になったなどの理由をつけて、どうにか10日ほどの時間を確保して旅に出るのが精一杯だった。

私はもっと土でできたヴァナキュラー建築を見たい、その魅力を多くの人に伝えたいという強い思いを抱くようになった。そして2003年、私は設計事務所を辞め、写真の世界に飛び込むことを決意した。

土の建物は、木がほとんど育たない砂漠の周辺に多く存在しており、私はサハラ砂漠の南に位置するマリ共和国、ブルキナ・ファソ、セネガル、モーリタニア、ベニン、ガーナなど、西アフリカの国々を巡って撮影を行った。そこには、建築家や設計者が意図して作り出すものとは異なる、何かに導かれるようにして生まれたさまざまな美しい建築が存在していた。

その中でも、マリ共和国にあるモスクの多くは土でできており、その姿は大地から湧き上がってくるかのようなデザインを持っていた。地面から屋根までがシームレスにつながり、心を揺さぶられるほどの美しさがそこにはあった。

●ヴァナキュラー建築から得たデザイン

設計事務所を辞め、多くのヴァナキュラー建築を目にした後、自宅マンションのリノベーションに取り組む機会が訪れた。そこで実現したかったのは、卵の殻の中にいるような包まれる空間であり、床、壁、天井をシームレスにつなげるデザインだった。その意図がもっともよく表現できたのはトイレだった。

ヴァナキュラー建築が持つ独特の魅力に、少しでも近づけた空間を作れただろうか。



(2024年10月10日更新)


▲パルミラの遺跡。(クリックで拡大)


▲ペトラの遺跡。(クリックで拡大)


▲世界最古の都市と呼ばれるサナアの旧市街。(クリックで拡大)


▲チュニジアのクサール。(クリックで拡大)

▲ブルキナ・ファソのカセッーナ族の住居
。(クリックで拡大)


▲ドゴン族の住居。(クリックで拡大)


▲マリ共和国のモスク。(クリックで拡大)


▲自宅のリノベ。(クリックで拡大)



▲自宅のトイレ。(クリックで拡大)





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