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コラム

神が潜むデザイン

第38回:静かに見守っていてくれる仲間のような存在/板坂留五

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
板坂留五(いたさか るい):1993年兵庫県生まれ。2016年東京藝術大学卒業。2018年東京藝術大学院修了。2018年~RUI Architects。2016年卒業制作で主席買上賞(東京藝術大学卒業制作最優秀賞)、JIA全国学生卒業設計コンクール銀賞受賞、2019年「半麦ハット」(共同設計:西澤徹夫)でArchitects of the Year 2019入選(2019年)、Under 35 Architects exhibition 2021 Gold Medal 受賞(2021年)
http://ruiitasaka.ooo



●本棚の隙間

今、私が文章を打っているデスクの前には、本棚が並んでいる。よくあることだが、実際に本を並べてみると、間仕切りとの間や本の幅によって小さな隙間がいくつもできる。その隙間を見つけては、誰かからもらったどこかの土産物やいつか気に入って買ったポストカードを置いてみたり、大事な本の表紙を向けたりしている。

今、私の前には、お土産の信楽焼の狸、いただいた花を生けるために久々に出した瑪瑙のグラス、ホームセンターで購入した吊戸の滑車が並んでいる。なんてことのない、誰がデザインしたのかも分からないようなものだけど、ふとした時に思い出して本棚の隙間に改めて置いてみると、「こんな色の組み合わせ素敵だな」「なるほど、この重さか」と、それを手に入れたときとはまた別の発見が生まれる。

悩みながら図面を引いたり、文章を考えている時、ふと顔をあげると目に入るオブジェたちは、直接役に立ったり答えを教えてくれるようなものではないけれど、リラックスと新たな選択肢を与えてくれるような力がある。

なんてことのないオブジェだけではなく、ふとしたときにそれが目に入る場所にあることが大事な気がしている。単にたくさんのオブジェに囲われていればいいというわけではなく、集中する時は見えず、ふと顔をあげたときに目に入るような、身体のふるまいが想定された設えが必要である。

●「ふと~」できる空間

行ったことはなく、展示で模型や写真を見ただけではあるが、想像の中でとても心地よかった場所がある。アルヴァ・アアルトによるヴィープリの図書館の閲覧室だ。

参考サイト:ヴィープリの図書館

レベルの異なるフロアの中央が吹き抜け階段によってつながっている空間で、吹き抜けをコの字のカウンターが囲んでいる。そこは閲覧席なのだろうか、模型にはスツールがカウンターに沿って置かれていた。そこまで高低差はないが、階段が吹き抜けの幅いっぱいに広く、それによって相対的に空間の広がりを感じた。

カウンターで読書をする人からすると、向かいに座る人の気配はほどよく遠く、下階のフロアが見えるくらいの浅さは安心感を感じるだろう。階段を上り下りする人は、手すりのある中央部を歩くようにしてカウンターの人に気を配りつつスムーズに移動するだろう。

高さや幅、手すりの位置、カウンターの幅などによって、さまざまなふるまいをする人同士の距離を調整し、この場所に安心感を与えているように感じた。そのような、単に距離を離すことでゾーニングするのではなく、空間を構成するさまざまな要素によって調整していることによって、「ふと」顔をあげたときに意図せずとある本や誰かの仕草が目につくような可能性が残されている。

私は、何かの特別に信じているものや宗教はないものの、プロテスタントに属するキリスト教の学校で中高時代を過ごした。毎朝始業前に礼拝があった。それは神様に祈りを捧げる場だったが、私にとっては、オルガンの音が充満する1つの空間の中で皆が集い、友人や先生の話を聞きながら共感したり刺激を受けたりする時間だった。

その経験からか、「神」という言葉に対して、私は、ひとすじの憧れや崇拝のようなものではなく、ふんわりとした安心感であったり自分に寄り添ってくれるような頼もしさのようなイメージを抱く。私にとって、神が潜むデザインとは、不安になったときに私を揺り戻してくれたり、自信をなくしたときに後押ししてくれるような空間だ。そこには静かに見守っていてくれる仲間のような存在のものたちがたくさんある。誰かにとってのそんな空間をつくりたい。




(2022年3月15日更新)




▲筆者の本棚。(クリックで拡大)








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