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コラム

神が潜むデザイン

第16回:身振りとしての「かたち」/藤森泰司

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

イラスト [プロフィール]
藤森泰司(Taiji Fujimori): 家具デザイナー。1991年東京造形大学デザイン学科卒業後、家具デザイナー大橋晃朗に師事。1992年より長谷川逸子・建築計画工房に勤務。1999年に「藤森泰司アトリエ」設立。家具デザインを中心に据え、建築家とのコラボレーション、プロダクト・空間デザインを手掛ける。近年は図書館などの公共施設への特注家具をはじめ、ハイブランドの製品から、オフィス、小中学校の学童家具まで、その活動は多岐にわたる。スケールや領域を超えた家具デザインの新しい在り方を目指して実践を続けている。毎日デザイン賞ノミネート、グッドデザイン賞特別賞など受賞多数。2016年よりグッドデザイン賞審査委員。桑沢デザイン研究所、多摩美術大学、東京大学、東京藝術大学非常勤講師。 http://www.taiji-fujimori.com



●全体あってのディテール

「神は細部に宿る」という言葉は、正直なところ実はちょっと苦手です。まあ、細部を大切にするという、自明の理としての意味はいいとしても、かなり誤解を生む言葉だと思います。なぜなら、細部/ディテールそのものだけを取り出して云々するのは、ほとんど意味のないことだと思うからです。

ディテールは、あくまで全体とつながっていることにおいて成り立つ概念です。このディテールはいい! という時の「ディテール」とは、それらが織り成して作られる全体においての1つのエレメントにすぎないのであり、そこから全体を見渡す視点がなければ、きちんと「モノ」のデザインを捉えられないと思います。

言い換えれば、素晴らしいデザインほど、ディテールは消えていきます。ディテールばかりが先に見えてくることがないからです。これ、なんかすごくいいなあ! と思う時、しっかりとそれを底流で支えているのが、小さなディテールたちなのです。

さて、これは日頃から自分が大事にしている部分でもあるので、ついつい熱くなってしまいましたが、本題に移りましょう。このコラムのお話をいただいた時、何について書こうかとしばらく悩んでいたのですが、やはり、自身の仕事の中心的な分野である "家具" についてしか書けないなあと思いました。それも、今、思っていること。

デザインの仕事を続けていると、かつてはそれほど気にしていなかったものが、急に(徐々に?)気になってくることがあります。ここでは、家具デザインについてに留めますが、何気ないことでも何か意味のあることのような気がして、その直感は大事にしています。

●「スパニッシュ・チェア」の身振り

ボーエ・モーエンセンの「スパニッシュ・チェア」というラウンジチェア、つまりはゆったりと腰掛ける、ダイニングチェアとソファの間(あいだ)のような椅子があります。洗練されたというより、どこか無骨でなんだか不思議な感じの雰囲気を持っています。なぜこの椅子が気になったかと言えば、その理由は明確には分かりません。

ただ、最近仕事でラウンジチェアのデザイン依頼があり、今、自分にとっていいと思えるラウンジチェアって何かなあと思っていた時に、ふっと頭に浮かんできました。好きなデザイナーの1人であるモーエンセンの代表作の1つでもあるので、もちろん随分前から知っていたのですが、改めて変な椅子だなあ(褒め言葉!)と思ったのでした。

僕が知る限り、この椅子が誕生した特徴的なエピソードが2つあります。1つは、モーエンセンがスペインに家族旅行に行った際のホテルのロビーで、幅の広い肘掛と低い座面を持った古い椅子と出会ったこと。そしてもう1つは、この椅子は彼の自宅用にデザインしたものであることです。ウイスキーが好きだったので、幅の広い肘掛けをテーブル代わりにして、ゆっくり嗜んでいたとのことです。要約すれば、この椅子はリ・デザインであること、そして特定の場所のためにデザインしたものであることになります。

あくまで想像ですが、デザイナーはいつでも何かヒントを探していますから、なんとなく「家に置く椅子どうしようかなあ」と考えていたとき、スペインの椅子を見て、あっ! と思ったのかもしれません。あるいは、バカンスから帰ってきて、さあ考えようと思った時にすっとイメージが降りてきたのかもしれません。わざわざ小さなテーブルを用意するまでもなく、こんな椅子があれば、好きなウイスキーがゆっくり飲めるぞと。

この椅子が示唆しているのは、いいデザインには必ず強い"動機"があるということです。何となくではないのです。リ・デザインのように、同じジャンルの先人の知恵からヒントを得るときもあるし、そのデザインによって何がしたいのか? ということがもっとも大事なことのような気がします。

スパニッシュ・チェアの特徴的な雰囲気も前述した動機から生まれています。低い座面、そして極端に幅の広い肘掛け、革という経年変化を引き受ける素材の使用が生み出す全体から、独特の椅子の身振りが立ち上がります。動機が身振りを生むのです。僕は、椅子を評価する時に、"身振り"という言葉を使いますが、要は(ものすごくざっくり言うと)、その椅子自体が持つキャラクターです。細部/ディテールとは、そうした動機をまとめる方法のようなものだと考えています。

●動機あってのデザイン

自分がデザインするラウンジチェアは、なかなかアイデアが浮かばずに難航しましたが、素直にやってみることにしました。今までもラウンジチェアはいくつかデザインしていますが、コンパクトにするというテーマが多かったように思います。どちらかというと、自分の好みもあって、小ぶりな椅子をデザインすることが得意でしたが、今回は、スパニッシュ・チェアにならって木材をたっぷり使い、ゆったりとした豊かな時間を過ごせる椅子をデザインしたいと思います。

僕にとって、大好きな白ワインをゆっくり飲める贅沢なラウンジチェアを目指すことは、デザインする上で強い動機となるのです。


(2020年4月7日更新)


※トップページのサムネールは「Børge Mogensen : Simplicity and Function」/ Michael Mueller(HATJE CANTZ)より。


▲「スパニッシュチェア」。FREDERICIA(フレデリシア) の公式サイトより引用。(クリックでリンク)


▲スパニッシュチェアに座るボーエ・モーエンセン


▲ボーエ・モーエンセン の自邸に置いてあるスパニッシュチェア 。(クリックで拡大)


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