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コラム

神が潜むデザイン

第53回:目と手/安宅研太郎

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト [プロフィール]
安宅研太郎(あたか けんたろう):建築家。1974年埼玉県生まれ。2001年東京藝術大学大学院修了。2003年アタカケンタロウ建築計画事務所設立(2015年に株式会社パトラックに改組)。「シャノアール研修センター」、「狭山ひかり幼稚園」で日本建築学会作品選奨受賞。「かがやきロッジ」で医療福祉建築賞、グッドデザイン賞金賞など。2012年から岩手県遠野市で遠野オフキャンパスを立ち上げ、調査/計画/実践/教育を同時並行的に行う地域再生に農業/環境/植生/建築/暮らし/食などを横断しながら取り組んでいる。
http://www.ataken.com/



●わざわざ自分で

岩手県遠野市に通い始めて15年ほどになります。きっかけは、ランドスケープデザイナーの田瀬理夫さんと東京でお仕事をご一緒した縁でした。田瀬さんがデザイン全般のディレクションをしていた遠野のクイーンズメドウ・カントリーハウスで新しい施設の設計をするために(結局まだひとつも建っていませんが、、笑)足しげく通うようになりました。

遠野は1,000年以上前から馬産が盛んでしたが、1960年代辺りから頭数が激減し、土地利用も景観も大きく変わってきました。クイーンズメドウでは、山間の馬と暮らすインフラを復活させながら、馬と共に暮らし、その堆肥で有機農業を展開し、土地にある材料で建築をつくり、そのような環境に滞在する施設運営とフィールドづくりを20年にわたってコツコツと続けています。

私は2012年から、遠野市全域を対象に、地元の高校生や都市部の大学生、専門家らとともに「遠野オフキャンパス」という活動を続けています。駅前の元呉服屋さんを実測して図面化したり、構造の補強や改修を少しずつ進めたり、その延長で町の成り立ちのリサーチや高齢者への聞き取り調査、お酢や麹、豆腐屋さんなどの生業調査、植生調査なども行ってきました。

実測や修繕などは工務店に頼めばすぐにできますが、わざわざ自分たちで、複数の人を巻き込んでやってみることで、建物にたくさんの人が関わり、街をどうしていこうかという話しも自然と生まれます。また学生や我々も「モノができていく喜び」、「自分でできることへの誇り」、「技術の継承を含んだ学び」、「自分たちの環境を、自分たちでコミットし、コントロールできる実感」など、失われた(もしくはあらかじめ失われていた)感覚や本来の自治を取り戻しているように感じます。

●見極める目と活かす手があれば

そんな活動の中で、とある農家の納屋の調査と物品整理を行ったことがあります。納屋の中はたくさんの農業資材で溢れかえっていて、はじめはどう手を付けてよいか分からず途方にくれました。しかし目が慣れてくると、全国に流通する「大量生産された農業資材」と、この土地で採れた材料や一斗缶などのリユース材料を組み合わせて作られた「手作りの道具」に大きく分けられることに気づきます。

中でも衝撃を受けたのは写真の木槌。木の幹から枝が直角に生えているところ(山を歩いても滅多にありません)を探して3ヶ所をカットすることで木槌化しています。他にもT字型をした枝に釘を刺して作った藁スグリや、藁のミゴ(先端の一番堅いところ)を束ねて一斗缶を切り抜いて押さえ、角材に留めたホウキ、石に縄を巻いたムシロを編む道具などさまざまな道具がありました。

所有する土地(田畑や山林)に手を入れるための道具を、その土地にあるものから作り出す。生えている木々や落ちている石を、形状や強度、しなやかさ、重さ、耐久性など「素材」という視点で見極める目と、加工する技術がある人にとって、野山や廃材の詰まった納屋は宝の山(あるいは東急ハンズ?!)に見えているのではないでしょうか。山で美味しい野草や山菜、キノコを見出し、適切に加工する技術をもった知人を含め、そのような自然との向き合い方に、私はとても惹かれ、憧れます。


●土地がもたらすもの

ここ数年、私はクイーンズメドウの贈り物のデザインに関わっています。クイーンズメドウは不思議な場所で、法人としての正式なメンバーは数人ですが、それ以外にもさまざまな人が自分のできること(技術や思考など)をベースに、金銭や雇用などとは別の関係性の中でゆるやかにつながっています。

そんなつながりのある人たちに年に何度か、土地で採れたものを贈っています。親戚同士のおすそ分けに近いような、それでいて少し居住まいを正して感謝や親愛を伝えるようなパッケージのあり方はどうあったらよいか。

購買意欲を高めるような、商品っぽい佇まいでは興ざめです。もしかしたら、デザインを感じない方がよいのかもしれない、そんな絶妙な塩梅を目指して、まずは敷地を歩きます。1年目は冬の森の中に見つけた実や枝や葉っぱを、小さな手紙を入れた折型に、生け花のように差し、田んぼで採れた藁を綯った正月飾りを添えました。また昨年末は、納屋の上に生えて屋根を破壊しつつあったたくさんの松を伐採し、その松葉をお餅の緩衝材を兼ねてセットしました。

これらのパッケージは手触りや香りを含め、何か土地の一部が顕現しているような気配を感じさせてくれました。それは、幹を伐った木槌や藁スグリといった道具のまとう静かな佇まいの中にも共通して感じられたようにも思います。そこに現れているのは、自分の内側からでてくる何かではなくて、積み重ねてきた時間を含めた自然との無言の応答のなかで生まれるクオリティなのではないか。建築でもそのような応答と佇まいを感じられるデザインを目指していきたいと密かに願っています。


(2023年8月14日更新)





▲クイーンズメドウ・カントリーハウス。中央に放牧されている馬が2頭。(クリックで拡大)


▲木の幹と枝をカットして作られた木槌。左側が藁スグリ。(クリックで拡大)


▲手作りのホウキ。リユース材の組み合わせが見事。(クリックで拡大)


ムシロを編むための石。(クリックで拡大)


▲2021年末のクイーンズメドウの贈り物。(クリックで拡大)


▲贈り物に添えられた植物たち。折型の中には1年の活動報告「駒形通信」が収められている。(クリックで拡大)


▲2022年末のクイーンズメドウの贈り物。日々の活動の中で伐採された松の葉と田んぼで採れた玄米のお餅。(クリックで拡大)


▲クイーンズメドウで採れた稲わらを使って毎年作る正月飾り。藁も縄からムシロや俵、くつ、建材など、加工する技術によって様々な用途に活用されてきた。(クリックで拡大)


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