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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その29:明日の風を読む

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



ちょうど今、クリスマスの六本木でJ-WAVEの生放送のトークが終わり、事務所に戻ってそのままこの原稿を書いているところです。

相変わらず、なんだかんだとせわしない毎日が続いています。しかしながら、コロナで大変な変化が人類全体に起きてしまった1年でした。私自身としては例年通りでたくさんの作品は作れた年であったのですが、飲食やイベント関連では非常に大きなダメージを受けた方々も多く、なんとも複雑な気持ちです。

ZOOMを筆頭に、リモート会議が主流になりましたが、実際に会うことで何かが生まれることの重要性も再認識することとなりました。先ほどもARの第一人者の川田十夢さんとお話ししていて、いろんな発見がありました。その記憶が残っているうちにここに書いて今年最後のコラムというか2021年最初のコラムにしたいと思います。

●触れないデザイン、触れるデザイン

「コロナ禍でプロダクトデザインはどのように変化していくだろうか?」。今後のデザインは「触れないデザイン」と「触れるデザイン」に大きく二極分化していくと予想されます。

「触れないデザイン」とは、不特定多数の人が利用する公共機関のデザイン。例えば、前の人の香水の香りが残るような回転式のドアなどはなくなっていくでしょうし、基本は手を触れずに開閉が可能な自動ドアが標準となっていくことでしょう。エレベーターのボタン類なども、触ることなく選択が可能な方向へシフトしていくはず。今後は人の視線の方向やマスク越しでの音声認識など、そのあたりのセンサー技術が格段に進化していくと思われます。同時にこれは、手足が不自由な人たちにとっても有意義で便利なものにと進化していくと思われます。

一方でなかなか解決策が困難なのは、階段における手すりだとか、揺れる電車内のつり革や柱など身体の安定性を確保するためのデザイン類ですね。それ自体が殺菌作用を持つプラスチック材とか滅菌作用のある被膜で覆っていないといけません。化学と物理の両面での進化がマストになってきますが、まずはデザイナー発信のビジョンの提案がカギを握っているはずです。
静音で機能するエアカーテンなどがあれば、それでお互いに何もなかったように区切ることが可能になるわけで、今後のレストランでも普通に会話が楽しめると期待したいです。

「清潔感」という側面では、日本は世界でもトップクラスの国民性だと思います。例えば、公共トイレにおけるウォシュレットの普及率や、手をかざすだけで水が流れる装置なども私たちにとっては普通で当たり前の感覚ですが、海外から来た人にとっては非常に強い未来感を抱くわけです。この考え方自体は日本人のDNAとして普通な感覚であるわけですから、この延長でデザインしていけばいいのだと思います。

●さわり心地にこだわりを

しかしながら、あれもこれも「触っちゃダメ」となると、人間という動物としての触る欲求のバランスがおかしくなってくるでしょう。そこで、もう一方の触る欲求を解決させないといけないデザインが発生してくると思います。小さい子供たちぬいぐるみのクマとかをいつも大事に抱えていて安心感を得るような感覚といえば分かりやすいかもしれません。

その感覚とか欲求は子供に限定したものではありません。人間である以上は大人でも年齢性別を問わずまったく同じだと思うのです。自分の家の中というある種のバリア内の安全な境界線の内側であれば、家族や限定メンバーだけが接することができるペット類というのもこれからもっと重要視されてくるでしょう。

日常使いの家具などもさわり心地の良いものが大事にされてくると思います。寝具もそうだし、下着類や部屋の照明のスイッチ類など、さわり心地を大事にしたデザインはまだまだ開発の余地が残っていると思われます。自分だけが使うもの、または特定された少人数だけが使うものにおいて、さわり心地にこだわったデザインが必ず主流になってくるはずです。

コロナ真っただ中の今年の前半にデザインした新作のダイニングチェアは、そのひじ掛けのさわり心地に最大限にこだわったデザインです。11月に広尾の個展でお披露目した際も、皆さん、ひじ掛けの部分をたくさん撫でまわしてもらいました。よく初詣とかでお寺に行くと、みんなが撫でまわす手すりの上端に鎮座している金属の桃みたいなオブジェがありますよね。その桃? のある部分だけがみんなが触るから部分的にピカピカ輝いているというあれです。

衝動的に触りたい欲求というものがあって、それを拒否されてしまうと人間は必ずバランスがおかしくなってくる。そういう欲求を満足させるための触るデザインという世界がもっと大事になってきます。

●触れる生活のためのデザイン

世の中、リモートワークとか外出自粛とかで、ダイニングにいる時間が圧倒的に長くなっているライフスタイルになりましたよね。そのダイニングチェアのひじ掛けで心地よく撫でまわす部分があることで、人は安心感と居心地の良さを感じられます。人間の手の平と指の腹側で得られる情報量は非常に繊細かつ広大で、物を触るだけで非常にたくさんの情報を受け取ることが可能です。その優れたセンサーを使うことで快と不快を瞬時に判断しているのです。いったんその感触が「快」だと認識されると、あとはその持続時間を延長していきます。

お酒を飲むときの「ぐい飲み」とかもそうですよね。掌の中ですっぽりと心地よく収まって、おいしいお酒を嗜みながら、同時にその手の中で酒器の心地よい感触を楽しむという時間は贅沢でもあるし、明日へのエネルギーにもつながってくることでしょう。逆に一歩外に出れば、紙コップのような使い捨ての容器も増えてくると思います。

だから、家の外では触れない生活、家の中では触れる生活という風に二極化していくはずなのです。大事なのは、家の中での触れる生活の充足度を上げていくことなのではないかと感じます。

ちょうど今、来年の夏発表予定で、有田焼を始めとする5社の窯元さんと一緒に心地よいぐい飲みをたくさんデザインしているところです。この冬は私も家に籠って作品作りに励みたいと考えています。触れるデザイン、触れたくなるデザイン。2021年からは「触れる生活」です。


2021年1月1日更新




▲J-WAVEで川田十夢さんと





▲2020年前半のコロナ真っただ中にデザインしたダイニングチェア「平田椅子製作所のLILLY」。(クリックで拡大)




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