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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その70:絶滅するもの、しないもの

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。




●進化するガチャガチャ

ゴキブリやトンボ、シーラカンス、カブトガニのように原始時代から現代まで生存する生物もいれば、恐竜や翼竜のように短い期間だけ存在して以後すっかりと絶滅してしまう生物もいる。

これは生き物だけの話ではなく「モノ」の話でも同じだ。世の中、毎日のように新製品が開発され、市場に並んでいく。そして消えていき新しいものに変わっていく。その中には、昔とまったく変わらないものもあれば、以前の面影すらなく変わっていくものもある。その差はいったいどこにあるのであろうか。

まず、娯楽関係でいえば「ガチャガチャ」である。駄菓子屋の軒先に2台くらいがいつも並んでいて、所持金50円くらいあれば「いちごあめ」とガチャでいろいろと楽しむことができた。「ガチャガチャ」の基本原理は10円などコインを入れてハンドルを回すとランダムにカプセルが出てくる仕組み。カプセルの中にはおもちゃが入っている。ガチャの機械の外からたくさんのカプセルは見えるけども、出てくるカプセルの中に何が入っているか分からない。

昔は怪しい色合いの「ムカデ」とか「ゲジゲジ」が入っていて、いたずらの小道具としてはそれなりのステイタスはあった。それが今ではカプセルの中身は膨大な種類に発展している。ガチャガチャだけの店舗もあるくらいだ。これだけシンプルな構造でありながら、いくら時代が進化しても変わらない人気を保っているというのはすごいことだと思う。

一番最初にガチャガチャを考えた人は、これほどまで長く流行するとは思っていなかっただろう。カプセルを製造しているメーカーさんもこのカプセルを今まで何個製造してきたのだろうか。おそらく天文学的な生産台数だと思う。

リアルなアーケードゲームの世界では、縦横と上下の動きだけで勝負する「クレーンゲーム」が原始時代からの生き残りの産物である。職業柄、このゲームを見るたびに3Dプリンターを連想してしまうのであるが、これもその、動きの理解しやすさと構造のシンプルさに魅力があるのではないかと思う。ガチャガチャもそうであるが、あと1回頑張れば目的を達成できるのではないだろうか? といった期待値が高く感じられるのが「モノ」の生存力を高めるヒントとなっているのかもしれない。

●雨を避けるアプローチ

一方で日常生活の中で、ずっと変わらないものの筆頭は「傘」だと思う。単純に雨が降ってきたらそれを避けるだけの道具なのだが、構造的には支柱となる強度のある芯棒があり、手でしっかりと握れる取っ手があり、8本とか12本の開閉可能な細いフレームにコウモリの翼のような防水の布が張られている。

祖母の時代では傘のことをコウモリと呼んでいたとも聞く。折り畳み式や軽量化などで便利性での進化はしているが、基本的な構造は、時代劇で出てくるような傘と変わらないのも、実はすごいことである。単純に未来はそんなにすごくなかったのである。

雨を避ける方法とかって、他にもいろいろなアイデアがありそうな気もするが、結局この構造の傘に落ち着いているという事実。多分、あと100年経ってもこの傘を差して人々は街を歩くのだと思う。これも最初に傘の構造を考えた人物はすごいと思う。そして日本人は世界でも傘の使用率が高い民族なのである。海外に行くと分かるが、多少の雨でぬれてもほとんど気にしないのが世界標準なのである。

雨を避けるという点では、車のワイパーもほとんど基本構造が変わっていないのも不思議だ。車自体は燃料がガソリンからハイブリッド、電気、水素とその選択肢は増えたものの、車のフロントグラスを、ゴムのついた弧を描くようなふき取りを繰り返すというこの原理は大昔から何故かほとんど変わっていない。

どうも水に対する対応策というものは難易度が高いのだろうか? 非常にプリミティブな構造のアプローチが今も最前線で活躍しているのである。水滴が一切つかないガラスの開発であったり、空気の流れで雨がかからない構造とか考えられそうではあるが、現実的に実現しているものはない。

この他にも大昔とあまり変わらないものとして、自転車や鉛筆、布団と枕、映画館など探せばかなりのものが大昔から変わらず存在している。そういえば電子書籍が登場したときに、紙媒体はなくなるかもしれないといわれていたが、現在も本屋さんも書籍も雑誌も存在している。それだけ紙というものの便利性は高いのだと思う


●スマホのウラオモテ

変わらないものが数多くある一方で、一番劇的に変わったものの代表といえば、電話だろう。もはや固定電話や公衆電話は完全に化石化してしまった。今ではスマートフォンがいろいろなものの機能を取り込んで、日常生活を送るのに不可欠な存在となっている。

電話という概念が固定から携帯へと大きく変わり、他者とのコミュニケーションの本質的な部分が急激に変化したのはものすごいことである。リアルタイムで相手の時間を奪っていた電話というツールが、時間差のコミュニケーションをOKとするメールやLINEにシフトされたのは自然な流れでもある。1つの端末で写真撮影や動画記録も可能となり、より詳細な情報のやり取りまで可能となった。この進化の度合いは10年単位で考えればものすごいことだと思う。音楽を聴くという行為までもがスマホの中で完結する時代となった。今や音楽を聴くのに、レコードもCDも必要としないし、移動中に音源を確保することすらできる。

しかしながら、良い面ばかりともいえない。その便利性の裏側にSNSという中毒性のあるメディアが現れたことである。人間の好奇心を煽って、実はどうでもよいような情報を入手することに大事な時間とエネルギーを費やしてしまっているのである。

同時に、スマホの普及は街の姿も一変させてしまった。街中の人のほとんどが、下を向き、うつむいてスマホ画面を観ながら歩いている。前の人とぶつかる瞬間にギリギリ回避はするものの、非常に危険な行為である。

以前は、満員電車の中でガサガサと新聞を広げては畳むを繰り返す輩も迷惑だったが、今や全世界的に人々がうつむいて小さな画面ばっかり見て生きている集団となっている。特に東京がひどい。スマホの中の情報はその内容と反比例して非常に中毒性が高い。基本的に脳に習慣化されやすい。たばこやアルコールと同等の中毒性がある。

もちろん、情報の入手のしやすさといったメリットも大きいが、人生では知らないほうがいい情報を取り込んでしまって、無意味に劣等感を感じたり焦りを感じたりする必要はないのである。

スマホ画面の中で、世の中の自分以外の人が、毎日のようにリゾート地へ行ったり、毎食に、すごいご馳走を食べているような錯覚を感じているのは損である。すべては演出されたほんの小さな部分でしかないことを認識するべきだろう。本来は便利であるはずの道具が、メンタル面ではマイナスになっていることを意識しよう。

モノを作る側の仕事をしていると、本質的に長く使われてもらえるようなモノをデザインしていきたいと思う。それには、傘とかワイパーのようなシンプルで誰もが越えられないような工夫が不可欠だと思う。表面的なトレンドや流行は、新鮮さを顧客に感じさせるための手法であって、気が付けば一周回ってまた同じ床をぐるぐると回るものなのである。

 


2024年6月1日更新




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