女子デザイナーの歩き方 第93回
デザインを広める
moviti/片山 典子
[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com
このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。
Gマーク。東京・丸の内にギャラリー「GOOD DESIGN Marunouchi」ができたり、銀座三越のDFSにコーナーできたり、震災復興や地方産業とデザイナーのマッチングを行ったり、随分変わったなあ。ということで今回はJDP(日本デザイン振興会)の川口真沙美さんに話を聞きに行った。10年前にTDW(東京デザインウィーク)がミラノに出展した時以来のお友達です。
●Gマーク、以前はプロダクトデザイン業界内イベントだったのが、最近広めような動きが目立ちますね。
川口:「デザイン」と呼ばれる領域が広がっているので請われるままに広げている。これをやると新しい風穴が広がるなと思ったら、やっています。
銀座三越のコーナーは羽田空港をもっとクリエイティブに変えようというプロジェクトから声がけがあって、1テーブルで受賞商品の中から、生活用品、ロングライフデザインを中心にピックアップされています。やっぱり中国のお客様が多い。
http://jdf-fsl-im.jp/
丸の内のギャラリーは、普通の人もデザインできてしまうご時世なので、何でもありになってしまう危険があります。そこでデザインを見る人/実践する人両方にリテラシーを高める、学びをしてもらう場、デザインの実践を引き出す場という位置付け。良いデザイン、自分の世界の外側を知ってもらう展示です。
今の展示テーマは「学ぶ・知る・体験する」。ウインドウに目を惹く展示を置いたり、そんなとこからデザインなんだ、視点を変えるものとしてのデザインを紹介しています。
大体月替わりで展示を変えます。販売はしていないです。丸の内ではデザイン=ファッションと連想されがちですが、みなさんデザイン好きです。フラッと入ってきます。綺麗にリニューアルされた丸の内で休日の街歩き。日本のものづくりのよい時代を知っている年配夫婦が印象に残ります。本当はここで見て、購買へ結びついているか確実に検証できたらいいんですけどね。
https://www.g-mark.org/gdm/index.html
海外には「good design store」を展開、香港2店、バンコク1店で、販売もしています。展示だけだと認知も広まらない、一方現地では買い物に対する情報の取り方の情熱がすごい。ならば買い物として買う人に訴求しよう。何がグッドデザインなの? 説明すると納得してもらえる。視点を持って帰ってもらってGマークの認知を広めています。商品は王道のグッドデザインと、際を攻めるものをエキシビジョンスペースで紹介して、だんだん根付いています。
http://gds.g-mark.org/
六本木ミッドタウンのDESIGN HUBはデザイナーやテーマに関心がある人向けの展示。3月6日までちょうど「地域xデザイン展」をやっています。
http://www.jidp.or.jp/dn/ja//article/20160201/521
●私が勤めていた頃、Gマーク応募は内輪の年中行事という感じでした。
川口:90年代は家電メーカーがケータイやデジカメを大量応募して大量入賞。企業出展、製造業が元気だった。リーマンショック→製造業からサービスデザインへ。技術との接点作り→震災→地域の問題に着目、という流れで変わってきました。
パッと見、うまくできている、だけでは今は受賞しづらいです。手法が再現できるもの、plan-do-seeが回せているのが分かっている企業でないと取れない。開発の背景やデザイナーの工夫の詳細を応募書類に記述してもらったり、開発者に面接したり。今はできたものを見ただけでは容易に判断できないです。
スタイリングか広義のデザインか。スタイリングが良ければ良いのか? デザインが良くてもスタイリングがいまいちならダメなのか? 今は中国からすごい成型技術ですごくきれいに作られたものが沢山応募されてきますが、考え方、着眼点が良ければ、スタイリングが少しくらい未熟でも積極的に良いところを見つけて評価しています。
「お墨付き」から「応援へ」。デザインの正義を見せる時代ではない。生かして全体のレベルを上げる。
●川口さん自身は経営学科出身の広告、プロモーションの人。デザインを広める、広げるって。
川口:キュレーションだと思っています。どこまで自分のいいと思うものを出すか、なんでなのか説明できるか? 社会的、世情的に意義があるか? ということを考えつつ展示する場所に応じ展示するものを変えています。
「デザイン理論」として大学で教えていたこともあったけど、理論が確立されてない自分で経験して蓄えられる知識、体系化されてない。こういう目線があるというのを教えていたというか。普通大学のデザイン科と美大のデザイン科、手を動かす人と協働して補完する人、企業もどっちが採用したいのか意識しなくてはなりませんね。
これぞ「グッドデザイン」という理想像、アーキタイプというか軸があるんです。例えばロングライフデザインのような。JDPの人は特に言われないけど身についている。それを踏まえた上で大幅に外れたものを選んだりもする、この振れ幅が「グッドデザイン賞」の一番の価値かと思います。形だけでない、理念的な軸、この理念から応募の勧誘をすることもあります。
審査委員長の指針も時代と共に変わってきました。喜多俊之さんは国外からどう見られるか、ミラノに出展することで使命感、その後のアクションの目標を得られた。内藤廣さんは審査の視点をサプライサイド(メーカー)からデマンドサイド(ユーザー)に変えた。ユーザーメリットに着目。深澤直人さんはデザインの形はなくなっていく、でもデザインはあり続ける。そこにデザインの軸はあるべきだ。
JDPに入った10年前、「振興会だから先頭で旗振って導く立場」かと思っていたら「先見の明のある企業を見出して、その後ろで旗を振ってフォロアーを導く添乗員の役目」と言われて驚いたのだけど、今は少し変わってきていると思います。
「グッドデザイン賞」は屋台骨。そこから派生する個人的プロジェクト、小さいところから始めて、育ってきたら公認されていく、一匹狼的なところがあります。
昔は国際交流の一部で地域振興していて、一時予算整理の時に切られたんだけど、今はデザインの大きな分野になっていますね。それにしても名前が挙がる地方には発信力のある人、リテラシーの高い人がいて、何をどう訴えるか考えていますね。
またデザインの学校出身者やデザインを学んでいる人は都市地方とも増えているんで、全体のリテラシーが上がっているんだと思います。
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話を聞いてみて、予想と大きく外れるアンサーはなかったかな、と思う一方、図画工作、美術経由でデザイン界に触れた私は「んーでもやっぱりデザインてスタイリングというか見た目だよね」が捨てきれてないところもあり。またロングライフなグッドデザインを理念として捉え直しても面白いんかな、と思った。
こうした時代とともに動き続けるプロモーション活動自体もクリエイティブだし、経済活動とデザインを結びつけて”創意工夫の結果前進すること”を広く世の中に意識させる存在って大事ですね。他の業界にはないもんね。デザインがパッと共感しやすい間口の広い理念だからでしょうね。
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