神が潜むデザイン

第11回：Mick Karnに捧げる／村田智明

「神は細部に宿る」と言うが、本コラムでは、デザイナーがこれまでに「神」を感じた製品、作品、建築などを紹介していただくとともに、デザイナー自身のこだわりを語っていただきます。

村田智明：大阪市立大学工学部応用物理学科卒業。三洋電機退社後、1986年ハーズ実験デザイン研究所を設立。プロダクトを中心に、iF GOLD、Gマーク金賞を始め国内外のデザインアワードで160点以上を受賞。Microsoft Xbox 360を始め世界記録的な販売数を達成したデザインで、Newsweekの「世界が注目する日本の中小企業100社」に選定される。自ら運営するMETAPHYSは、「行為のデザイン」に基づいて開発から販売までを実践している。神戸芸術工科大学客員教授。著書に『ソーシャルデザインの教科書』『問題解決に効く行為のデザイン思考法』『感性ポテンシャル思考法』などがある。
https://www.hers.co.jp/　　http://www.metaphys.jp/

●Mickを聴きながら創作

「神が潜むデザイン」というテーマで…と聞かされたとき、私には正直、カタチは思い浮かばなかった。むしろ、直ぐに思い浮かんだのは音楽。それも不協和音に近い音が絶妙なタイミングで整合する瞬間。そう、脳裏に浮かんだのはMick Karnというベーシストのフレットレスベースの不協和音だった。

大学時代に応用物理のゼミの合間に、描きかけの120号のベニヤのキャンバスにシェルマチエールを重ねた。そして、リキテックスで調色したグレイッシュなターコイズの色彩が入るにつれて、絵は次第に怖さを増していく。その制作には、120号ごと包んで唯我になれる空間が必要で、そこには必ずMickの音が必要だったのだ。

●時代と絡む表現ではなく

当時、順当にビートルズから始まるロックの流れを聞いてきた私は、偉大なアーティストたちの音作りのパターンと、パターンを少しだけ外す気持ちのいい裏切りを経験してきた。デヴィッド・ボウイがその典型で、前作とは違うパターンを常に繰り返しながらも、やはり彼のオリジナリティが随所に光っていた。

今考えると、それは自動車のデザインとの近似性がありそうだ。市場性や時代背景の変化の中で確実に継承すべきものと裏切るものを論理的に構築していく、そのしたたかさに我々は毎度舌を巻くのだ。

しかし、MickがメンバーだったJapanの2作目のアルバム「Obscure Alternatives」（1978年）の「Love is Infectious」を聴いたとき、私は本当に心が震えた。それは神が潜む音だった。ロックの流れでもない、コマーシャルベースの売れる曲とは程遠い、こうすればまとまるといったパターンは1つもないのだ。パンクの雑っぽさもなくラフなのに洗練されている。

●魂を揺さぶること

私は、この音に出会ってから、次第に、常に内面を見るような自分へと変わっていくのが分かった。サウンドが人を変えるのだ。それからの作品は、彼らの生み出す音をどうキャンバスに描こうか、音を絵にするという行為に浸っていたようだ。

2010年に癌を宣言したMICKは2011年1月にロンドンの自宅で帰らぬ人となった。でも生前と変わらず、彼の音に心を震わせながら、ドライブを楽しむことができる。彼は今も音の世界に生き続けて、私たちに影響を与え続けているのだ。あらためて「神たる所以」は、こんなことなんだと考えさせられる。

直感で魂を揺さぶる音楽に比べて、デザインでそこまでのことはなかなかできないかも知れない。でも、音と同様に人に感動を与えることができるものが少なからず建築や空間内装にはある。商業的に成り立ちながら、時の流れにも耐えて陳腐化せず、いつまでも魂に感慨を与えるモノのデザイン…いったい生きているうちに1つでも生み出せるのだろうか。私には、気が遠くなる話のような気がする。


（2019年11月6更新）

▲Japanの2枚目のアルバム「Obscure Alternatives」より「Love is Infectious」。（クリックで再生）

  ▲Mick Mick Karnの6枚目のソロアルバム「More Better Different」より「Jump」（クリックで再生）

 
▲著者による最近のデザインより。「LUCANO（ルカーノ）」脚立。（クリックで拡大）


▲「PREMIUM POWER（プレミアムパワー）食器用ヤシノミ洗剤」 （クリックで拡大）


▲「woongjin」空気清浄機。（クリックで拡大）

▲「micro titan（ミクロチタン）」メガネフレーム。（クリックで拡大）


▲「METAPHYS movos」自転車。（クリックで拡大）