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コラム

神が潜むデザイン

第28回:織咲 誠/全体の最適は、実はひとつ?

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト [プロフィール]
織咲 誠(おりさき まこと):インターデザインアーティスト。マコト・オリサキインターワークス研究所代表。「自然力を取り込む知恵」の思索と実践「物質量やコストにたよらない」利を得るクリエイティブの提唱をしている。思想からうまれる形は世界で特許登録され、数々の製品として世に出つつある。『Line Works』--「線の引き方次第で、世界が変わる」:“結びつきの関係”のリサーチと教育プログラムの実践。展覧会:『Hole works』個展(habitat 英国)◇出展:「活動のデザイン」展、瀬戸内国際芸術祭2013(小豆島)、「ニュービジョン・埼玉 Ⅲ──7つの目×7つの作法」展(埼玉県立近代美術館)、「Re Design」展。◇企画・構成、ディレクション:「ファイル展」、「FILING展」、「BRAUN展」◇受賞:「URBANART#1」 大賞|審査員賞、第14回桑沢賞、第17回全日本DM大賞日本DM協会会長賞など。 http://www.or-ita.me/



「あたらしい時代」への転換やアップデートのチャンスを奇しくも自然界から与えられた我々人類。コロナの収束という「ひとつ」の願いに向き合い、みんなで努力していることは相当に尊い。

神=自然の振る舞い。

「神が潜むデザイン」=神が喜び、神との対話領域にまで到達したであろうもの。「自然の理に適ったものづくり」の話ができたらと思う。

自然界の「見えない力」を「神」として捉えてきた人類。目に見えなくても在る。現代ではウイルスを可視化できるが、その技術も自然の仕組みや神の振る舞いとひとつひとつ対話しながら積み上げて来た知恵のかたち。人間界の事情と自然界との密な対話がなされた末にでき上がって来たものが個人的に好みです。

●収斂する「ひとつのかたち」

あるひとつの方向に寄って落ち着いてくる自然なかたち。川の河口に近い場所にある石は大体が丸い方向に寄って来てしまうような自然の理。源流では三角や四角、ギザギザの石でも、河口で収斂されてくるのは神のデザインと思っている。そうは言っても多様な文化やそれぞれの価値観は残しておきたい。「違うこと」は自らを浮かび上がらせたり、新たな概念に出会う楽しみ。何かと良いことが多い。

デザインにいくつもの解が出てくることも理解できる。一方で、重力定数やさまざまな自然科学の原理・法則がひとつの値に落ち着く宇宙のしくみ(今、重力定数は揺らいでいるそうだ)。

「美」と言えばそれぞれの趣味や価値判断により多様で、なかなか1つに語ることは難しいが、「優美」ということばに出会って腑に落ちた。例えば茶道の所作は堅苦しいと思われるきらいもあるが、時間と労力、力の利用をもっとも節約するもっとも経済的な処し方になる。

25年ほど前、私は優美という言葉を知らなくてもそれを感じたことを思い出した。ヨーロッパには誰も目を止めないような日常の細部、足元にまで美しいデザインがあると。雑誌『DOMUS』の1ページ「鉄道のレールを留める金具」の写真に目が釘付けられたのだ。その写真の金具(パンドロール線路締結装置-Pandrol Fastclip)には留めるためのボルトがない、消えている…機能剥き出しの荒々しい雰囲気がなく、柔らかく魅惑的なバネの原理の利用。日本でも「e」の形の金具を見ることができる。この機構は部分の力技の集合ではなく「つながり・協調しあう」関係のデザインであって、全体で成す姿を見ておくのがポイント。

●細部ではなく全部、全体のふるまい

パンデミック下での学びとして、全体でひとつの判断をしなくてはならない局面も増えてきた。そう「地球感」だ。部分最適化や特化でなくて「全体最適」を指向しはじめる好機到来。

部分と全体、どちらか? を問われれば「どちらも」と答えるようにしているし、教えている。「二兎を追う者…」は旧い時代の話。今、知識もツールも揃っているし、一石二鳥、合金のように1+1=3や4.5になるようなことも知られている。そもそも「共にいかす」のがクリエイティブではないか。

