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コラム

澄川伸一の「デザイン道場」

その15:今まで書かなかった「男と女の話」

澄川伸一さんの新連載コラム「デザイン道場」では、
プロダクトデザイナー澄川さんが日々思うこと、感じたこと、見たことを語っていただきます。

イラスト
[プロフィール]
澄川伸一(SHINICHI SUMIKAWA):プロダクトデザイナー。大阪芸術大学教授。ソニーデザインセンター、ソニーアメリカデザインセンター勤務後に独立。1992年より澄川伸一デザイン事務所代表、現在に至る。3D CADと3Dプリンタをフル活用した有機的機能的曲面設計を得意とする。2016年はリオオリンピック公式卓球台をデザインし、世界中で話題となる。医療機器から子供の遊具、伝統工芸品まで幅広い経験値がある。グッドデザイン賞審査員を13年間歴任。2018年ドイツIF賞など受賞歴多数。現在のメインの趣味は長距離走(フルマラソン3時間21分、富士登山競争4時間27分)。



●格闘技の魅力とリスク

ボクシングに夢中になっていた時期があった。大量の汗をかきながらの練習、3分間の繰り返しで、ミット、シャドー、ロープ、サンドバッグ、マスボクシングなどのMAXローテーションで、ぼろ雑巾のようになるまで自分を追い込む。

小学生の頃から柔道はやっていて、柔道はそこそこ強かったので格闘技はすんなりと入り込めた。僕は見た目、そんなに強そうではないのだが、サンドバックをドスドス叩いていると、その音で周りがビビってるのが伝わってきて、その場の自分の立ち位置を確立できていた。

プロボクサーにも、このままパンチもらったら倒れるよと言われていた。確かに、自分の右アッパーは客観的にも破壊力がヤバイと感じていたので、絶対に街でトラブルになっても右手は封印しようといつも意識はしていた。可能性があったからこそ、だから調子に乗って練習もたくさんしていた。

毎日のそんなハードな練習をやりきったあとの爽快感が気持ちよかった。シャワーを浴びて、外に出て星空を見上げれば、B級青春ドラマのような「生きている」というCM的爽快感を感じたものだ。充実した時間であった。ぱっと見、こりゃかかわりたくないヤバイ不良みたいな友達もたくさんいたが、練習後はお互いを尊重しあっての会話が超絶楽しかった。仕事もまったく関係ないただの強くなりたいオス同士だ。お互い、合法的に殴り合えばあとは仲良くなるしかないのだ(笑)。しかし、ボクシングでのヘッドギアなしの試合は相当にやばい。頭や内臓などの急所の殴り合いにはやはりかなりの恐怖感が伴うし、少なからず身体の将来的なダメージの影響も覚悟しないといけない。

でも、リスクの度合いに比例してやっぱり魅力な世界であって、試合に関してはずいぶんと悩んだ。軽いフックとかでも側頭部にいいのをもらってしまうと、その後しばらく頭の中でキーンという高音が鳴り続いていて、これはそのうちデザインできなくなってしまうのではないかという不安を感じていたのだ(笑)。頭以外にも、ボクシングのボディ打ちって実は、肝臓とか心臓とか胃とかの各臓器のポイントエリアを狙っている。まるで焼き鳥屋さんのメニューみたいな感じだ。ハツでありレバーであり…例えが変か(笑)。でも、急所ポイントにいいのをもらうと、しばらく呼吸すらできなくなる。やっぱり、ダメージがある。エリートのボクサーのエリートは避けるのが上手いのでダメージがほとんどないままにチャンピオンになる。天才的な防御が不可欠なのだ。でも、凡人ではやっぱりパンチは避けられない。その後の人生をよく考えないと、真剣に考えながらも、それを忘れるように毎日の練習には取り組んでいた。

ちなみに、ボクシングジムの収入源は試合のチケットであって、どこでも同じだと思うが、それをいかに売り上げてジムを持続させるかというがポイント。そんなわけで、試合はよく見に行った。前書き長くなりましたが、さあここからが本題。

●ハイレベルな表現者たちと魅力的な女性

格闘技の聖地の後楽園ホールなど、試合が後半に入ると、いわゆる上位ランカー同志のレベルの高い試合となる。同時に比例して客席に美女が増えてくるのだ。それもテレビにも出ないハイレベルの容姿なのである。いったい日本のどこに存在していたのだろうかという美女たちだ。

アスリートのポテンシャルが最盛期の時には、必ずと言っていいほどハイレベルの異性が周囲に増えてくる。車のレースの世界も同じ。実は親族がプロのバイクのレーサーだったので何となく分かる。

頭脳プレイの世界も同様だ。昭和の文豪など物凄いではないか。川端、太宰、芥川と、みな最後は壮絶な自決が伴っているが、とにかくあり得ないくらいの女性からのモテ方である。デザインの世界はよく分からないが、超一流の建築家の伝説は時代を超えて世界中でいろいろあって興味深い。落水荘で有名なフランロイドライトも、調べてみると超絶な記事が残っていて興味深い。

