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女子デザイナーの歩き方 第85回
美味しいの飽くなき探求
moviti/片山 典子

[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com


このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。


習慣的にNHKの朝ドラを観ている。今やっている「まれ」はフランス菓子の修行をしている能登から来た主人公。作る現場はドラマの何倍もすさまじいのだろうが、できたものはおとぎ話のように女子がメロメロになる。

以前から感じていること、日本では"美しい"より"美味しい"への興味は活発だ、新しい"美味しい"へのチャレンジも抵抗がない。やっぱり衣食住の基本、本能に近いのか。試しやすいし、反応も分かりやすい、共感しやすい。「日曜美術館」を1本観るのは結構集中力がいるが、「孤独のグルメ」一挙放送ならずーっと見続けてしまう。匂いも味も届いてこない、松重豊が美味しそうに食べているメニューのバリエーションを観ているだけなのに。

ティラミス、ジェラート、カヌレ、パンケーキ、ブームのデザートを食べにこまめに足を運び順番待ちもする。1人で甘いもの食べにくる男性も最近は落ち着いて堪能してる。

世界中のメニューが日本の都市では食べられる、他の国ではこんなにバリエーションはない。クックパッドには最新の食材でも大量のレシピが掲載。材料も入手しやすく梅仕事やミゾ作り、自家製へ回帰してる。

時々斬新な味がブームになる。塩キャラメル、えーーと思いつつ、"塩甘い"はあっという間に味覚の定番になった。昔からある赤穂の塩まんじゅう、長野の塩羊羹、わさび味、きなこ味。食べてみれば独特のコクがなるほど懐かしくもある。東京のパンもすごい、神戸より貪欲。キャッチーな普段のコンビニパンも、オーガニックな穀類の味が噛めば噛むほど出てくるパンも、バターたっぷりの官能的なパンも並行して好きだ。バゲットの味の違いも私でも分かる。パンマニアの女子は買い込んで冷凍して朝ご飯の写真をインスタグラムにアップする。
http://levain317.jugem.jp/
http://tabelog.com/tokyo/A1303/A130301/13004626/dtlphotolst/1/smp2/D-normal/1/

ううむ、まだまだ集め切れていないが、写真を見ただけでシェイプからして美味しそう、素材の触感や密度を感じさせるふっくら、手際の良い手の跡、焼きなりのいびつ。焼き菓子の香ばしいきつね色、クリームの黄み、チョコのツヤ、フルーツの濃厚な色、なんだこれは本能的に人間に刷り込まれているのか??しかもどんどんアップデートされていく。

ハトサブレー、ひよこ、たい焼と昔から美味しい+動物のかたちで誘惑する。最近は落雁、ドーナツやお饅頭も出てきた。そこまでしなくても、と思いつつ興味が惹かれるのがくやしい。

http://www.hato.co.jp/hato/
http://www.hiyoko.co.jp/hiyoko/index.html
http://matome.naver.jp/odai/2138304021352572001
http://www.namikoshiken.co.jp/
http://www.nature-doughnuts.jp/menu/animal.htm
http://www.uchu-wagashi.jp/

お土産や贈り物をするのが好きなのか。日常のルーチンより少し改まったムードで、味わいながら会話や一緒にいるその場を楽しむ習慣が広く行き渡っているのか。朝のテレビの「おめざ」でお菓子を日常に食べることが広まったのか。平和だありがたい。

日本を訪れる海外の人にもコンビニ菓子が好評なようで、雑貨と同じく日本人の執拗な探究心、商品開発力がグローバルに伝わっている。

http://matome.naver.jp/odai/2133094336816159901

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虎屋の"みらい"の羊羹 のデザイントークを聞いてきた。ニコラさんと須藤さん、虎屋の職人さん、広報の人、コラボをセッティングしたifsの川島蓉子さんの気さくなトーク。

未発売の羊羹もいただいた。
https://www.toraya-group.co.jp/toraya/news/detail/?p=toraya.news.detail&nid=21
http://toraya-group.blogspot.jp/2015/04/blog-post_3.html

虎屋さんはミッドタウンのショップで和菓子テーマの展示を続けたり、前にもデザイン和菓子を企画したり、新しい話題を常に探索している。なんとなく"バブル期の熟し切った文化"な印象なんだが、今そういうマインドに回帰してる感じもあるし、改めてきらきらしたデザインの話を聞いてみた。

羊羹の定義があるとしたら「小豆&砂糖&水を流し固めた竿もの」だそうで、切って食べるということ自体がシェアとか時間をかけて楽しむ、の性格を持つのだろう。それに対して

立体デザイナーでフランス人のニコラさんは「和菓子は茶の湯と結びついて、周辺含めると敷居が高い、パッケージを開けると黒文字も盛りつけもセットされていれば気軽に味わえる」なるほどグローバル。ツートーンの羊羹は季節を意識。テキスタイルデザイナーの須藤さんは日頃国内の布作りの工場で試行錯誤している目線で「流し固める羊羹の工程」から縞柄を考えた。日頃から"五感に訴えるデザインを意識しつつ、味覚は実現できなかった"ので楽しみにしていたそうで。縞1本だけ赤が効いてる、斜めに切って縞の組み合わせ、してみたいね。

職人さんはスケッチを見ながら顔は硬直しつつも「できません」とは言わないのが虎屋の誇り、黒文字に挿してオリジナルのスタンドに斜めに立てても重みで倒れない干し羊羹、薄く平らに材料を流す工夫を研究。和菓子には特別の茶席のための「誂え」というシステムがある(虎屋にもオートクチュール部門があるそう)とはいえ、羊羹は「量産適性」を満たさなければならない。そうか羊羹は確かに手仕事より少し距離のあるクールさがあるな。

食べてみた、「扇の羊羹」のクリスピーな小さいキューブ感、「縞羊羹」は虎屋本来の洗練されたすっきり甘みと歯ごたえ、キギの渡邉さん「ものがたり羊羹」は見た目の透明感からは意外なねばりと弾力、この味の物語はやや複雑?

須藤さんは「開高健の"虎屋の夜の梅とシングルモルト"」のように味の可能性もあるわね、と場は盛り上がってました。甘いものが好き、元気が出るって堂々と言えるもんね、やっぱ本能かねえ、味覚は。

 


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