●インターホンの在り方
エアコンや扇風機など、必要だけども存在を消してすっきりさせたいものがある。
玄関と室内をつなぐインターホンもそのうちの1つ。以前のスタイルは多数のスピーカーの穴が存在を主張していた。しかも、スピーカーを必要以上に大きく見せようと、ダミー穴まで増やす始末。だからスピーカー穴がたくさんあるほどいい音が出そうな図式があった。しかし、インターホンも画面が登場すると、人は画面に向かってしゃべり、画面から音を聞こうとする。これは自然な行動だと思う。
現在のZOOM会議でも、意識的には自分の見ているPC画面の相手の顔の位置に向かって話しかけているはずである。近年、マイクやスピーカーの機能は大きく向上し、非常に小さくすることが可能になった。その一方で、画面はできるだけ大きいサイズに移行しているのである。
そこで自分がインターホンをデザインするうえで考えたのが、料理や陶芸などの最中でも、汚れた指ではなく、肘でも押せるように通話ボタンを以前より大きくし、そのスイッチの下に確保できた可動域の隙間から、音質の良い音を出せるように工夫した。同時にスピーカーの穴を一掃してすっきりした掃除のしやすい表面に仕上げたのである。不思議なことに、スピーカーの穴がなくなってもだれも最初は気が付かない。しばらく使ってみて、使用者が掃除がしやすいことに気づき、その背後にあるさまざまな工夫を理解するのである。ある意味、「消すデザイン」とはそういう在り方でいい。主張がなく、じんわり効いてくるのがいい。
●存在感を消していく進化
とにかく、モノと情報が多すぎる現在。可能であれば、壁、天井、床といった部屋を構築する最低限の部分に生活に必要な機能が含まれているのが理想だろう。
天井や壁面で室内の温度や湿度、換気などの制御が可能であればどんなにすっきりするか想像すると楽しい。天井や床そのものに照明機能があってもいいし、音楽が聴こえてもいい。現在のエアコンは相変わらず壁から突出していて、不格好だし、30年以上前のものからほとんど進化していない。スマホという電話の小型化の進化から比べると、進化する気力も感じられない。
ただ、生活するうえで必需品なのがエアコンであるのは間違いない事実だろう。何か、革命的な小型化、薄型化を今後期待したいものだ。
床暖房というのは、寒冷地では昔から存在する手法ではあるが、近年の夏の酷暑化を考えれば、冷房に関しての改善が必要だろう。壁面冷房みたいなものができたら便利なのにといつも思う。頭寒足熱という言葉があるように、冷気は上から来るのが一番理にかなっているのだから。
空気も水も普段意識しないのと同じ。なくなると困るものである。しかし、空気も水も、ほとんどその存在感は消えている。世の中で必要なものほど、実は存在感は消えている。
●大事なものは何か?
伝統的な日本の家屋や茶室は非常にシンプルで禁欲的な佇まいである。仕切りも和紙や紙が積極的に使われて軽快である。
茶室の中で、ひときわ主張が強い物が一点集中的に存在する。それが、床の間という舞台に置かれた壺であり、花であり、曲線と彩色を室内に放つ。その背景として掛け軸がある。それ以外は、ひっそりと禁欲的に存在を抑えている。そこに日本の美学が凝縮されているように感じる。周囲を消すから主役が生きてくる。となると、いかにして消し込むかという手法が大事になってくるだろう。
主張すべきものとそうでないものの振り分けもデザイナーの仕事だろう。すべてが主張したら破綻する。それでなくても、我々はいらないものに囲まれすぎで暮らしているような気がする。断捨離をする目的の中で一番大事なのは、いらない事象を消去していくことで、覆われて曖昧だった一番大事なことを引き出すというのがある。
不要なサブスクとか溜まっている人も多いはずだろう。日常を振り返って大事なもの、大事でないものをリストアップするのもいいタイミングではないだろうか。
2025年5月1日更新
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