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コラム

神が潜むデザイン

第58回:雨について/小髙真理

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト[プロフィール]
小髙真理(MARI ODAKA):文化ファッション大学院大学卒業。メーカーでニットデザイナーとして経験を積んだ後、2014年に自身のブランド「malamute」を設立。2017年Tokyo 新人デザイナーファッション大賞プロ部門受賞。2023年、ブランド名を「ODAKHA」に改める。 ODAKHAは「Toughness and Softness」をコンセプトにニットウェアに特化したウィメンズウェアブランド。日本が誇る精緻なニット技術と職人の手仕事を継承しながら、メイドインジャパンの コレクションを展開する。ニットのもつ柔軟性と技法により強靭にも変化する特性を活かし、ブランドのフィロソフィーである「強さと柔らかさ」を兼ね備えた世界観を表現する。
https://odakha.jp/



●雨樋とガーゴイル

みなさん雨の日は好きですか?

外出しているとき急な雨に降られ、傘を持っていない人は大抵軒先で雨宿りをする。軒が短いと大雨では耐えきれないけれど、多少の雨は凌げる。そして足元をみると雨樋をつたい屋根に溜まった雨水がどんどん地面に排水されていく。

日本家屋では鎖樋というチェーンが垂れ下がっている場合がある。祖父母の家で見た雫が溜まり徐々に下へ落ちていく鎖樋がなぜか原風景として記憶の中に残っている。

雨樋について気になっていた私は、学生の頃訪れたパリにあるノートルダム大聖堂にいるガーゴイルが雨樋の役割をしていることに驚いた。日本の雨樋の考え方や作り方とまったく違うからだ。ガーゴイルは怪物を模った石造りの彫刻で、口から水を吐き出すようになっている。とてもユーモアがあって、雨水が勢いよく流れてきても様になる表情をしている。日本の鎖樋とは正反対の水捌けの方法で衝撃を受けたのを覚えている。

その日を境に雨の日の捉え方が変わったように思う。日本で感じたしっとりとした寂しい雨のイメージは、力強いユーモアのある楽しい日として捉えることもできるようになった。ノートルダム大聖堂は現在改修工事中だが、パリへは仕事で行く機会があるので、工事が終わり次第また訪れたい。

●長沢浄水場にて

8年前、コレクション発表のためのビジュアル撮影を、以前より気になっていた建築で撮影することができた。巨大なキノコのような形の柱が110メートルにもわたって連なる直線通路が象徴的な、神奈川県川崎市多摩区にある東京都水道局長沢浄水場だ。建築家は京都タワーや日本武道館を設計した山田守氏(1894年4月19日-1966年6月13日)である。

この廊下をメインに2016年の春夏シーズンの撮影を行った。柱は「マッシュルームコラム」という建築様式で、滑らかな曲線はわきあがる水を連想させる。白い柱が連なる廊下はひんやりとして、春夏コレクションのテーマをさらに印象づけた。写真はその時撮影したもの。

撮影の際、水道局の方から柱の説明を受けた。この何本もの柱が天井を支え、さらに天井に溜まった雨水を運ぶ雨樋の役割もしているとのことだった。その時、日本家屋の鎖樋やガーゴイルのイメージだった雨樋は、一気にモダニズム建築の柱の中に収まり、私の脳内で雨水の旅が始まったのだ。水の宮殿という愛称もある長沢浄水場は世田谷区や目黒区、大田区など約50万人分の水を処理・供給している。

文化や用途によって、その時代の土地や建築家の考え方によって、さまざまな形に変化することができる雨樋は、人間の暮らしに寄り添う建築の重要なディテールの1つだ。

服にかかった雨をはらう。雨の日は撥水性のよいギャバジンのアウターを着ているとホッとする。前を歩く人のトレンチコートのアンブレラヨークから水滴が転がる。雨の循環を思い出す。



(2024年1月16日更新)



▲鎖樋。(クリックで拡大)


▲ガーゴイル。(クリックで拡大)


▲ノートルダム大聖堂。(クリックで拡大)


▲長沢浄水場にて春夏コレクションを撮影。Ph:森栄喜。(クリックで拡大)


▲長沢浄水場。Ph:森栄喜(クリックで拡大)






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