●今こそ、読書のススメ
テレビのニュースは1日1回だけ、10分もあれば必要な情報は入手できる。人は眺めているものにだんだんと顔が似てくるという説がある。長年連れ添った老夫婦、ペットと飼い主などがそうだ。あのオレンジ色のコロナウイルスの画像と菅首相の顔も、誰もがこの1年でかなりの時間眺めているはず。自分の顔はどちらにも似てほしくない(笑)。
だらだらと、つけっぱなしのテレビで同じ情報を繰り返しインプットしてもまったく意味はないし、不安要素をいたずらに増幅させるだけである。精神衛生上も健康上もよくない。コロナを言い訳にして、やるべきこと、やっておきたいことに手を付けないのは、あまりにも時間がもったいない。本当に必要な情報は、文字情報やラジオで入手した方が合理的で健康的でもある。
仕事はリモートにせよ、各自ができる範囲内で最大限集中すべきだし、通勤や移動時間がなくなったことで、その分時間に余裕ができたのならば、今まで先送りにしてきたことを行う絶好の機会でもあるはずだ。
コロナが収まったら、また超絶忙しい日々になるのは目に見えている。見逃していた映画、適度なジョギング、空いている公園でのエクササイズ、ファスティング、新しい語学をゼロから始める、まったく未知だった楽器の練習、寝具の入れ替え、溜まった写真の整理、着なくなった服の処分、遺書を書いておく? など、それぞれが気になっていたことを行う絶好のチャンスでもある。
数ある未処理項目の中で、家で1人で簡単に完結できる代表格が読書だと思う。買ったけれども、1ページも読まずに部屋の片隅に積みあがった本とかの存在は誰もが気になるもの。ただ、残念なことに、買ってしばらくの時間が経過した書籍は、かなりのエネルギーがないと改めて読もうとは思わないものである。
買っただけで満足するのが第1段階。第2段階の読むタイミングを逸すると、それらの本の背表紙が視界に入っていることによる疑似的満足感でごまかしてしまう。
買った直後の勢いで読書を開始するのが一番高揚感も感じられるし、一気に読破できてしまうものである。これが本に対しても一番敬意が感じられる接し方だろう。そんなわけで、今月のコラムは、こんな時期だからこその私的なお勧め本を2冊ご紹介することにする。買ったらすぐに読んでほしい(笑)。
●不安な気持ちに効いてくる本
1冊目はデール・カーネギーの『道は開ける』という本。これは、キンドルでも発売されている。自分が中学生の頃から何度も繰り返し読み続けている本で、通算、5冊買いなおしている。とにかく、自分にとってはバイブルみたいな本である。ちなみに、本には赤線をたくさん引いて、徹底的に本をいじめる派でもある。もちろん、現在はスマホにダウンロードして移動中にマーカー機能を使って同じようなことをしている。
今の世の中、日常的にネガティブな情報ばかりが入ってくるので、自分のメンタルを少しでもポジティブに持っていくのに超お勧めの1冊。
『道は開ける』の初版発行は何と1948年というから驚きなのだが、現在にもそのまま通用するいろいろな考え方がここに書かれている。カーネギーさんの本は他にもいろいろ読んだのだが、この本が一番良いと思う。もちろん、今から73年も昔の本なので、ところどころは古い表現もあるのだが、時代を超えて常に現役でアシストしてくれるので非常にありがたい。人生の節目ごとには、必ず読み返すようにしている。
自分の20代前半でのアメリカ生活の時期に、背表紙のタイトルが気になり本屋さんで手に取って購入し、読み進めているうちになんと同じ本であったというオチまである。ちなみに原題は『How to Stop Worrying and Start Living』であって『道は開ける』からはほとんど連想できない。日本語では何度も読んでいた本なのでお陰様で英語のいい勉強にもなりました(笑)。
話はそれるが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の英語版『In Praise of Shadow』もデザイナーにとっては超お薦めで、外国でプレゼンテーションするときに、表現力として非常に役に立つ。日本の繊細で奥深い美学を英語でどう表現するかというエッセンスが凝縮されている。
今までで『道は開ける』を一番読み返していたのは、会社を辞めて独立した時期。大企業からいきなり1人でやっていくことになり、この先、仕事がコンスタントに来て、ちゃんとデザインで食っていけるのだろうか? といった不安が付きまとっていた忘れられない時期だった。
