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女子デザイナーの歩き方 第76回
ジョージ・ネルソン的かっこいい
moviti/片山 典子

[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com


このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。


東京藝大の一般講座で大石膏室で3日間石膏デッサンを描きに行きました。予備校以来、受験じゃない木炭デッサンはもーのーすごーく楽しい!

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最終1日前にやっとジョージ・ネルソン展を見に行った。
http://mmat.jp/exhibition/archives/ex140712

50~70年代のアメリカのデザイン、そのデザイナーなんてかっこいいに決まってるじゃん(ついでにこの頃の新聞記者とかタイピストとかカメラマンとかいろいろかっこいい職業だったようで)。50年経って今でもハーマンミラーのメインビジュアルだし。アレクサンダー・ジラールとかイームズ夫妻とか一緒に活動してる人たちも含めて、おしゃれで楽天的でキャッチーで豊かでスマートでお茶目ってもう。

と、この人のこととなるとどうも素直になれなかったのだ。とは言え、デザイナー以外のライター、講演者、展覧会デザイナーな一面を語る展示も気になるし。「george nelson foundation」のサイトに載っている家具や照明、時計の実物。1959年モスクワ万博アメリカ館の展示設計。
http://www.georgenelsonfoundation.org/george-nelson/index.html#featured

スワッグレッグ・シリーズ、メタルの脚のカーブや先端へ細くなっていく具合、嫌味なく先端を曲げて自立している姿がもう最終形態というか完成されてる、その脚に載せるキャビネットやテーブルの板厚の薄さ、ボリューム感がもう圧倒的にいい。なんでデスクの物入れの仕切りがカラフルなのか、って明るくていいじゃん、くらいの根拠ではなかろうか。おそらく子供の時から“ジョージネルソン風”な家具(デコラ張りだったり分厚かったりするけど)に囲まれて、刷り込まれたところに、この軽やかなものを見たらかっこいいと感じるのは仕方ないんだろう。

かっこいいの"原器"なんだきっと。

ほっそりしたリボンのようなプレッツェルチェア、先端ほど薄くなっていく合板の厚みの処理や大きなRに曲げられた脚や背は、しっかり稜線Rを取ってももっさりしてない(この稜線Rを取ってなければどんな印象なんだろう)。キリキリする繊細でシャープなディテールはあまりない、覗き込むと単純に箱を重ねたみたいな接合部のソファもある。生のアイデア、思いつく限りのディテールを試しているみたい。キャビネットや椅子の縦横、脚の太さのプロポーションは軽快。

同じパーツ、モジュールを使うことで統一感やシステム拡張性、製造の合理化を狙った椅子、テーブル、キャビネット、ウォールシェルフ。コードがのたうつのを納めるスペースを作ったり。この人が最初なのか? 素直に"こんなのまだ世の中にないけど、こうしたらええやん"と思ったことを図にしてハーマンミラーに提示して、ストレートに製造に落とし込んでいったのか。スケッチもしゅっとした綺麗なものしか展示されてなくて、髪をかきむしって悶々、とかマエストロがぐしゃっと模型を潰す、みたいなどろどろは見えない、見せない。

一方ウォールクロックは室内装飾と割り切って、伸び伸び思うままにバリエーション展開(それでも時計の針やムーブメントを共通化)する。ちょっと素朴すぎるのや、玩具ぽいのもあるんだけど、これは確信犯? かっこよくなりすぎると冷たい印象になるからワザとはずしたのか?
PCもメールやFaxも描画アプリも動画アプリもない時代にプレゼンツールとしての動画が効果的だと見極め(テレビの影響でしょうか)、記録映画や使い方解説のムービーを作っている。

大阪万博のかっこよさはミッドセンチュリーから1970年代の時代のテイストなのか、そのテイストすべてにジョージ・ネルソンの影響が及んでいるのか。スタンダードすぎるし、スケッチも整然としていて、悶々と試行錯誤の後が見えないので、唐突にポンと最高レベルが出てきたように見える。

2階への階段には家族と写っている白黒の大きな写真、なんだかここからもう、かっこいいのである。そもそも50年代がかっこいいのか。展示自体にはほとんど家族の記述はないんだけど。出口前の部屋(ハーマンミラーの製品に実際に座れる)でジョージ・ネルソン事務所でタイピスト兼モデルをしていたご婦人のビデオが流れていた。それももう映画のように、かっこよくてノリが良くて。アニメだし思い出だしハッピー5割増だろうか、でもなんか根本的に楽しかったんじゃないのか。かっこいいが楽しそうで深刻で緻密すぎない。
https://www.youtube.com/watch?v=k_dxV8n2x-w
https://www.youtube.com/watch?v=k_dxV8n2x-w

先に生まれた人の方が素直な形にたどり着いてリリースできるのだろうけど、逆に言えば1950~70年代に自分がデザイナーだったとして、ここまで完成度の高い答えにたどり着けるかというと、そんなことないと思う。まっすぐで明るくて真摯で知恵やユーモアがあって、直感のセンスがいいんだな。未来からやってきてクールに当時を眺めているような達観した感じ。

働き暮らす環境のあり方は、機能的でニュートラルだけでなく、工夫して整理して使いたくなる楽しくなる家具があればいいんじゃない、という世界観があって、ハツラツとしたデザインにしているんだろうな。こんな家具で暮らしていると背筋も身長も伸びそうだ。

うーんgeorge nelson foundationのサイト自体がちょっとレトロを活かしてかっこいいのも悔しいなあ。自分ってもっとバタバタ悶々しちゃってるなあ。楽しくやってるつもりではあるんだけど。今月は"かっこいい"をたくさん使って、バカみたいな文章になってしまった。



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