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女子デザイナーの歩き方 第68回
大人の大逆転
moviti/片山 典子

[プロフィール]
1964年神戸生まれ。京都市立芸術大学卒業、東京でインハウスデザイナーとしてパーソナル機器のプロダクトデザインや先行開発に携わる。デザインの師匠である同業のオットと2人暮らし。2005年から“デザインって何だ!”と称してノンジャンルで自主活動展開中。最近はフリークライミングとバスケットボールの“大人部活”と旅行にはまっている。2010年から本格的ソロ活動(離婚じゃなくて独立)開始。
http://moviti.com


このコラムでは、デザインのジャンルの枠を超えた活躍をされているmovitiさんに、さまざまな観点から女子デザイナーの歩き方を語っていただきます。


●梶本さんの傘

日本が寒い時期に南半球は暑いんだろうと思い初めてニュージーランドに行ってきたら、緯度はイギリスくらいなので意外と夜寒かったです。日没は21時頃だった。行ってみないと分からんなあ。

**
IFFTでのアッシュコンセプトのブースであるものを見つけて愕然としました。「これは、もしかしてあの傘…梶本さんとうとう商品にしたんだ!!!」

梶本博司さんです。
http://hiroshi-kajimoto.com/

UnBRELLA です。Umbrellaではなく。
http://h-concept.jp/fs/hshop/c/unbrella

傘なんて”基本構成がずっと変わっていない”ものに挑むなんてすごい勇気だ。http://www.jupa.gr.jp/pages/history
http://www.hakata-kasaya.co.jp/torai.html
http://www.kasadiary.com/we/kiso.html  洋傘の歴史

現在の有り様としては、布や作りにこだわりカーブのキレイな骨本数の多い高級な誂え傘がある一方、500円でコンビニやキオスクでも買える。 500円の折りたたみ傘でもコンパクトでカラフルだったりする。強風に強いものもある、ともかく基本構成は同じ。

UnBRELLA のアイデアは学生の頃からとのこと、かれこれ四半世紀のアイデアだ。

梶本さんは大柄で、もんわりした関西弁でソフトな印象の人だ。ぶつかったり闘ったりする印象ではないが、なんだか熱くて良い意味で変な人だ。 創るものは、圧倒的オリジナリティがあって、面白がる気持ちがそのまま表れている、こちらもマジメかつ本気か冗談か分からない、良い意味で変だ。

試作1号は2007年頃市販のビニール傘の骨をばらして、長さを継いで自作、見せてもらったが今でも開閉する、丈夫だ。梶本さんがメンバーだったデザイン集団「ポリサイト」でも発表していた。

類似の特許はすでにあったそうだが、商品化までたどり着いた人はいない。 進展があったのは、大阪で傘の骨をいじれる職人さんに巡り合えたから。

ちなみに骨自体は中国で作っている、日本ではもう作れない。 職人さんともプロジェクトX的ドラマチックな会話もなく、冗談か実験のように思われていたそうだ。「1個だったら」と言われつつ試作2号を作る。 2枚の布の中に完全に骨が隠れているエイのようなミステリアスでエレガントな印象の試作だ。

●アッシュコンセプトの協力

試作3号をもってアッシュコンセプトの名児耶さんを訪ねる。それまでも数度この傘を見てきた名児耶さん。試作ができ、量産のあてをたった1人でめどをたててきた梶本さんに「あーそこまでたどりついたんなら」と一肌脱ぐことにした、試作を作った大阪の職人さんを訪ね、その下町分業ネットワークで量産体制ができた。

UnBRELLAは傘が逆に閉じる。開けるときはおちょこ状態を経由して開く。突っ張る構造骨は外側にある。

・閉じたときに濡れた面が表にならない、脚が濡れない。
・開いたときに構造骨が内側にないので、背負っても髪が細い骨にからまらない。
・閉じたときに自立する。傘立てには入れにくいが、自立するので傘立て不要。・開くときの傘先端が目の近くを通過しないので目を突きそうな感じがない。
・クルマから傘をさしながら降りやすい。ドアの隙間から降車しながら傘をが自然に広げられる。
・強風に強い、ロックが無いので追い風なら折れずに閉じてしまう。向かい風は構造の利き方向になる。
・従来の傘の骨、布の作りのまま、向きを入れ替えているだけ。作りやすい。
いいことずくめである。

ところが、
なぜか私も含め、観る人の反応は「ないでしょう」脳が必死で抵抗しようとする。

・傘の内側(裏側)が閉じたときの外観面になる。(傘の生地に裏表があるなんてあまり意識してなかったが)
・従来の傘と比べて、柄と閉じた傘の向きが逆になってる。
既成概念どころでなく固定観念で固まっているのか。

一見普通なのに、何か変だ。誰もが知っているモノ【傘】のアフォーダンスをひっくり返している、でも所作は同じだなあ。もやもや。

外骨格なので濡れて錆びないように、グラスファイバーの骨を採用、従来の傘と異なり開けたポジションでのロック機構は無く、骨(と布)のテンションで固定されている、だから柔構造となり壊れにくい。

中国への骨の発注1200本を名児耶さんが即決して初めて、大阪の職人さん達は「え、ほんとにこれで商売するの」と一線を越えたことを知ったそうだ。

●新しい常識となるか?

色はブルー系3色、ゆくゆくは他の色も、と思う一方「青い傘」と色と結び付いて頭に残るといいなあとも思っているとのこと。 外側の上部に吊り構造のように骨組が載る、建築のような構造が強調され、モダンでオーセンティックなストラクチャーを感じる。

プロダクツの構成要素は一般の傘と同じなのでアノニマスな印象、唯一畳んだときにまとめるストラップがスマートなフォルムの成形品でデザインされている。なぜだろう、できてしまうと「量産品の説得力」が出ている。

若いときこそ「恥をかくことを奨励する」といわれるが、現実は若い時は恥ずかしいことはしたくない、カッコ悪いことに抵抗する。 大人になる、歳をとる=リスクを冒さない、経験に基づき行動する。と思いがちである。

ところが歳とったら「恥をかくことが平気になった」たいしたことない、守るほどのことはそれほどない、そんなに他人は見ていないと気がついた。

11月のIFFTでの発表を皮切りに動画をYouTubeにアップしたところ、なぜか海外ではイタリアやベトナムの再生回数が多いとか。

恐る恐るの初回ロット、まだ1本も売ってない(お話を聞いた日の週末にKoncentで先行販売開始とのことだった)のに、取材や予約がどんどん入り、あれよあれよで追加生産決定の勢い。

大人の遊び、作りたいモノを作るまで思い続ける、試作する、投資して作る、本気の遊び。

電車の向かいの席の人が「?!」という顔をしてじろじろ見るんだって、悪戯をしている気分だそうだ。雨が降ってこの傘を持って出かけたい、わくわくするんだって。

大人がお金をかけて常識をゆさぶる、さて傘の歴史が変わるのか。


●「女子デザイナーの歩き方」(Kindle書籍) 2014年1月発売!
上巻 http://www.amazon.co.jp/dp/B00HJFTEKQ
下巻 http://www.amazon.co.jp/dp/B00HJT2O8Q





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