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コラム

神が潜むデザイン

第20回:人柄が潜むデザイン/横関亮太

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
横関亮太(よこぜきりょうた)1985年岐阜県生まれ。金沢美術工芸大学製品デザイン学科卒。2008年から2017年までソニー(株)クリエイティブセンター勤務。2017年RYOTA YOKOZEKI STUDIOを設立。プロダクトデザインやクリエイティブディレクションを軸に、家具、家電製品、生活用品など国内外のさまざまなプロジェクトを手がける。2016年「AIZOME chair」がVitra Design Museumに永久所蔵された。iF Design賞、Good Design賞など受賞多数。



本コラムのテーマである「神が潜むデザイン」といわれても正直ピンとこない。それは僕の中で、神とは誰なのか漠然としていてリアルではないからだと思う。

僕自身がデザイナーだということもあるからか、デザイナーは神ではないと思うし、デザイナー至高主義も苦手である。むしろ僕は人柄が潜むデザインが好きであり、常に僕の興味をそそる部分である。人から人へ伝えるモノづくりの世界では、クオリティ高くでき上がったものには人柄が宿ると思っている。

●気遣いと優しさのディテール

昔から好きなデザイナーにBruno ninaber van eyben(ブルーノ・ニナバー・ヴァン・アイバン)がいる。オランダの国民的デザイナーで、さまざまなものをデザインしているが、オランダの紙幣やオランダユーロのデザインやRandstad社のノベルティ・ステーショナリーシリーズのデザインが有名である。

彼のデザインしたアイテムはとにかくシンプルなのだが、ディテールにはどこか人の気持ちに沿う優しさや気遣いのようなものが随所に盛り込まれている。

特にノベルティシリーズのテープディスペンサーはお気に入りである。シンプルな薄い円柱形状なのだが、手に持つととても持ち心地がいい。よく見ると平面がうっすら円錐状に凹んでおり、ここに自然と親指が納まるのである。

もちろんテープディスペンサーとしての機能は秀逸だ。常に少し飛び出ているテープの先を持ち、必要な分だけを引っぱり出して少し傾けると本体から刃が現れてカットできる。切り終えると勝手に刃が本体に収納され、安全性が確保されている。そして次に使いやすいようにまた少しだけテープの先が出ているのである。

どんな複雑な構造なのかと中を開けてみると、プラスチックの筐体に板バネを差し込んだだけのとてもシンプルな構造なのだ。しかし設計はとても綿密で、板バネのカーブや厚み、テープの芯と板バネの位置関係のバランスをすごく綿密に計算しており、上記の使い心地を実現しているのである。

この製品は日本ではあまり販売しておらず割と高額なのだが、当時ノベルティとして開発したため無理のない製造方法にしており、コストパフォーマンスもとても良い。あらゆる面で、人のための想うこだわりが詰め込まれたそのテープディスペンサーから、彼の暖かみのある人柄が滲み出ていると僕は感じるのである。

●体験価値のために、そっと馴染むこと

僕が以前デザインしたアロマディフューザーがある。渋草柳造窯の吸水性釉薬の陶器プレートにアロマを垂らし、気化した香りを本体内部のファンで上昇気流を起こして部屋中に広げるというものである。

はじめに、デザインする際には、香りを楽しむ体験を主役として引き立たせるため、すっとテーブルに置いて、そっと景色に馴染むディフューザーを作りたいと思った。その姿が香りの体験価値を高めるための在るべき形になるはずだと考えたのだ。

昨今では、家やオフィスでも香りを生活の一部として取り入れる社会になってきた背景がある。そのため今回は香りの体験価値を阻害しないために、さまざまな空間に馴染むノイズレスでシンプルな造形を追求した。

アロマを垂らす陶器プレートには、アロマが揮発しやすく洗浄しやすいという吸水性釉薬の機能性はもちろんのこと、陶板の工芸特有の暖かみのある質感と色を生かし、香りとともに気分に合わせて陶板プレートも取り替えて楽しめるようにした。

筐体にはアルミの削り出しを使っている。香りを部屋に広げるファンの吸気穴を底面に配置し、筐体側面が吸気穴だらけになるのを防いでいる。また電源ボタンは筐体そのものになっており、ボタンの切り欠きがでないのでノイズレスな形になる。筐体の縁を押し込む方法にしたことで360°どこからでもボタンが押せる。つまりテーブルの中心に置いても、どの席からでも操作できるのである。

質感豊かな陶器プレートとアルミ切削筐体を生かし、工芸家電としての質感クオリティと使いやすさを高めることに注力した。そのおかげでテーブルの中心に置いても使いやすく、他のテーブルウェア(例えば、木製テーブル上の陶器皿やガラスコップ)と並べても遜色なく馴染む上質な質感に仕上げることができた。

つい楽しくて話し込んでしまったが、結局僕は、誰かにそれを自然と選んでもらえて楽しんで使ってもらうことで、生活が少しでも豊かになる体験をしてもらえれば、それで嬉しいのである。

そのために、僕は人のためを想うこだわりをできる限り丁寧に詰め込んだモノづくりにこれからも取り組んでいきたいと思います。


(2020年8月14日更新)



▲Bruno ninaber van eyben(ブルーノ・ニナバー・ヴァン・アイバン)氏。


▲Randstad社のノベルティ・ステイショナリーシリーズのテープディスペンサー。(クリックで拡大)





▲WEEKENDアロマディフューザー。渋草柳造窯で作られた陶器プレートにアロマを垂らして使う。(クリックで拡大)
https://weekend.jp/




▲WEEKENDアロマディフューザー。(クリックで拡大)


▲陶板の工芸特有の暖かみのある質感と色。香りとともに気分に合わせて陶板プレートも取り替えて楽しめる。(クリックで拡大)


他のテーブルウェアと並べても遜色なく馴染む上質な質感。(クリックで拡大)


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