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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その22:自分のデザインのルーツ

澄川伸一さんの連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



コロナによる自粛時期に、自分の過去の写真整理をしていた人も少なくないのではないだろうか。ちょうど先日、某新聞社のインタビューを受け、自分のデザインの根源みたいなものを問われて、いろいろと振り返る機会があった。インタビューというのは、聞かれることで自分自身すら意識していなかった自分自身を発見することができ、たまにはいいなあと思う。ということで今月のコラムは自分のデザインをもう一度振り返ってみたい。

●数学と美術とぐにゃぐにゃ立体物

やんちゃな高校生時代、何故か数学と美術だけは得意で、その2つを両立させる職業はないものかと模索していた。実は、ファインアートは好きだったが、デザインにはまったくと言っていいほど興味がなかった。特に、シュールリアリズムの画家が大好きで「マグリット」「ダリ」「エルンスト」「タンギー」などの画集をいつも眺めていた。

当時はパルコの広告などでスーパーリアリズムのイラストレーションが大流行で、技法としてこれを描くにはどうしたらよいのかと興味があった。空山基さんのセクシーロボットとかかっこいいなあと眺めていて、今考えるとやっぱり自分の作品もかなり影響を受けている。

また、幼少期を過ごしていた近所の神代植物公園にあったムーアの彫刻を何度となく眺めていたせいか、有機的なフォルムに対する「抗体」ともいうようなものを、身体の奥に共通言語として共存できる時間を育めたと思う。

箱根の彫刻の森とかも大好きで、とにかく人間が創作した「ぐにゃぐにゃ立体物」に興味を持っていた。しかしその頃は、まさか自分が作る側になるとは、まったく思っていなかった。漠然とロボットを作りたいとか、天体観測の仕事に就きたいとか、そのような感じだった。ちなみに、レトロなパンフレットが印象的だった渋谷の東急文化会館の五島プラネタリウムには、ほぼ毎月通っていた。

●寺山修司と柔道部

高校時代はあまり勉強せず、ひたすら「寺山修司」さんの演劇や映画や短歌など、マルチな表現にのめりこんでいた。わざわざ、恐山巡りにも出かけた。とくに一連の「天井桟敷の演劇」は高校生にとってはかなり刺激的で、表現に関してはいろんなことを吸収できたように感じる。

短編のアンダーグランド映画もまた面白く、ぴあをこまめにチェックしていた。シュールな「フェリーニ映画」「パゾリーニ映画」なども繰り返し観た。「常識」を打ち破るにはどうしたらよいか? みたいなことばかりが授業中も絶えず頭をよぎり、どちらかというと空想少年のような感じだったかもしれない。部活は小学生からやっていた柔道が得意だったこともあって、そのまま柔道部のキャプテンを任されていたが、今考えると不思議なバランスである。

似顔絵を描いたり物まねをして、さんざんご迷惑をおかけしていた担任の先生には、強く美大を進められていたのだが、どうもしっくりこない。かといって性格的に学者、研究者にも自分は向いていないような気がしていた。と思っていたところに千葉大に車などのデザインをする学科があることを発見した。

美大ではなく国立大の工学部なので、普通に入試科目に数学があったので、とりあえず、ここに入るだけの勉強に切り替えて集中したら、幸い合格した。高校時代、正味勉強したのはこの6ヵ月くらいかもしれない。千葉大は、デザイン科なのに実技すらないのであった。今考えると変である。

ちなみに大学受験はこの1回だけ。通常の学校のテストの世界史や漢文など暗記系のテストは、もう卒業ぎりぎりの最低線であった。とにかく、ただそのまま覚えることに何のメリットも感じられなかった。これは今でも、正しいと思う。逆に、バックパッカーとかやるようになってはじめて、世界史とか古文って面白いなあと思っている。魅力的な過去のストーリーがまずあってからの話なんだと。

●分岐点となった千葉大時代

大学時代は、東京と千葉の違いを何となくひしひしと感じながら、ひたすら造形物やイラストの課題をこなす毎日を過ごしていた。でも、几帳面に烏口でレタリングとかの授業はまったくもってダメだった。身体が全身でその作業を拒否してしまうのだ。苦手だった暗記作業に何か共通する。フリーハンドで自由に描いたり、粘土をこねたりするのは大好きなのだが。今思えば、自分の作風はこのあたりの分岐点からきているのだろうと感じる。

