●スマホから自動操縦できる自動車
モバイルデザインという観点からいえば、移動体である自動車自体もモバイルな存在だが、新型モデルSは(現時点では限定的なパーキングのみだが)、スマートフォンからの自動操縦に対応したことが目新しい。
テスラは、すでに日本を含む主要国で、高速道路上での限定的な自動運転(アダプティブ・クルーズコントロール+レーンキープ+ターンシグナルレバー操作によるレーンチェンジ)を実現しており、ドライバーが乗った状態での自動縦列駐車機能も実装されている。
新たに加わったのは、スマートフォンによる外部からの自動パーキング機能で、サモンと呼ばれ、ドライバーが乗車していない状態での自動操縦を可能とする。同様の機能はBMWも市販車で実現しているが、そちらは欧米で主流の前進駐車のみの対応であるのに対し、テスラは日本で一般的な後進駐車もサポートした点が異なっている。
発表会は、テスラモーターズジャパン代表のニコラ・ヴィレジェ氏による製品ライン説明のプレゼンテーションから始まり、モデルSの新デザインのポイント、サモンの概要、そして実写によるデモへと進んだ。
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◀オープニングの挨拶と発表会の流れを説明するテスラモーターズジャパン代表のニコラ・ヴィレジェ氏。ちなみに、前代表の樺山資正氏は、元アップルジャパンのエデュケーション本部長だった方だ。(クリックで拡大)
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ソフトウェアのアップデートによって、既存の車両も最新モデルと同等の機能を持つ状態にできるという点において、テスラは、コンピュータやスマートデバイスに近い製品だ。しかも、すべての車両に3Gの携帯電話回線による通信機能が備わっており、アップデートのためのデータもこれを介して送り込まれるようになっている。
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◀すでに日本でも解禁された高速道路上での限定的な自動運転機能の説明画面。こうした機能を付加するソフトウェアアップデートは、3Gの携帯電話回線経由で行われる。(クリックで拡大)
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モデルSの新デザイン(マイナーチェンジ)は、内燃機関を採用した自動車のラジエーターグリルにあたるノーズコーンの部分からダミーグリル的な黒い部分が取り除かれ、よりシンプルになったフロントエンドと、サイドおよびリアのクロームパーツ(ガーニッシュ)の追加からなる。
旧モデルのダミーグリル付きフロントエンドは、一般車に見慣れた顧客の違和感を緩和するための演出だったと思われ、新型のほうが、よりEVらしくなった。
なお、旧型の尖ったノーズコーンのほうが空気抵抗は少なそうに思えるが、あえて変更したからには、新型の形状は空力的にも有利なのだろう。
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◀モデルSの外装デザイン変更ポイントは3箇所あり、最も大きな変化がノーズコーンの形状、およびカラーリングの変更。よりシンプルでコストがかからないディテールとしながら新しさを感じさせるデザイン手法は、アップルにも通じる。(クリックで拡大)
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◀フロントエンドの変更に比べると地味だが、サイドのロッカーパネルとリアのディフューザーにクロームの処理が施された。(クリックで拡大) |
テスラは、モデルS以外にも、この秋に日本導入予定のモデルXというSUVと、アメリカでの発売が2017年の下旬となるモデル3を擁している。
モデルXは、リアドアを跳ね上げ式にすることで他のSUVとのデザインの差別化を図っているが、これは3列目シートへのアクセスを向上させ、狭いところでの乗り降りも可能にするという機能面でのメリットもある(ルーフの上のクリアランスもセンサーが感知しているので、天井が低いところでは開かない)。
また、モデル3は、モデルSをダウンサイジングしたようなエントリーモデルで、十分な性能を確保しつつ、大幅なコストダウンを行っている(その主な要因は、高性能バッテリーの量産技術の確立)。
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◀秋に日本に導入されるSUVタイプのモデルXは、リアドアがガルウィング(テスラはファルコンウィングと呼ぶ)形式。巧妙なリンク機構と制御により、車体の横に30cmの空間があれば開閉可能だ。(クリックで拡大)
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◀アメリカで2017年の下旬に納車開始予定(日本導入は2018年になる見込み)のエントリーテスラ的位置付けのモデル3。1,000万円超のモデルSやモデルXに対して、米国内価格3,500ドルなので、日本向けも比較的安価なものになることが予想される。すでに全世界で40万台の予約が入っているとのこと。(クリックで拡大) |
さらに、テスラは外気を室内に取り入れる際のフィルターに掃除機並のHEPAフィルターを採用し、非常にクリーンな環境を作り出すことにも成功している。
一般にHEPAフィルターは、高密度で通風時の抵抗が大きくなるため、自動車用には採用されてこなかったが、テスラはおそらくファンの大容量化などと組み合わせて実用化にこぎつけたようだ。
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◀テスラは、車内環境のクリーン化にも力を入れており、掃除機などでおなじみのHEPAフィルターを採用することで、大気中の有毒物質をほぼ完全に除去することに成功した。グラフを見ると、わずか2分ほどで室内の有毒物質はほとんどゼロとなることがわかる。グラフの見出しが「生物兵器防御モード」となっているのは、アメリカならではか。(クリックで拡大)
