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コラム

坂井直樹のデザイン色眼鏡

第38回:ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』から
人々に愛して欲しいものは何か?



坂井直樹さんのコラム「デザイン色眼鏡」では、コンセプター坂井直樹さんに、モノをメインにデザインを取り巻く状況を語っていただきます。

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[プロフィール]
坂井直樹:コンセプター。株式会社ウォーターデザイン代表取締役。1947年京都生まれ。19歳で渡米し、サンフランシスコで「Tatoo T-shirts」が大ヒット。帰国しテキスタイルデザイナーとして活躍した後、80年年代後半に「Be-1」(日産自動車)や「O-product」(オリンパス)のコンセプトを手掛け脚光を浴びる。その後もau design projectで数々の先進的な携帯電話のデザインをプロデュースするなど、コンセプトからデザインまで革新的なビジネスをクリエイティブしている。


●「デザイン思考」から「意味のイノベーション」へ

「人々が愛するであろうものは何か?」を考えるのではなく、「人々に愛して欲しいものは何か?」を考えないといけない。

1990年代から世界のイノベーションを牽引してきたとされている「デザイン思考」では突破できなかった壁を崩す新たな手法、「意味(インサイト)のイノベーション」。

ミラノ工科大学のビジネススクールでイノベーションを教えるロベルト・ベルガンティは、著書『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』(日経BP社刊)で解説する。

「デザイン思考」は特に非デザイナーに支持され、プロセスが正しければ、そのアウトプットも正しいとされ、大企業の大勢の人たち向けて根回しとしての機能は大いに満たしてきた。

しかし「デザイン思考」だけだと、問題発見からの問題解決では 0→1のイノベーションは生まれない。イノベーションを生むには、意味(インサイト)を新しく作り出す(あるいは発見する)必要がある。例えばキャンドルは、火をともすためのものだけではなく、匂いを楽しみリラックスするためのもの。また柔軟剤は本来の機能より香りで差別化されている。そのための方法は、従来のデザイン思考とは異なり、ユーザーのニーズからではなく、むしろ自分から常識を疑い、ことの本質を考えていくべきなのではないか。と、ベルガンティは考える。

もちろん、人々は問題やニーズを抱えており、私たちにはそれを解決する責任がある。もしあなたが人々に愛されるモノゴトを創造したいのであれば、問題解決からは離れた方がよい。イノベーションを試みる多くの人たちが、「ニーズ」や「ソリューション」という言葉に振り回れ過ぎ、見失っている視点の回復を試みている。

働き方が多くの人の議論のネタにのぼるのも、「複雑」「速い」という現代を表現するに必要不可欠になった言葉が、個々の人生観にここまで影響を及ぼすようになったからだ。

ベルガンティは何度も繰り返す。モノゴトをおこす人間は「人々が愛するであろうものは何か?」を考えるのではなく、「人々が愛して欲しいものは何か?」を考えないといけない。

「ユーザーのニーズをおさえる」というフレーズでは、企画する人間の主体性がやや後ろに下がってしまうのだ。ベルガンティは、イノベーションの概念や手法にイノベーションがないことこそに危機感をもっている。


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ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる』。日経BP社刊。352ページ、2,160円。(クリックで拡大)

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著者のロベルト・ベルガンティ。(クリックで拡大)

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同氏の『デザイン・ドリブン・イノベーション』(オンデマンド/ペーパーバック)。(クリックで拡大)










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