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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その54:お正月でだめになる?

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

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[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(ハーフマラソン91分、フルマラソン3時間20分、富士登山競争4時間27分)。



●年末年始の誘惑

昨年末に「健康」の話を書いたばかりだが、皮肉にもこの年末年始は、1年の中で一番に身体を蝕んでしまう時期なのである。今月は「自戒」も含めて年末年始の過ごし方に関して考察してみる。

コロナの影響で会食の機会は減ってきたものの、それでも1年を通して俯瞰すれば、年末年始はやはり飲み会が一番多い。お酒は確かにおいしい。揚げ物もおいしい。しかし、お酒の飲みすぎは身体に致命的によくない。翌日の仕事の効率にも大きなマイナス影響となる。

ただ、やはりコロナの影響も大きいのだろう。以前のように年末に頻繁に放映された「胃腸薬」や「ウコン」のコマーシャルが激減している。まあよく考えれば、当然の成り行きで、忘年会で大騒ぎしている映像など流せば非難の的になるだろう。

しかしながら、正月太りの解消法みたいな記事をよく見かけるし、食欲の勢いに追い打ちをかけるようにファストフードのCMも増えている気がする。皆、この時期は罪悪感を感じながらも、食べすぎて、拡張された胃袋に継続して食物を投入し続けるというのが、ちょうどこの1月という悪魔の連鎖期間なのである。

欲望と対峙する、とても悩ましい期間。記念日としてのレストランなどはとてもよい時間だが、それが毎日のように繰り返されると心身ともによろしくない。自分も、普段はブロッコリー、キャベツに鶏むね肉とかで過ごしていても、大晦日や元旦にいつものような感じで食事をするのもなんだか自分がみじめな気がしてしまい、ついおせち料理やてんぷらを食べたくなってしまう。

まあ、儀式的な一度の食事であればこれはこれでいいと思うのだが、実は問題は他にもある。その1つが、1月2日、3日のあの大学駅伝なのである。スポーツ観戦はよいのであるが、なぜかビールとおつまみがセットになる(笑)。駅伝を観戦するという口実で、朝からビールとかを飲み始めてしまう。しかも、往路と復路の2日間ある。これはもう不可抗力で、駅伝の中継を午前中いっぱい食い入るように見てしまう。日本独特の素晴らしいスポーツの行事だと思うが、元旦気分をさらに延長させてしまう。何事も、3日以上の休みを作るとせっかく築き上げてきた習慣というのは脆くも崩壊してしまうのである。大晦日と三が日を足すと恐怖の4日間となってしまうのである。しかも、大体その時期はスポーツジムも休館なのである。

●日本人とお酒


海外で暮らしていたら朝から飲むこともあまりないのではと思うが、例えば、ミラノサローネとかアンビエンテだとか海外のデザインイベントでは、昼食にビールやワインを楽しむのも1つの習慣である。ただし、大前提として絶対に酔っぱらわないという暗黙の規則がある。皆昼食に当たり前のようにビールやらワインを頼んでいる。しかし、飲み続けているという人はいないし、大声で盛り上がるようなこともない。

そこには、お酒の香りと味を楽しむというのが第一にあって、まず、食事に合わせているという背景がある。レストランによっては、ワインのほうがミネラルウォーターよりも安い場合もある。海外の場合、お酒の目的が、人間の気持ちを解放して言いたいことを吐き出すためのツールではないといいうことなのである。

よく考えてみれば酔っ払いという状態に寛容な国のベスト1が日本ではないかと思う。終電間際の極寒の駅のホームで転がって泥酔している人とかも実は日本にしか存在しない。海外で、もしあれをやれば、まずすぐに財布取られて、最悪のケースでは、ぼこぼこにされてあの世逝きになる。それくらい海外では、アルコールは飲んでもいいけども、乱れたり、寝込んでしまうほど酔っぱらう人はいない。一度だけ東京駅で、でかいアメリカ人? がネクタイを頭に巻いてホームで寝転がっていたのを見たことがある。これはこれで、なんだか妙に嬉しかったのだが。優しい性格で日本流に、自分を解放してしまったのだろう。

そもそも、日本の昔の地方のお祭りだとかは、もうお酒のパワーもあってハチャメチャのことが行われていた。まさに奇習のオンパレードの国だったのである。調べてみると、とても興味深い。日本人の遺伝子にはこういった記憶も含まれているのだろうと思うのである。

●休むことのリスク

慣性の法則というのがある。自転車のように、ある程度のスピードで走っていれば、なんなくその速度をキープできるが、信号などで一度停止してしまうと、再起動に相当のエネルギーを要する。しかも、元の速度まで立て直すには時間もかかるから、メンタル的にも苛立ってくるだろう。一度完全に停止してしまうと動き出すのが本当に大変なのである。車でも、始動エネルギーが一番大きい負荷となる。

これは、食事管理や運動以外にも仕事や楽器練習でも同じことがいえる。減速することはあっても、停止はリスクが大きすぎる。

現在、幸いにしてデザインという自分の中の大好きな趣味の1つが、仕事として収入源として成立している。これは、とてもありがたいことなのであるが、これも当然、絶対に停止してはいけない作業なのである。CADのモデリングにしても、3日も空白を作ると取り戻すのに1週間は必要だ。プロとして常に考え続けているということがとても大事なのだ。楽器練習もやはり触れない日があるというのが怖い。だから、仕事と楽器練習は大晦日もお正月も毎日続けている。休みという概念はないのである。それでいいと思う。

この間のクリスマスは、何も予定を入れずに、夜はジムでトレーニングに行くことにした。案の定、広い空間にはほとんど人はいない。ただ、それでも3人くらいが黙々とトレーニングしていた。予定がないからジムにいるという感じではまったくない。それがなんだか、ストイックでとてもかっこよく見えたのである。なぜか、かっこいい女性ばかりだった。距離を取って、お互い誰とも会話しないのがいい。金属がぶつかる音だけが涼しく室内に響く。非常にいい時間を過ごせた。

最近ジムに増殖中の、スマホだけ眺めてマシンに座っている邪魔な人は誰もいない。そもそも、目的がはっきりしている人はスマホ時間は最小限にしているように見える。そういう人の「気」みたいなものがやはり空間の空気感みたいなものを構成していくのだと思う。時間を大切にする人たちだけで構成されている「場」というものは心地よい。

意味のない雑談ばかりで本題を進めない会議とかって一番苦手だ。知り合いがコロナになったとかなんて言う話はどうでもいい。眼の前の人間が高熱で具合が悪いのならば話は別だが。30分あれば5キロ走れるとか、スタジオで4曲は練習できるとか、スケッチは20枚かけるとか、とにかくいてもたってもいられなくなる。

話は脱線しそうだが、こういう時間の共有に関してもまた考察してみたい。
ともかく、毎年やってくる年末年始なのであるが、「休む自由」というものがあるとすれば「休まない自由」というのもあるはずだ。たった一度の人生だから周りに合わせるようなことで、自分の自由を失わないようにしていきたい。世の中も、そういう方向にシフトしていくような気がしてならない。



2023年2月1日更新





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