人間、暇になると大体はネガティブな方向に気持ちがシフトしがちなものである。当然、独立したばかりでそれほど仕事がない状態で「不安」の毎日。そして、何もしない時間はかなりある。しかし「不安、心配」といった心理的要素はまったく何の役に立たないどころか、貴重なクリエイティブの時間まで食いつぶしていく魔物のようなものだということが分かった。
『道は開ける』は、とにかくいろいろと用事を詰め込んで、自分を「常に忙しい状態」に持っていくことを薦めている。忙しくすること、何かに没頭することが、心配事を頭の中から追い出していく唯一の手段である、と。
デザインに関してはあまり心配要素のなくなった現在ではあるけれど、新しいテーマに取り込む前などは今でも非常に役に立つ。デザイナーは精神状態がそのまま作品に出てしまうので、メンタルの自己管理は極めて重要。
悲しい気持ちでデザインした「滑り台」は、悲しい「滑り台」になってしまう。デザイン中の精神状態としては、疲れ知らずの快活な子供でなければ滑り台をデザインしてはいけない。これは表現で食っていく人ならば共通しているはず。楽しい曲を悲しい気持ちで演奏してはいけないのと同じ。
そういったわけで、コロナで不安な気持ちが強いならば、絶対に効果てきめんなので読んで損はない1冊だと思う。
●部屋と心身の断捨離を
そしてもう1冊はカレン・キングストン著の『ガラクタ捨てれば自分が見える』。
実は本書はすでに廃刊で、現在は『新 ガラクタ捨てれば自分が見える』しか入手できない。本書は2002年が初版で、「新」の方と読み比べてみても、ほとんど内容は同じ。電子書籍化もされていないが、どうも、この本には強烈なファンが多いようだ。
本の内容は、とにかく「断捨離」の話。持ち物を最小限にすることの大切さがいろいろな側面から語られている。他にも似たような断捨離本はあると思うが、この本で特徴的なのは、身体的な断捨離と精神的な断捨離にも言及している点だ。部屋のいらないものを整理すると、身体的にも痩せてくるという話。
身体の不要なものこそ断捨離したいはず。ただ、真剣にダイエットを目指すならば、まず部屋の断捨離から始めるというのは、断捨離回路を脳にインプットする意味でも正しいと思う。
断捨離後の爽快感が感じられれば、同じプロセスに移行するのも楽なのは当然。この本では、腸のクリーンアップをまず第一におすすめしている。「腸活」という言葉が最近広まっているが、もう20年前にこのことに触れている。さらには「腎臓」「肺」など人体の各臓器での断捨離の話にも突入していて何度読んでも面白い。
コロナ生活で太ってきたという話をよく聞くが、部屋の整理とダイエット含めて「断捨離」と「ダイエット」の自分のモチベーションを上げるには最高の1冊ではないかと強くお薦めできる。
知り合いで、運動不足解消に突然縄跳びをして膝を怪我したおじさんがいますが、無茶な行動は危険。少なくとも、今は病院に行くような要因を作るのはアウトなので、身体を軽く仕上げてから次のアクションに移行するべき。
精神的なダイエットの章では、先ほど紹介した『道は開ける』とほとんど同じ意味合いのことが書かれている。推測するに著者のカレンさんは間違いなく『道は開ける』の読者であると感じる。他にも、有名な自己啓発本の引用が頻繁に出てくるのだが、この本でも 要は「心配」をやめましょうということ。
やってはいけないことと、やるべきことを把握し、「心配」せずに黙々とやるべき作業に集中すべき。一度でも、実践したことがあればこのやり方は納得がいく。
また、本全体に東洋的な思想が垣間見れて、「気」の流れや「風水」にも関連付けられていてシンプルに読み物としても楽しめる。特に服の処分における「色彩」に関した切り口は興味深い。著者はイギリス人だが、ヨーロッパからみた東洋に対しての興味の深さが感じ取れる。そのあたりは、アメリカとヨーロッパに大きな違いがあります。そもそも、「欧米」とひとくくりにするものではないし…話がまたそれそうなのでこのあたりで。
以上、コロナ禍でのお勧めの2冊ですが、情報に振り回されすぎずにシンプルに生活したいもの。ワイドショーのはしごほど身体に悪いものはない。顔がコロナもしくは菅さんに似てくるし(笑)。今日は、コラム書き終わったので、これからコルトレーン聴きながら、本棚の断捨離でも始めます。
2021年2月1日更新
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▲『道は開ける』(創元社。文庫版、KINDLE版)
▲『新 ガラクタ捨てれば自分が見える』 (小学館文庫)2013年
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