●広告を見なくなった現代の若者たち
Google的な“自分から情報を取りに行く主体的な行為”を必要とするインターネットの時代を経て、2009年頃からスマートフォンとソーシャルメディアによる受動的な視聴体験が始まった。そして今私たちは、2012年頃から始まったネットの受動視聴の大衆化(テレビ化)という、本格的な動画の時代の渦中にいるのではないだろうか?
Googleが本来得意な「効率よく役立つこと」ではなく、本来苦手とする「意味もなく楽しいことや面白いこと、びっくりすること」がキュレーションメディアを通してYoutubeにトラフィックを集めるようになった。それにより、ネット上のマーケティングも楽しくなるし、テレビ的な娯楽がネット上で実現する時代となった。
皆さんお気づきのように、ネットの登場は広告のあり方を大きく変えている。絶大な影響力と権力をもつテレビCMの価値は下がりつつあり、ネットで話題を呼ぶ「バイラルムービー」という新しい動画広告手法が注目されている。もちろん今もなお、テレビCMは一定の大きな影響力をもっているし、実際、大手の企業は多大なお金を払い広告を打ち続けている。
しかし私たちは、テレビに映るCMを本当にみているか? 影響はあるのか? と問えば、純粋に頷くことはできないだろう。それよりも”いつもどこでも”のスマホ+SNS→バイラルムービーという導線で「笑う」や「びっくりする」「泣ける」など“共感”を呼ぶ構造で作られた動画の方をつい見てしまうし、シェアしたくなる。
●バイラルムービーとはウイルスのように瞬く間に拡散する動画
バイラルムービーとは、例えば次のような動画のことだ。
「忍者女子高生」
ネットで話題を呼び、YouTube、MySpace、Google Videoやブログなどに投稿された、ビュー数が何百万という動画を指す。これはスマートフォンなどで手軽に見ることができる。「バイラル」とは「ウイルス性の」という意味で、マーケティング業界では今、インターネット上のSNSなどを介して、動画を使って低コストでハイスピードに情報を拡散させる手法として期待されている。
ネットレイティングスが行った「情報ソースとして信頼できるもの」についての調査データによると、「テレビ」が60%、「新聞」が61%、ニュースが69%などであることに対し、「知人からの推奨」は90%と、最も信頼できる情報ソースになっている。ネット上のシェアは知人からの推奨ともいえるのだから、シェアで拡散するバイラルムービーの価値は大きいだろう。
※世界50カ国25,000人以上のインターネット利用者を対象に年2回行われるNielsen Global Online Consumer Surveyの最新調査結果(2009年4月)。
●成功の秘訣は企業色の排除?
株式会社Pant Graphは、同社のWebサイトにおいて、爆発的ヒットを呼んだ「忍者女子高生」のバイラルの成功ポイントの1つを「企業色の排除」だと述べている。
「C.Cレモン企画が再生回数を伸ばした理由として『最後まで広告だと思わなかった』というコメントが多かった点も重要です。視聴者心理として“スゴい動画を見つけた!”という気持ちが拡散というアクションに結び付くため、企業によるPR色が動画の端々から感じられると視聴者は企業側の企画意図を汲み取り、人々に拡散することをためらいます」(同サイトより引用)。
ネットの住人は広告を嫌う。どんなに面白い! と思える動画でも、企業色が見え隠れするとシェアの手が止まりかねない。そこでC.Cレモンは、自分たちの色をほぼ無色にまで近づけた。実際にC.Cレモンが登場するのは、動画の最後にある女子高生2人がC.Cレモンで乾杯するシーンのみ。「誰がどのような目的で制作したのか」という疑問を抱かせたままエンディングを迎えることが、シェアの要因となっている。
●本物の「ウイルス」にならないために
企業にとって、人々のシェアによりコンテンツが勝手に大量に拡散されていくことは、確かには嬉しいことだ。しかしバイラルムービーの懸念点として、本当に企業のPRになっているのか? という見方もある。単に拡散され、楽しまれて終わったのでは、膨大な制作費や苦労が水の泡になってしまう。
バイラルするコンテンツを発信する「バイラルメディア」について、ジャーナリストの菅谷明子さんは「情報の"デザート"を毎日食べるのは楽しいが、退屈でもカルシウムやタンパク質をとる必要がある」と述べる。ムービーの目的は、あくまで「企業や商品の魅力が伝わる」ことである。
よって、美味しいデザートの中にいかに「カルシウム」や「タンパク質」を混ぜ込めるか。制作する料理人の腕がますます試されることになるのだろう。
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世界的にスマホでネットを見る時代
「忍者女子高生」のラストシーンより
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