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コラム

神が潜むデザイン

第27回:安西葉子/時間を超えるタイムレスなデザイン

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト [プロフィール]
安西葉子(やすにし ようこ):1976年生まれ。林 裕輔と共にデザインスタジオDRILL DESIGNを設立。プロダクトデザインを中心に、グラフィック、パッケージ、空間デザインなど、カテゴリーを超えてデザインとディレクションを行う。Red Dot Design Award、Good Design Special Awardなど受賞歴多数。グッドデザイン賞審査員、東京オリンピック2020トーチ審査員を務める。
http://www.drill-design.com/



●40歳離れた親友

私には40歳年の離れたデザイナーの親友がいる。大変うれしく、そして光栄なことに、多くのデザインに対する感覚が共有できていると感じる。いいと思うこと、悪いと思うことの価値観にほとんどズレがない。この共鳴する感覚は、ときに感動すら覚える。出会ってからこの10年を通して、今年で84歳となる(年齢を公開すると怒られるかな)アオイ・フーバーさんとの親交、そこから学ばせてもらったことは本当に大きい。

クリエイティブやデザインに対する姿勢、そして彼女を取り巻く環境も含め、その小さな体にはたぶん、いやまちがいなく神が潜んでいるのではないかと踏んでいる。

●モダンデザインが生きる自邸

アオイさんと、パートナーでありイタリアのミッドセンチュリーデザインを牽引したグラフィックデザイナー、故マックス・フーバーさん夫妻の自邸は南スイスにある。まずは彼女のデザインの源がすべて詰まっているこの場所について紹介したいと思う。

ミラノから電車で30分ほどの南スイスの国境の街、キアッソ。ミラノに来るたび、ほぼ毎年のように訪れることになるだが、2011年の春、私たちDRILLDESIGNは、初めてアオイさんのお家を訪問した。ミラノサローネのお祭り騒ぎから逃れてきたにも関わらず、そこでミラノとはまったく違う意味のインパクトを受けた。

マックスさんとアオイさんのスタジオ兼自邸として設計されたその家は、モダンデザインの名作が活き活きと存在する、まさに生きたミュージアムのような場所だった。

印象的なオレンジ色の玄関扉をあけると、明るいエントランススペースにはアッキレ・カスティリオーニのビンテージベンチ「Camilla」(Achille Castiglioni/1984/Zanotta)と、コートハンガー「Servomanto」(Achille Castiglioni/1985/Zanotta)が、当たり前のように置いてある。

そして、そこからリビングに続く長い廊下は、マックス・フーバーやブルーノ・ムナーリの作品が並ぶ。家というよりはギャラリーのようなその廊下にぽつんぽつんと置かれたカスティリオーニの「Mezzadro」(Achille Castiglioni,?Pier Giacomo Castiglioni/1957/Zanotta)、廊下から続く部屋の入り口にはジャスパー・モリソンの「Universal System」(Jasper Morrison/1990/Cappellini)が。

あまりにもインパクトの強いプロダクトの連続で、ここはお家なのか、それともまたミラノにもどって展覧会の一部を見ているのかという錯覚に陥る。
廊下の先には、光が差し込む気持ちの良いリビングダイニングがある。そこでもさらに名作は続き、マルセルブロイヤーの「Wassily Chair」(Breuer/1925/Knoll)が暖炉前やリビング点在し、「Allunaggio」(Achille Castiglioni, Pier Giacomo Castiglioni/1965/Zanotta)が気持ちよさそうにセンターテーブルを囲む。そしてダイニングには使い込んだブロイヤーの「Cesca Chair」(Marcel Breuer/1929/Tohnet)。

名前を挙げ始めるときりがないのでこの辺でやめておくが、ほとんどがモダンデザインの名作家具で構成されているにも関わらず、不思議とまったく嫌みな感じがしない。それどころかとても居心地がよい。一番の要素としては、レイアウトの妙がある。

