神と言われてしまうと、現代にそもそも存在し得るだろうかと訝しんでしまうけれど、細部の話なら際限なくできる。まあ、それ自体どうかという気もするけれど。
2022年9月から2023年2月まで日本橋髙島屋百貨店で開催された「百貨店展」は、約10mほどの巨大な年表がメインの展覧会だ。ただ年表だけだと百貨店に思い入れがある世代しか楽しめないと思い、大きな模型を3つ置いている。コストも限られていたことから、すべて合板でつくっているが、建築家が会場構成をした展覧会では合板が使われることが多いので、それこそちょっと細部にひねりを加えることにした。
●百貨店の3つの合板模型
まず「心斎橋大丸」は、あの美しいファサードを表現することが決まっていたこと、そして複数のデータが入手できたこともあり、当時のヴォーリズ事務所の手描き図面、ファサードの写真、CADデータの3つをすべて使い、パッチワークのような表現とした。
さらにそれぞれの下地も変えており、写真の部分は5.5mmのラワン合板の上にグラフィックシートを貼り、手描き図面の部分は茶色いレンガと白い大理石を表現するため9mmのラワン合板とシナ合板の上にトレーシングペーパーを乗せ、CADデータの部分はラーチ合板を白く染色した上に直接UV塗装を致してある。また、これらの合板はLGSに直接貼り付けれているので、壁が浮かんているような不思議な見え方になる。
「松屋浅草」に関しては、長辺が150mとともかく巨大なので、どうやってそのサイズの模型を実現するかということに苦心した。グラフィックシートを貼るだけなら問題ないのだけれど、それだと合板で作られたことはわからなくなってしまうし、入手できたのは、解像度の低い当時の手描き図面のデータだけだったので、引き伸ばすとかなり貧弱に見えてしまう。いっそ手描きで合板の上に直接描くことも考えたが、途中まで描いてみてバカらしくなってしまった。
ただよく考えてみると現在のグラフィックシート印刷はかなり解像度が高いことを思い出した。それこそ百貨店で使用される石や木材の多くも実はグラフィックシートだったりする。そこで、合板をデジタルカメラで撮影して合板の画像データを用意し、その上に手描き図面を合成すれば、合板に直接手描きしたように見えるのではないかと思い、試してみた。いわゆる合板のサイズの画像データとなると、いくら今のデジタルカメラが高解像度になっているとはいえ、1枚の写真ではとても足りない。
結局数十枚の写真を合成した11GBの画像データを用意し、何度が色校正して実現した。また、合板はあえて新品ではなく、ビスの跡がある適度に使われたものを撮影している。どうせ嘘をつくならより巧妙にという訳だ。できたファサードは、パッと見は合板にしか見えないが、言われてみるとちょっと奇妙な質感をもったものになった。
最後の「白木屋」はともかく建築そのものが素晴らしいので、開閉式の窓も含めてできるだけ忠実に再現するようにした。ただ、合板だけでなくランバーコアを積極的に使用し、少し軽く見えるように調整してある。
●引用される細部
と偉そうに言っているけれど、大丸は、2022年に東京都現代美術館で行われた藤井光の「日本の戦争美術 1946」のかなり直接的な引用でもあるし、松屋の方も2016年にハウスビジョンで展示された凸版印刷+日本デザインセンター原デザイン研究所による「木目の家」が、元の画像データが(スムーズという意味で)綺麗すぎるのと、解像度が低いせいでかえって安っぽくなってしまっているのを目撃した直接的な反動である。
そもそも百貨店は、神や国家のような超越的な唯一のもののための建築ではなく、民間の企業による消費者という市民のための建築だ。そこには神はいないかもしれないが、細部に至るまで、どうやって人々を満足させるのかという工夫に溢れている。
(2023年1月17日更新)
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▲百貨店展会場風景。左から松屋浅草店、大丸心斎橋店、白木屋日本橋店。奥に年表が見える。© morinakayasuaki(クリックで拡大)
▲松屋浅草店の模型の詳細。表面の合板はプリント。リアルに見えるようにビスの跡がある合板を撮影した。判子のデザインもオリジナル。© morinakayasuaki(クリックで拡大)
▲「木目の家」の詳細、凸版印刷+日本デザインセンター原デザイン研究所。吉野檜の木片を25倍に拡大している。そのせいかどうしても近くで見ると解像度が足りずシートであることが目立っていた。(クリックで拡大)
▲藤井光「日本の戦争美術 1946」会場風景。2022年、東京都現代美術館。(クリックで拡大)
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