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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その63:古墳めぐりは想像力で

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



東京のデザイン事務所以外の自分のもう1つの職場が、大阪芸術大学なのであるが、このエリアは「百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群」として、2019年の世界遺産に指定されている。とにかく、本当に古墳だらけなのである。大学の敷地裏には古墳があるし、歩いて10分くらいの場所に、安藤忠雄の建築による古墳ミュージアム「大阪府立近つ飛鳥博物館」という立派な博物館もあり、出土された埴輪とかを観ることができる。

先日、大学の講義が珍しく早く終わったので、以前からずっと気になっていた近くの世界遺産の古市古墳群を1駅分歩いてみた。とはいっても、古墳を一筆書きのように迂回しながらなので、古市駅スタートで土師ノ里駅までうねうねと9キロくらい歩き、3時間ほどかかった。

そもそも、この古墳という物体。上空から見て鍵穴のような図形に膨大な量の土を盛り上げ、周囲を彫り込み独立した島のような気が遠くなるような土木工事である。これが、このエリアのそこら中に存在しているのである。東京では考えられない。現在も、古墳を避けるようにしてその周囲に住宅街が共存していることが分かった。高層ビルも、古墳エリアにはまったくないのである。

●古墳とピラミッド

1,500年以上昔にできたこれだけのスケールの人工物はやはり世界でもかなり珍しい。百舌鳥の「仁徳天皇陵古墳」に至っては、日本最大の大きさであるが、地球規模でもエジプトのクフ王のピラミッド、秦の始皇帝陵とともに世界3大墳墓の1つとされている凄いものなのである。

しかし、この日本の古墳だけに見られる共通した鍵穴図形が意味するものはなんだろう? どの古墳も近くには、これを図形として認識できるような展望台的な山などはほとんどない。図形的にも世界であまり見たことないし、上から形として眺められることはできないエリアなのである。古墳の形としては他にも小さな円形やホタテ貝、方形などのパターンもあるが、歴史の教科書で学んだ鍵穴形状の「前方後円墳」は記号としてもなんだかミステリアスな部分があってとても惹かれるのである。

もう1つ、日本の古墳で不可解なことがある。ギザのピラミッドが四角錐各面の東西南北の方位に対して規則性があるのに対して、日本の古墳は何故かさまざまな方向を向いている。地図を見れば、そのまちまちな方向性は一目瞭然である。将棋の駒をぶちまけたような気まぐれで適当なイメージだが、現地でその巨大なスケールを目の当たりにすれば、その圧倒されるほど大規模な土木的な盛り土の工数を考えればこれがきちんとした計算の結果なんだろうと感じざるを得ない。周囲の堀だけでも大変な作業なのに。

応神天皇陵に関しては、なんと河川の軌道すら変更した形跡もある。今回は、この曲げた河川を実際に歩いてみて確認できた。工事の規模が膨大なだけに、この古墳群のバラバラな角度に、それぞれの説明可能な意味があるとしか考えられないのである。ピラミッドの東西南北の方位とかではなく、もっと別な計算の結果なのだろう。この件に関しては、ちょっと調べてみたのであるが、これだといった説はない状態で、学者同士でもなんだかヒステリックな議論が起きているようなので、あまり立ち入ってはいけない話なのかもしれない。

●古墳エリアの「気」

想像力を駆使して、古墳の前で当時の工事の様子を思い浮かべるのはとても楽しいひと時である。3世紀あたりに、これほどの大掛かりな土木工事を遂行したのもすごいし、航空写真を見ると、この巨大な図形としての完成度に驚かされるばかりである。当然、何かしらの図面のようなものや、測量機器が存在していたのであろう。工事の人の服装とか食事も気になる。

以前、バックパッカー時代に、取りつかれたようにエジプトや中米のピラミッド巡りをしていた時期があった。実際に登ったりもして、その巨大さに圧倒された。ペルーのナスカの地上絵も実際に、セスナに乗って見てきたが、有名な小さい動物の図形ですら飛行機の高度でやっと認識できる。もっと驚いたのが、巨大な飛行機の滑走路のような長方形が存在することだった。宇宙衛星から眺めてやっと認識できるような巨大で人工的な長方形の図形がたくさん存在している。地上からは、まず絶対にこれは認識できないので、不思議でしょうがない。

今回感じたのは、古墳エリアの「気」がものすごく強いということ。多分、古墳の中に見てはいけない何かあるのだろう。自分は強烈に浄化された感がある。古墳によっては、住宅街でさびれてしまったものもあったが、現在も大多数の古墳は、宮内庁の管轄下になっていて、厳重に柵で仕切られ、一歩も中に入ることができない状態である。それだけに、なおさら神秘的である。小さい気球とかでゆっくり観られたら最高だろう。

この世界遺産の古墳の街は、想像力を刺激されて、とても魅力的だ。超巨大な応神天皇陵の近くの餃子の王将で、ギンギンに冷えた生ビールを飲みながら、また来てみようと思った。

P.S.
大阪滞在時に毎朝走っている、天王寺の「茶臼山」という有名な丘があるのだが、ここも、古墳説と古墳じゃない説でもめているようだ。自分が、いろんな古墳を実際に歩いてみた結果で感じたのは「茶臼山」は古墳だと思う。周囲の堀豪の形状と雰囲気が古墳のそれと同じだからだ。ここは今も池として存在していて、人が寄っても絶対に逃げない、ここの主のでかいアオサギがいる。


2023年11月1日更新




▲スタートの近鉄線古市駅を2分ほど歩くと、日本遺産である竹内街道に出る。日本最古の官道といわれていて、大阪と奈良を結んでいる。飛鳥時代の交通の大動脈だったらしい。この道に沿って、古墳が至る所に存在するので、この道とも関係が深そうである。すごく細い路地であるが、独特の雰囲気がある。(クリックで拡大)


▲竹内街道沿いにあるこぢんまりした神社なのであるが、ただならぬ気配を感じる。とてもきれいに整備されているが、ものすごく古そうである。なんだか、杉本博司さんの作品のような雰囲気。(クリックで拡大)


▲古市駅から竹内街道を通って、白鳥陵古墳に着く。ヤマトタケルノミコトと関係があるらしい。まるで、沖縄とかの無人島のような存在感。いきなりこれを見てびっくりした。これでもサイズ的には大きいほうではない。(クリックで拡大)


▲ポイントとなる古墳の近くには案内板があって、古墳めぐりには助かる情報である。ただ、古墳めぐりをしている人は自分1人だけであった。この地図は北が下を向いている。(クリックで拡大)


▲別な場所にあった案内板。おそらく、古墳周囲の堀豪の水はこの大和川から引っ張ってくるというプランだった。とんでもなく大規模な工事だったろう。(クリックで拡大)


▲大体、古墳はこんな感じで鳥居があってそこから先には立ち入ることができない。宮内庁管轄化で厳重に管理されている。(クリックで拡大)


▲古墳の中にはこんな感じで頂上まで自由に登れるものもある。ちょっと高度が上がったでけで天王寺のハルカスまで見える。当時はたくさんの古墳も見えていたのだろう。(クリックで拡大)


▲まず、ほとんどの古墳はこのようなフェンスで取り囲まれている。ただ、特に監視員がいるというわけでもない。場所によっては釣り禁止という張り紙もあるが、中に侵入して釣りする人がいるのだろうか。(クリックで拡大)


▲天王寺「茶臼山」の主、逃げないアオサギ。(クリックで拡大)





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