●彫刻
先日、原宿の駅前にあるWITH HARAJYUKUに立ち寄った。待ち合わせをしたこの商業複合ビル、4階からは集合住宅で明治神宮の100年の森を一望できるという。原宿駅を降りて目指す建物を確認し目線を上げると3階あたりにオレンジ色の像が見えた。
それは彫刻作品だった。「La Statue de Harajyuku」という作品名で、作者はフランスの芸術家であるグザヴィエ ヴェイヤン。明治神宮側に開けたその場所で、小柄な女性が少し高いところからラフに座って遠くを見ている像だ。近くに大小2羽の鳥がいる。
この彫刻を気に入っているのか、周りに数人の女性が座っている。鳥のくちばしは、子どもが幾度か触ったのか少し剥げていて、この彫刻が、この場所に馴染んでいることを物語っている。この彫刻作品の存在で、この場所に何かとても爽やかな空気が呼びこまれているように感じた。
●置物
転じてここは、大阪の千里ニュータウン内にある私の家。左手に我が家の外壁が見え、右手には隣の家のブロック塀が見える。数年前、あまりに暑い大阪の夏に耐えかねてエアコンを1台増設、エアコンの室外機がブロック塀の前に設置されたが、あまりに無造作なので事務所のスタッフに頼んで、Jパネル(国産杉の3層クロスパネル)を真っ黒く塗ってもらい、室外機の上にポンと置いてもらった。
そして昨年冬、その上にどこにいったのか忘れかけていた兔の置物を置いてみた。この写真はそれから半年ほど経ったものだが、兔の周りを、思い思いに伸びた草が雰囲気良く囲んでいる。ここに兔が来る前は、気にもかけなかったこの場所が、今は、毎日観察する大切で大好きな場所になった。
この兔の発する魅力なのか、何も手を加えることなく自然に任せているのに、愁いを帯びた表情をした兔の周りを、植物たちは、まるで額縁を作るように伸びていく。
陶器であるこの兔の置物は、ずいぶん昔に岐阜のある骨董屋で買ったもので、長い時間、大阪市内にある事務所の庭に置いたままだった。兔がここに来てからは、毎朝、窓のブラインドを上げて彼女と目を合わす。この愁いのある表情を見て、なにか安心するような心持ちになるのが不思議だ。
家の中には、季節のしつらえをする飾り棚があり、ここには今の時期、鳥の置物が置かれている。その鳥と外にいる兔は、FIXガラスを介して、まるで見つめ合っているようだ。
この鳥の作者は韓国の女性陶芸家でキム・ミョンレ。作品のコンセプトを本人に尋ねたところ、このように説明してくれた。「家に縛られて自由に生きることができなかった私の母が、いつか自由に空を飛んで好きなところに行きたいと思っていただろうと、想像してつくりました」。
韓国らしい青磁のこの鳥と、日本の名も知らぬ作り手から生まれた兔が見つめあう、このようなシーンを楽しむことを日常の生活空間で、できることが嬉しい。
そんなことを日々感じるのも、木の家に長く住んでいるからだろう。日本の山で育った杉の木で造られた、すでに40年になる木の家。丁寧に木が組まれてできあがった素朴な家であるが、かつて生命があった植物で造られた空間だからこそ、亡くなってしまった人や物の、いろいろな想いを、浮遊させてくれるのではないかと思う。
(2024年7月17日更新)
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▲WITH HARAJYUKUにある彫刻作品「La Statue de Harajyuku」。(クリックで拡大)
▲筆者自宅。(クリックで拡大)
▲室外機の上にポンと置いた兔の置物。草が雰囲気良く囲んでいる(クリックで拡大)
▲今の時期、飾り棚に鳥の置物を置いている。外に兎の置物が見える。(クリックで拡大)
▲鳥の置物は韓国の女性陶芸家、キム・ミョンレの作品。(クリックで拡大)
▲Ph:畑拓。(クリックで拡大)
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