当時はプロダクトデザインよりも、映像やCM製作、空間設計などに興味があり、就職もずっとそっち方面を意識していた。寺山修司の影響が大きく、卒業制作もマルチスライドの刺激的な作品にした。「時間の経過」をテーマにした20分の作品。タイトルは「瓶詰にされた時間」というもので、バッハの組曲をバックにシュールな映像が展開していくという内容だ。

最後の追い込みで、1週間泊まり込みで、ほとんど寝ずに仕上げた。ここまで、1つの作品を寝ずに作ったのは人生でこれが最初で最後だと思う。この作品は教授陣の評価が真っ二つに分かれた。大絶賛する教授がいる一方で音が大きいとか文句を言う先生もいた。卒業制作の自分の分の発表直後に、成田空港からそのままモロッコに旅に出てしまったので実は卒業式にも出ていないのだが、あとで友人から聞いたところ首席卒業だったとのこと。なんだか、申しわけないことをしたようだ。それ以来、数年間は千葉には行かなかった。

●エリートデザイナーの上をいく個性で

就職に関しては、某大手広告代理店とソニーの2つ内定が決まっていた。特に、ソニーは当時、VHS対ベータで敗北していて、経営的な影響も少なからずあったようだ。日本全国から40人くらいの選抜学生が受けた実習も、いざテスト後に呼び出されて会社に行くと、合格者は3人しかいなかった。みなそれぞれ、強烈な個性の強い奴だった。

自分としてはこの就職先の選択が非常に難しく、プロダクトに行く予定ではなかったこともあり相当に悩んだ。しかし、大学生にとっては、当時のソニーは人気ランキングの上位にある会社。大学の先生に相談したところ、相手にとって不足はないんだからソニーで一度やってみたら? と言われて、それをそのまま、大勢の幹部に囲まれた面接で言ったら、すごく受けたのを覚えている。同時に、この10分ぐらいで、この集団がなにか只者ではない、ものすごい「殺気」のような空気を感じることができた。

当時のソニーは、扱いにくいであろう生意気な人間を受け入れていた感があった。実際ソニーデザイン部に配属されてみて分かったのは、みな、学生時代はトップであっただろう個性の強いエリートデザイナーばかりで、それが当たり前なので、さらにその上をいくような強い個性がないとほとんど存在感が消えてしまうのである。

就職採用の幹部面接で、明らかにこの集団のトップと思われる、白髪の長めの髪型でスピード感のあるキレる言葉を連発していたのが、当時のデザイン長の黒木康夫氏であった。千葉大の大先輩でもある。黒木さんとは、私が独立した後、2人でも黒木さんが亡くなるまでずっと仕事をすることとなり、家族ぐるみでのお付き合いにもなった。自分の人生とデザイン面で、ものすごくお世話になり、影響を受けた人物である。

●デザインの基礎を徹底的に学ぶ

ソニーのデザイン部では、デザインの基礎を徹底的に学んだ。非常に厳しくもあり、また充実して楽しい会社員生活を送ることができた。当時のソニーは、CDをこれから売り出していくという時期で、デザイン部の倉庫の中は見たこともないような未来のデザインが溢れかえっており、どれも超機密情報である。スパイがいたら大変なことになる。

ソニーデザインの話は山ほどあり、これまた非常に長くなるが、とにかく、デザインを基礎から学んで、同時にデザインの楽しさと厳しさを徹底的に学ぶことができた。また、恐ろしい量の仕事もした。烏口も暗記も必要なかったのが幸いだった(笑)。いずれにしても、独立した期間のほうが圧倒的に長くなった現在でも、自分のデザインの進め方はソニー時代の延長戦のようにやっている。

次回は、このソニーデザインの話を書こうと思う。


2020年6月1日更新




▲あ
る日、渋谷の山手教会前を歩いていたら、向こうから寺山さんがやってきて、思い切って声かけたら気軽にサインに応じてくれた。独特な書体がいい。宝物である。(クリックで拡大)





▲ソニーのCDプレーヤー「CDP33」(1985年)。ソニー入社1年目でデザインしたCDプレーヤー。ある日、いつものように山手線に乗ったら、この車内吊り広告の車両でびっくりした。ものすごい数が売れたヒットモデル。(クリックで拡大)



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