イサム・ノグチはハーフより「ダブル」。どちらもの人と称する方がふさわしいと思う。「AKARI」シリーズは西洋でも東洋でも愛されているし、芸術と商業美術の壁も包み込んだ。地域の素材を用いることで環境や文化を守り、人の暮らし、持続する産業を興した生きたデザイン。折畳みは輸送に優れ、廃棄時の環境負荷面など欠点が見つからない。まるっとすべて完璧なものづくりは土地の神様が降りて来てくれたのであろうか。

●『Line Works』-「線の引き方次第で、世界が変わる」

私の仕事では、物質の使用をより少なく、コストを増やさずに高機能や問題解決を求め、物とコトの関係を線引きし直すデザイン思想の上で活動している。同様に他者の仕事の中に学び、原理・原則を「誰もがよそで応用できる」ようなリサーチ集も進めている。知恵の「共有」と触発によって、みんなで世界がもっと上手く機能するようにアクションを誘う取り組みだ。

ここでリサーチ集から好事例をひとつ。木のベンチの絶妙さを紹介します。「座る~テーブル」まで、使い方の自由を線だけでまとめた力作「Tomarigi」は、床穴もT字脚もいらない。ただ置くだけで倒れない。

転倒を防ぐ安全のための構造と意匠が溶け合い、細部も全体も不可分で最小限で最大の利益を生み出したのは「床に加工を一切してはならない」という思わぬビル側からの条件からだった。そして傑作が生まれたそうだ。悪条件は最大のチャンスを体現している。

自身の仕事で言えば、多彩なシーンに「ひとつの道具」でまかなう一器多用(いっきたよう) な「紙皿」。手のひらと物とコトの多様な「つながり」に配慮していった先に自然とかたちが立ち上がってきた。

また、21世紀の理想「つながり」を求めゼムクリップを120年ぶりに進化させた「Clink!=Clip+Link」は、各国の特許庁に登録されている。他者とつながるカナビラ機構は実は大変難しいが、文具と道具の領域を橋渡しできたのは神のご褒美だと後々気付いた。

●全体を生かすシステムにアップデート

多くのクリエイターが「神が潜むものづくり」を行っていれば、世界はもっと上手く機能するはず。今、人類の活動に制限がかかっているのは、矛盾の現れと捉えるのが自然ではなかろうか。

昨今、個を超えた全体の仕事をしている人が多くなって来ていることは実に励みになる。バリエーションをつくることを多様と捉えるより、バラエティーを生かすひとつのシステムをつくることができたらどんなに素晴らしいことか。みんなで、八百万の神がよろこぶ行動にアップデートしていきましょう!



(2021年4月12日更新)


▲「パンドロール線路締結装置PandrolFastclip」(domus dossier numero 4- 1996_P.90)より引用。この感動が数年後、自作でクリップの歴史を一歩進めることにつながったのかもしれない。


▲日本で多く見られるパンドロール「e」クリップ。機能するデザインは、ある方向に寄ってくる。「線路締結の歴史」にくわしい(欧文PDF)。


▲イサム・ノグチ「AKARI」55FF+BB3 φ58cm。和竿の技法(接続部の糸と漆づかい)に感服。真球に近い55DD φ55cmとの直径3cm差にも注目したい


▲「Research of Line_Works」(2006年~)自然の法則や原理に触れたデザインの知のデータベース。2,500事例の中から共通するデザイン原理を蒸留しておよそ50前後の項目にまとまっている(クリックで拡大)


▲梅田阪急ビル15階スカイロビーのベンチ「tomarigi」。全体がカーブしていれば、重心は必ず転倒軸の内側に来るという性質。「重さ」と「曲率」のバランス。デザイン:福屋粧子、構造設計:満田衛資。(クリックで拡大)


▲つながりのかたち(1)平面から立体へ。立食における各々が紙皿を介してスマートにつながる。サザエなど「紙皿でつかみ押える」ことも得意。(クリックで拡大)


▲(クリックで拡大)


▲つながりのかたち(2)のばして→曲げなおしただけ。同じなのにデキルことがひろがった。手錠を掛けるように「カシャ!」と棒に押し当てると入り込む仕掛け。(クリックで拡大)






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