アオイさんはグラフィックの人なので、その抜群の構成力でモダンデザインと、なんでもない生活の道具を見事な配置でレイアウトしているのだ。さらにモダンデザインの隙間に夫妻が長年世界中でコレクションしてきた日本の民芸品や日用品、石や木の実が点在していて、そのバランスが「絶妙」に作用し、この空間を美しく、かつ心地よく人間味のある空間に仕上げている。

●完璧は美しいが、まぬけである

私たちのメンターでもあり、同時にアオイさんが長年に渡って協業したデザイナーの1人である天才ブルーノ・ムナーリの言葉にこんなものがある。

必然は それだけでは 単調なもの
偶然は それだけでは どうにも落ち着かないもの
東洋の賢人はいう
完璧は美しいが 同時に まぬけである
それを知り そして壊さねばならぬ と
必然と偶然の組み合わせは
人生であり 芸術であり
空想であり 良識であり
そしてバランスである
(ブルーノ・ムナーリ「ムナーリの言葉」より)

この文章がアオイさんの空間のすべてを表しているように思える。

美しいだけではダメ。完璧を目指して追及しつくして、壊す。偶然と必然の組み合わせは人生であり、芸術である。この考え方は、私たちDRILL DESIGNがデザインを考える上で根底にある思想でもある。デザインはともすると完璧主義の排他主義になる危険性があるけれど、それはゴールではないし、まったくまぬけなのだ。偶然と必然をごちゃごちゃにしながら、人生をかけてバランスをとっていく、それがデザインなのだ。

●時代を超える力

またアオイさんを取り巻く人々の作品は、時代を超える力を持っているものがとても多い。アオイさんの父であり、日本のグラフィックデザイナーの草分けであり、仲條正義さん、福田繁雄さんの師匠でもある河野鷹思さんの作品は、戦前のものとは思えないほど活き活きとした力を持ち、そこには確実に昇華されたオリジナリティが存在する。マックス・フーバー、ブルーノ・ムナーリ、アッキレ・カスティリオーニに関しては説明するまでもない。

その力はとは、いったいなんなのか。デザインは時代と共にあるのが基本ではあるが、どこかに時代に反発する強い精神と意思が存在し、それがそうさせているのかもしれないし、もっと他の理由もあると思う。

その答えは今後も考え続けることになるのだが、私たちが今手がけているデザインも、時代に対する答えではありながら、未来に届くメッセージのようなものでありたいと思っている。

(2021年3月15日更新)


▲エントランス横の薪置き場。(クリックで拡大)


▲長い廊下に点在するカスティリオーニ・コレクション。(クリックで拡大)


▲廊下はギャラリーになっていてマックスフーバーやブルーノムナーリのオリジナルが飾れている。(クリックで拡大)


▲ガーデン用にデザインされたベンチもさらりとリビングのセンターテーブルの横に。この使い方の方がいいんじゃないかと思ってしまう。(クリックで拡大)


▲暖炉コーナー。名作と無名の日用品が気持ちよく混在する。Ph:Takumi Ota(C)Sabato(クリックで拡大)


▲大きな窓からは緑あふれる広い庭とスイスの山々がのぞく。(クリックで拡大)


▲アオイさんのスタジオ。(クリックで拡大)


▲アオイさんのレイアウト構成、その1。要素がとても多いにもかかわらず、リズムとバランスがあって心地よい。(クリックで拡大)


▲アオイさんのレイアウト構成 その2。ものの配置と色のバランスが絶妙。これがふつうに暮らしの中で仕上がってしまう。(クリックで拡大)


▲『ムナーリのことば』ブルーノ・ムナーリ著、阿部雅世訳、平凡社。(クリックで拡大)



▲『takashi kono / seishun-zue』より。1932年の映画ポスター。(クリックで拡大)

Ph:Yoko Yasunishi / Ayumi Shinohara



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