●何故か花を長生きさせるDIORの花器
ここ数年「花器」のデザインをたくさんしてきた。それらの産地や素材もさまざまで、備前焼、有田焼、武雄焼、ガラス、錫、アルミなど多岐にわたる。現在も伊万里で新作が進行中だ。そんなわけで、事務所にはそれぞれの花器の試作モデルが複数鎮座している。そして時折、事務所の庭に咲いている季節の花をその試作に入れて楽しんだりしている。
そんな中で、1つだけ不思議な花器がある。それが写真のDIORの花器。この花器を用いると、異様に花の寿命が長いのだ。摘み取ったのと同じ庭の花がダメになってきていても、何故かこの花器の花だけは、元気な姿を保っている。気のせいではなさそう。
あまりにも不思議なので、昨年はその方面の第一人者でもある農工大の山田教授に試験をお願いしたところ、驚くような長寿命が確認された。花の中でも特に、バラ科が長寿になるという結果をいただいた。以前、庭の小手毬をこの花器で活けていて、特に長期間元気なのでこれも不思議に思っていたのだが、改めて調べてみると、小手毬もバラ科に属するの花だった。
その長寿命の要因はいったい何なのだろうか? 材質なのか、フォルムなのか? デザインしたときはフォルムの美しさだけしか頭にはなかったのだが。そもそも、このDIOR花器の製作は能作さんによるアルミの旋盤加工である。旋盤加工を角度を付けて変化と抑揚を付けた勢いのある形状だ。
底面はアルミの切削部品で溶接したシンプルな構造である。アルマイト処理はしていなく、薄くラッカー被膜の処理のみ。同じく能作さんによる錫のSラインシリーズという酒器シリーズもデザインしているが、こちらも花器に見立てて花を入れて使ったのだが、同じ工場での生産であってもDIORのアルミ花器だけがやはり花が元気なのである。
ちなみにSラインシリーズは、金属の錫を鋳物で作成したシリーズで、錫の持つ特性でお酒が美味しくなる、まろやかになると言われていて、実際に飲んでみると確かに美味しい気がする。おかげさまで現在も売れ行き好調である。
ただ、花の元気さという面で比較すれば、DIOR花器のほうが圧倒的に元気なのである。ということであれば、素材に関して言えば、アルミという素材そのものに何か秘密があるとしか考えられない。
●生物電気とアルミ
アルミというとまず思い浮かべるのが1円玉であるが、アルミの特性として、その軽さに対して、電気をとても良く流す。生物電気とういうものがあって、細胞の動きというものは自らが発電した電気によって制御されている。人間の心臓の動きも生物電気で制御されている。今はもうやってないかもしれないが、小学校のカエルの解剖実験の一環で、脚だけつるして、電流を流すと大腿四頭筋みたいな部分がぴょこぴょこ動き出すというのを見たことがある人もいるだろう。
生き物にとって筋肉を動かすのは念ずることではない。脳からの指令といっても、それは電気信号を送るということだ。意識的な動作も、先ほどの心臓とか呼吸、細胞の成長、修復など、無意識化の行動の制御も電気制御なのだ。それだけ、生き物にとっては電気が不可欠だということ。生物と無生物の違いの議論もたくさん存在しているが、1つにはこの電気のあるなしも境界線なのではないだろうか? ここは興味深いのでちょっと調べてみたい。
自分の場合は、いつもランニング後の脚の筋疲労がひどいので、できるだけ銭湯に行って、冷水と温水の交代浴と電気風呂を交互に行っている。だいぶ昔からあるこの電気風呂だが、廃れることもなく現在も存在して人気なところを見ると何かしらの効果があるのだろう。少なくとも電気刺激による筋肉の振動で血流が良くなるのは間違いない。よく、深夜の通販番組で腹筋を6パックにしようとかいうEMS機器もやはり電気刺激によるものだ。鍼灸師が電気を流す治療をするのも同じ理由だろう。そう考えるとやはり、アルミの持つ電気の特性の可能性は高いだろう。
●アルミによるデザインの可能性
また、アルミが他の金属と違う性質として、磁場に影響されないというのがある。要は鉄とか銅とは違って磁石が付かないという性質。ただ、ガラスや陶器、磁器なども物質的には磁石はつかないので直接的な理由にはならないだろう。また、別のアルミの特徴として、熱伝導性の良さもある。
これはパソコンやオーディオなどで使われる、ヒートシンク機能というもので、熱をどんどん放熱させて、内部を冷却する時にアルミを使用する。おそらくだが、日向に置いた場合の花器の状態であれば、ガラスとか、磁器のモノより、内部の水温はアルミのほうが低いはずだろう。これも実験してみる価値はある。冷たい水が雑菌の繁殖を抑えるとか、低い水温が影響あるのか。
まだまだたくさん不明な点はあるのだが、時間をうまくやりくりして調べていきたい。アクアフォトミクスという研究があることも教えていただいた。ただ、物質的な特性ばかりの話ではあったが、自分のデザインしたこの元気な形状、フォルムというものが花を元気にさせている可能性もまだ残っている。よく、植物にバッハを聴かせると元気になるという実験があるが、器のフォルムからくる生物の活性化という要素もあって欲しいと思うのである。
こういった点が何らかの形で証明できれば、自分のデザインの存在意義みたいなものも見えてくるだろう。まだまだやりたいことが多すぎる。どうしよう。
2025年6月1日更新
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▲事務所にいつもあるDIORの花器。製作は高岡の能作さん。謎の花の長寿命で現在調査中。この花器は残念ながら限定生産で終了しました。(クリックで拡大)
▲同じく能作さんの酒器「Sラインシリーズ」。これはワインデキャンタですが、もちろん日本酒などでも合います。(クリックで拡大)
▲Sラインシリーズのワイングラス。錫の特性でお酒の味がまろやかに感じられます。これは内側に金箔を貼り込んだ豪華版。とても人気の商品です。(クリックで拡大)
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