画家でいえば、ピカソがとても分かりやすい例ではないだろうか。見事に作品と符合している。あれだけ作風が人生の中で変化しても、どれもピカソである。その背景に横にいる女性の変化というか変更がある。これほど明快な世界観はそうそうない。晩年のピカソの写真がどれもエネルギッシュで生命力を感じるのはだれも否定できないだろう。性別や年代を超えてDNAの個体としてとてつもない魅力を放っているのは間違いないだろう。エベレストの三浦雄一郎さんやホーキング博士にも、似たようなエネルギーを感じる。健康であれば、人間の能力や魅力にはリミッターがないのではとも感じる。。

●アトラクティブに生きる

冷静に考えれば、これは生物学的にもまったく自然な現象なのである。生き物のミッションとしては、いかに優秀な能力をもった遺伝子同志で、絶滅しないように種を維持していくかなのである。もともと、そういうふうにDNAがプログラミングされているのだから不思議なことこの上ない。ほんと、神様はすごい。この仕組みのハイレベルな世界観はいったい何なのだろうか…。

一般論として、心身ともに魅力的な女性は、選べる男性の選択肢は確率論的にも多いいだろうし、確率論的に優秀な子孫を残せる可能性も高い。

英語圏ではよく「アトラクティブ(Attractive)」という言葉が使われる。これは非常に重要な単語なのに、日本の学校教育ではなぜかまず教えない(笑)。身近なところでは、アトラクションという派生語は皆使うだろう。「アトラクティブ」は基本的には異性にとって魅力的であるという意味合いで使われる。「Love」の百倍以上の強い意味があるのである。でも、日本の英語教育ではまず使われない。「Oops!」とかもそうなのだが、結局は、本当に生活で使える英語は現地に住まないと習得は無理なのだろうか。

日本ではこれだけ、授業時間を英語にかけても、実践的に英語がしゃべれない学生が多すぎるのは大問題だ。僕だって中学と高校で6年間も英語を勉強してきたが、バックパッカー中の実践では実際にはうまく外人とコミュニケーションできなくてあせりを感じてきた。今考えれば、日本人の英語教師そのものがまともに英語を喋れないという致命的なレベルの低さだったのだ。

僕の場合は社会人になってアメリカに5年住んだら、ほとんど勉強もしていないのに飛躍的にしゃべれるようになった。もちろん、日常の同僚や友人やガールフレンドがアメリカ人だったというのもあるのだが。ヨーロッパでも、子供に英語で道を聞いたらちゃんと分かりやすい英語で教えてくれる。日本の英語教育の手法は世界的にもかなりひどいレベルだといつも感じる。来年オリンピックだというのにどうするの? 僕がカリキュラムを考えたいくらいだ。語学の基本は、コミュニケーションであるはず。読み書きなんかそのあとでいい。少なくとも、道を聞かれたら笑顔で堂々と言葉で伝えられないと。

●男と女とデザイン

話がまたいろいろ脱線したが、とにかくこの「アトラクティブ」という言葉は意味的には、惹きつけられるという、磁場というか引力的な意味合いが強い。 結局は、生命体としての抜きんでた「能力」それが「魅力」に直結する。そこに個体の「磁場」が発生して、結果的に最強の異性が遺伝子を継続するという神様の意図した筋書きがあるという事実。これは数学的確率論でもある。そこでそれぞれのカテゴリーで考えられた具体的な「吸着」の「方法論」が素晴らしく魅力的に感じるのだ。

たとえば、オスのクジャクの羽を広げたアプローチであったり、南国の野鳥の求愛の舞や鳴き声など、そこには、とてつもない魅力を感じる。そして、とにかくひたすら美しい。必死なのだからまあ当然だと思う。特に昆虫の世界は凄すぎて、ある意味感動すら覚える。カマキリなんか、交尾の後にオスはメスに食われてしまい、次の世代の栄養源として活用されるのだ。これは谷崎潤一郎の筆力も敵わない世界観だ。春琴抄の百倍のご馳走様である。もう、凄すぎて何も言えない。ただ、この「アトラクティブ」という強烈な「磁場の世界」には同時に強烈な「美学」が存在するのは間違いない。少なからず、その領域から僕がどれだけ「美しさ」としての自己表現のヒントを得ているかがが自分の作品に反映されている。これはここだけの話にしてほしいのだが(笑)。

 
2019年11月1日更新



▲僕の作品では男と女をテーマにした作品が多い。1つは、腕時計の「GUYS & ROSES」(1993年)。時針と分針がそれぞれオスとメスのシンボルマークで、くっついたり離れたりを繰り返している。秒針は邪魔なので取っ払って、メカニズムとして1秒ごとに動く部分に赤く着色して窓にしたもの。この窓の中の色の動きが、まるで心臓の鼓動のように見える。グッドデザイン賞を受賞して、その後もかなり売れました。(クリックで拡大)




▲もう1つは、ミラノサローネで発表して、テレビでも話題になったチェア。「MAN& WOMAN」(2014年)。(クリックで拡大)

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