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●スマホによるモデルSの実車デモ
そして、いよいよモデルSの実車デモに移り、スマートフォンによるコントロールが行われた。モデルSは、路上でもしばしば見かけるようになっているが、触れたり、乗ったりするのは初めてである。
サモンの操作はあっけないほど簡単で、テスラの専用スマートフォンアプリで、前進か後進かを選ぶだけでよい。
現時点では、自動走行のトータルが12mになると自動的に車両が停止するようになっているそうで、たとえば、オープンスペースでサモンを使っても、壁などが見つからずに走り続けるようなことはない。
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◀新端モデルSの実車。滑らかで凝縮感のある外装デザインのためスリークな印象だが、実際の車幅はドアミラー格納時でも1,950mmあり、かなり大柄だ。奥に、ロータス・エリーゼがベース(とはいえ、大幅な設計変更で共用パーツは7%とされる)テスラ ロードスターや正面の壁にパワーウォール(家庭用のバッテリーパック)も見える。(クリックで拡大)
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◀テスラ専用のスマートフォンアプリには、今回の発表の目玉となる、自動パーキング機能「サモン」のボタンが追加されている。現時点では、前進または後進の直線的なパーキングのみのサポートであるため、インターフェイスも、そのどちらかのボタンを長押しするだけというシンプルさだ。(クリックで拡大)
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◀自動パーキングデモ中のモデルS。他メディアの取材陣も、乗車しての動きのチェックに余念がなかったが、運転席には誰もおらず、すべて外部からのトリガーと車自体の自動制御によって行われている。
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自動パーキングしているモデルSを外から見ても、そうと言われなければ、普通にドライバーが駐車させているように感じられる。
一方で、室内から見ると、何もしないのにクルマが始動し、車速はごく低めなものの、俊敏なステアリング操作をしながら移動し、適切なところで停止するので、なかなか見ていても楽しい(すぐに見慣れてしまうのだろうけれど)。
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◀自動パーキングの車内からの一連の流れ。まず、メイン電源がオンとなり、ダッシュボード、続いて中央のディスプレイが点灯する(ここまでは通常走行時のスタンバイと同じ)。(クリックで拡大)
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◀直後に中央のディスプレイの表示がリアカメラからの映像とセンサー情報に切り替わり、パーキング動作に入る。ここでは、人が立っている右前方と、他の車両がある右後方のセンサーが反応していることがわかる。モデルSは、ステアリングを微妙に左右に切りながら後退していく。(クリックで拡大)
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◀最終的に後ろの壁面との距離を測りながら適切なところまでバックして停止した。(クリックで拡大) |
さらに、今回、実車を間近に見て気づいたのは、ドアハンドルが必要に応じて自動でせり出してくるギミックだ。ちょっとしたことだが、ここにそれなりのコストをかけることが、ディーラーに来た試乗者の購入意欲やオーナーの満足度を高めることにつながっていると感じた。
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◀テスラのドアハンドルは、停車時にはドア面とフラットな状態に格納されており、キーを持った人物が近づくと自動でせり出してくる(ここでは、サモンによるが外部からの操作)。このとき、ドアハンドルの下面にライトがつき、乗車できる状態にあることを知らせる。そして乗り込むと再びドアハンドルが格納され、空気抵抗を最小限に抑える仕組みだ。(クリックで拡大)
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◀ドアハンドルのクロースアップ。一見、上部が凹面処理されているように思えるが、これは周囲の反射による錯覚で、実際にはフラット。(クリックで拡大) |
現時点でのサモンは、直線的なパーキングのみの対応なので、さほど驚きはないかもしれない。だが、実際には当然ながらドライバーが乗り込んだ状態で行える縦列駐車なども、法規が許せば、すぐに実現できるはずだ。
そもそもサモンとは「呼び出し」を意味する英単語で、テスラがこの機能をそう名付けたことは、とても興味深い。ゆくゆくは、オーナーがいる場所まで自動で走ってくるようなところまで機能性を高めるつもりに違いない。
こうした点も含め、テスラは、自社製品を通じて新しいユーザー体験やライフスタイルを普及させることに重きを置いている。その姿勢が、今回の発表会に参加して改めてよくわかった。だからこそ、似た開発ポリシーを持つアップルが一度は買収することを考え、今も、互いに人材の引き抜き合戦が行われているのだろう。
しかし、現にこの分野の製品を量産・販売中という事実において、テスラは数歩先を走っている。アップルが自社の自動車製品を発売する際には、テスラを超えるユーザー体験を提供できるか否かが、1つのハードルとなることは間違いないところだ。
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