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コラム

神が潜むデザイン

第65回:旅のディテール/今津康夫

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
今津康夫(いまつやすお):1976年山口県生まれ。1999年大阪大学工学部地球総合工学科卒業。2001年大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻修了。2001年~2005年(株)遠藤剛生建築設計事務所にて集合住宅・公共建築の設計に従事。2005年ninkipen!一級建築士事務所成立。近畿大学非常勤講師、武庫川女子大学非常勤講師。
https://www.ninkipen.jp/



「建築家を志す者は旅によって建築家になる」。とても大好きな言葉なのですが、誰の言葉か思い出すことができない。

中村好文さんが世界中の名作住宅を訪ねる「住宅巡礼」の中で出会ったようにも思うし、世界中を旅したコルビュジェの言葉のような気もするのですが(論文ではないので出典がなくても平気ですよね)、私も10代の頃から世界各地を旅してきました(建築家になれたかどうかは置いておいて)。

百聞は一見にしかず、これまで旅で出会った「神が潜むデザイン」について五月雨式に書きたかったのですが、文字数の制限もあり、皆さんがあまり訪れたことの無いだろうバングラデシュ編に絞りたいと思います。フィンランド編、デンマーク編、ポルトガル編はまたの機会に。

●METI Handmade School

バングラデシュ北東部ディナジプール県に建つ小学校です。設計者のオーストリア人Anna Heringerは現地でのボランティア経験を経て、なんと彼女の修士設計を元にして建設されました。

地産地消や地元の材料を使って家を建てる、という言葉は良く耳にしますが、資源の乏しいバングラデシュではそうは簡単に行きません。

あまりにも簡素な周辺の集落を観察して彼女が考案した構法は、言わば「竹筋土クリート」。日本の竹小舞と通じるところもあるのですが、干し草を混ぜた土と竹を使ってダイナミックに構造が立ち上がります(興味のある方はググってみてください)。

メンテナンスのことも考えて住民参加型で建設されたプロセスも素晴らしく、小さい建築ながら2007年にアガ・カーン賞を受賞しています。私が訪れた時には竹が虫に食われてしまい竹に防腐剤を注入・改良し再建された後でしたが、速やかに建て替えられたことからもこの構法が現地で有効であることが証明されています。

学校のご厚意で1泊させてもらってこの建築を満喫したのですが、構法だけではなく何と豊かな空間なこと! 内外ともに自然素材で覆われた質感はとても優しく、亜熱帯地方独特の開放的な構成の中に風と風景が通り抜け、こんな学校に通いたい! と心から思いました。

市井の知恵と工夫から生まれたこの建築は決して天から降った来たわけではないのですが、本当に粗末な小屋しかない集落の中で神々しく見えました。ちなみに、翌朝の全校集会で急遽Japanese Architectとして登壇したのですが、子供たちの真っ直ぐな眼差しも忘れられません。全校生徒全員手を上げたArchitectへの質問コーナー。当てられた女の子の質問は「お母さんの名前は何ですか?」笑いの神も同時に舞い降りました。

●バングラデシュ国会議事堂

言わずと知れたルイス・カーンの名作。学生時代から幾度と旅先候補に上がるも政情不安などで断念。念願かなって訪れることができました。

「灼熱のダッカに大きな日影を作りたかった」。これが直感的に感じた印象です。

カーン特有の幾何学で構成された構成や開口部にばかりに気が取られがちですが、よく見ると不用意に外壁に剥き出しになった窓は1つもありません。建物を取り囲む水面には2階建の橋がかかり、レンガの広場(国民が凧揚げに興じる写真が有名なあそこです)は人工地盤として持ち上がっていて、1階に位置する駐車場と車寄せからも日影のままアクセスができます。

内部は圧倒的な光の空間。さまざまな幾何学のネガポジが連動して歩を進めるたびに目眩くシークエンスが広がって、まさに神を感じる尊い光に出会いました。

時に窓から、時に複雑に入り組んだヴォリュームの隙間から、時にスラブに打ち込まれたガラスブロック(多分)から濃淡をつけながら影に光が満たされていきます。

もちろんイスラム文化とベンガルの風土を尊重して導き出した建築だと思いますが、エストニア出身のカーンが原体験として感じた北欧の儚く柔らかな光を追い求めたようにも感じます。「始まりを愛する」カーンなのですから。

●あとがき

このテキストが公開される頃私は初めての中南米、ルイス・バラガンの建築を巡ってメキシコを旅しています。齋藤裕さんが編んだバラガンの作品集の帯にある「バラガン・イズ・バラガン」のピンクの文字。今も脳裏に焼きついたその言葉と共にかつて体験したことのない、カラフルな「神が潜むデザイン」に塗れてきたいと思います。

追伸
バングラデシュの旅は当時青年海外協力隊として現地におられた河野洋一郎さんなくしてはあり得ませんでした。改めてお礼を申し上げます。

Ph:河田弘樹


(2024年8月14日更新)



▲「METI Handmade School」外観1。(クリックで拡大)


▲「METI Handmade School」外観2。(クリックで拡大)


▲「METI Handmade School」外観3。(クリックで拡大)


▲「METI Handmade School」外観4。(クリックで拡大)


▲「METI Handmade School」内観1。(クリックで拡大)


▲「METI Handmade School」内観2。(クリックで拡大)


▲「バングラデシュ国会議事堂」外観1。(クリックで拡大)



▲「バングラデシュ国会議事堂」外観2。(クリックで拡大)


▲「バングラデシュ国会議事堂」内観1。(クリックで拡大)


▲「バングラデシュ国会議事堂」内観2。(クリックで拡大)


▲「バングラデシュ国会議事堂」内観3。(クリックで拡大)


▲「バングラデシュ国会議事堂」内観4。(クリックで拡大)




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