アトリエの名前を「nombre(ノンブル)」とつけたのは、本が好きなことと数字が好きなことが理由でした。本の隅につつましく打たれた小さな数字。ページの隅にそっとある余白の美しさと秩序に不思議と惹かれてしまうのです。文房具のデザインを始めてずいぶんと経ちますが、一貫して数字への想いは消えることがありません。直線と曲線で作られたこの魅力的な10個のかたち。自身のデザインでも何度も取り扱ってきました。
「0.1.2.3…」といったアラビア数字のかたちを考えたのは9世紀に活躍したアラビアの数学者だそうです。右の図をご覧ください。現在は省略しているところもありますが、もともとは図のように「角の数」がその数字を表しているそうです。「1」がさっぱりしている理由に納得。
●ひとりも欠けられない
理由あってかたちができて、世界中で繰り返し使われて、揺るぎない地位を築いた図形。10個すべてが平等で、ひとつも欠けるわけにはいかない図形。一方で「好きな数字」なんていうとても個人的な領域にももぐりこんでいるのも興味深いです。おのおのに個性と役割があって、それぞれにファンがついている感じ。さしずめ数字10レンジャーというところでしょうか。
以前「ナンバーズ」という数字にまつわる個展を開催したときに取ったアンケートがすごく面白かったことがありました。質問内容をあえて「好きな数字」にはせず、「つきあってみたい数字」「結婚したい数字」「友達になりたい数字」「息子の嫁に欲しい数字」の4種類に設定。理由も書いてもらったのですが、かたちのイメージを挙げている人がすごく多かったです。直線と曲線がつくるかたちのイメージを誰もが何かに連想して、自分の考えを楽しそうに発表してくれている様子は、非常にクリエイティブな楽しい遊びに感じられました。
●あたりまえに潜むもの
私自身は、見たことのないまったくの新しいデザインを目指すのではなく、人々の心の中に潜んでいる、既にある意識や感覚をくすぐるデザインをしたいと考えています。小さな共感の喜びが私にとってはデザインの大きな魅力であり、そのタネとなる普遍的なモノゴトに心を動かされることが多いです。
「ナンバーズ」展とはまた別の時期に「日本のかたち」という個展を開催したことがありました。そのときに注目したのが「県境」。日本のほとんどの人がそのどこかにルーツを持ち、大きかったり小さかったり、海に面していたり、東だったり西だったりする47個の都道府県を分けるあの線です。都道府県はパズルのようにぴたりと隣接し(あたりまえですが)、それぞれのかたちを持ちながら全体では日本列島をかたち作っています。そのことがなんとも面白く、地形と歴史によって生まれたこのかたちをデザインのモチーフにしたいと考えました。
「都道府県ポーズ全国大会」は、各都道府県の形に無理やりなポーズを取ったキャラクターで日本列島を作っています。かたちありきでそこにキャラクターを当てはめていく、という作り方で、これはお題探しからがもうデザインのスタートになっています。また、日本列島の一部をズームアップして切り取り、その図形からデザインを起こした磁器のブローチも作りました。丸と四角の紙製の窓を作り、日本列島に当てながら切り取る箇所を探したのですが、全体を見ているときには気がつかない魅力的な線が次々と窓の中に現れ、すごく新鮮でした。
見渡せば今この瞬間も身の回りにいくつも見つけることができる数字たち。同じように日常の中に潜む「あたりまえ」を楽しみ、何度でも新鮮に出会い直していければと思っています。
(2023年9月11日更新)
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▲数字のかたちの成り立ち。角の数がその数字を表している。(クリックで拡大)
▲「ナンバーポストカード」 数字のかたちそのものをシンプルに表現した。Ph:Fuminari Yoshitsugu。(クリックで拡大)
▲「ハンコ万年カレンダー」 パーツを組み替えることでどんな月のカレンダーでも作ることができる。(クリックで拡大)
▲「ナンバーブックカバー」 本を広げると数字が見えるが、閉じていると抽象的な曲線と直線の模様に見える。(クリックで拡大)
▲「全国都道府県ポーズ大会」 47都道府県のかたちにポーズを取ったキャラクターでつくる日本列島。(クリックで拡大)
▲下の画像にあるような県境にズームアップして図形を切り取った磁器のブローチ。(クリックで拡大)
▲(クリックで拡大)
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