女子デザイナーの歩き方 第77回
モノ作りの現場体験
moviti/片山 典子
[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com
このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。
自宅のシステムキッチンを入れ替えまして、いろんな意味ですごく興味深かったです。来月詳細を書こうと思います。
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デザイナーの友達に誘われてMakers'Baseで鍛金のワークショップに行ってきた。
http://makers-base.com/
参加したのは「錫の酒器を作る」。若いすらりとしたサーファーみたいな男先生の手ほどきで4時間でおちょこの形にする。
(1)始まるなりサンプルを見ながら”作りたい形をざっくりメモ用紙に描く”。デザインというほどではない、作ってるうちに変更したくなるし。
(2)φ5cmほどのインゴットを叩いて叩いてφ10cmまで伸ばす。スナップを効かせると手首があっという間にだめになる。強く真下に落とすイメージ。
(3)当金(あてがね)に乗せて外側から叩いて叩いて器の形にしていく。当金の”ここに当てる”ポイントが錫を乗せると見えなくなる。少し浮かせる角度でないと、叩いても曲がらない。中心から底面のサイズを想定してその周りを螺旋状に縁に向かって叩くのが、先生がやっているのを見るとシンプルな作業なのに、自分がやると歪んだり上手く当たっていなかったり。叩く方の手も大事だが、支える方の手も衝撃に耐えてぶれないようにするのが大事。叩く音を聞きながらうまく当たっているか確認するようにとのことだが、叩くのに必死。ひっくり返して内側を見ると槌の角で斜めに当たっていたり、槌の打ち下ろしがヨレているのがすぐ分かる。なんて非力な自分だ。かなり先生に成形してもらう。
(4)先端に筋やドットがついた槌で飾り叩きをつけたり、英数字を刻んだりしてオリジナル度を上げる。
鉄は炉に入れて熱くしながら叩くので、炉からハサミで取り出すのも気を遣うが、錫は常温で曲がる(だから叩いてもあまり強く硬くならない)ので、ひたすら叩く。金属の加工のプロセスはどこで手を停めても美しくて、ああ金属って綺麗だなあ、萌えるわ。
Maker'sBaseは会員になってトレーニング受講後、自分の作業の貸し工房としての利用も可能。ワークショップは時間内に仕上げるために先生が手を入れてくれるし、仕上げの楽しい刻印を自由にさせてくれる。モノ作り体験でのおもてなし、というか、気持ちよく過ごせる。
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別の機会にFreeformというCADを習熟した人のオペレーションを見せてもらった。
http://www.ffms.jp/
これまでもCAD展示会では折れるアームにペンがついたような独特のフォルムの操作デバイスを見たことはあったのだが。
キャラクターやフィギュアのモデリングを見たのだが、すごいですね、イラストを取り込んでそこに重ねるように、まさに粘土にヘラで細工したり、指で引っ張るように凹凸をつける、立体を構築するというより、立体のメニューで気楽で自由に"Photoshopとタブレットでイラストを描く"ようにモデリング。手は汚れないし、UNDOができる粘土のようだ。
モデラーは女性、就業時間外にCADを使っていいという職場環境で就職してから修得している。楽しそうだ。肉抜きして光造形で小さいフィギュアを簡単に作ってしまう。羨ましい、やってみたい気もするが、いくらでもいじってきりがないようにも見える。
3Dプロッター、レーザーカットも身近になっている。私も簡易モック代わりにレーザーカットや焼印はfabcafeやfablabでやってもらったことがある。3Dプロッターもやってみたいのだが、形状と向き設定だけでもノウハウがあると聞いた覚えがあるし、まずは遊びで何か作ろかな。
https://makers-base.com/event/?type=training&page=2
http://fabcafe.com/tokyo/
http://fablabjapan.org/
http://dmm-make.com/
名入れや少量制作、これがすべて大量生産に置き換わるとは思わないが、随分身近になってきたのかも。
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”作る現場”がクローズアップされてきたのはいつ頃からだろうか。ネイルブーム、工場見学、はんだづけカフェ、レジン、ハンドメイド作品販売サイト、等。ハイクオリティ、お洒落でマニアック、美しくオリジナリティも高い。趣味、片手間で作っているのでなく自己表現の領域。
それまでも日曜大工や手芸、洋裁などの趣味やそれを教える教室は存在していたのだけれど、芸大出身じゃない普通の人のモノ作りがマニアックになってきているのか? Maker's Baseでもワークショップにはひらひらの洋服ヒールの女の子やリタイアおじさんとか来るとか。
http://handazukecafe.com/
http://www.creema.jp/
私が学生だった頃は大学のデザイン科の木工室も(助手やスタッフがいなかったからか)出回り始めた3D CADも、トレスコ(写植の拡大機、懐かしいね)原則生徒は使用禁止。スチレンボードをヒートカッターで切って、パテ埋めして、塗装室で塗装する、モデル制作がほとんど。院の先輩は工芸科や彫刻科の友達と一緒に鉄や陶器、木工の実物も作っていたけれど。だから実は”モノ作りの現場を知らない”コンプレックスが強いし、不器用。まあ1回ワークショップに行ったからって知ってるともいえないけど。
デザインの定義の広がりとして、フィールドワークやコンセプト構築など”モノ造りにこだわらない社会や仕組みを作るマクロ視点のデザイン”の対極か。モノがたくさんあっても欲しいものが見つからない、という想いに対する解決策か。ミクロな視点、オリジナルへのこだわり、モノができる/作る手応えか。
あ、クリスマスにワークショップデートして、オリジナルのアクセサリーとか作って交換するカップル、なんてありそうな話かもしれないな。モノ作りで生まれる親密感、一体感が心地良いひととき/空間だ。
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