●「MESH」はIoT環境の簡単体験キット
MESHは、ソニーの社内ベンチャー的チームがクラウドファンディングサービスのIndiegogoを利用して製品化し、同社が新たに立ち上げたクラウドファンディング&Eコマースサイト、First Flightを通じて販売されるIoTツールキットである。
すでにご存知とは思うが、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)とは、情報やコンピュータを結びつけるインターネットの世界を日常的な製品に広げる概念だ。
MESHは、そのIoT環境を簡単に体験できるキットで、現時点では、Button(スイッチ)、Move(加速度センサー)、LED(RGB調光ライト)、GPIO(汎用入出力ユニット)の4種のハードウェアタグと、MESH Canvasと呼ばれるビジュアルプログラミングアプリ(現状、iPad向けのみ)、そして、それがサポートするソフトウェアタグから構成される。価格は、GPIOタグのみ6,980円、その他のタグが5,980円、MESH Canvasは無料となっている。
そのMESHユーザーの第1回ミートアップが先日開かれたので、今回は、その模様にも触れながら、MESHについて書いてみよう。
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◀ソニー本社のクリエイティブラウンジで開かれたMESHの第1回ミートアップ開会前の様子。最終的には、この倍の数の椅子がすべて埋まった。手前のペイズリー柄のシャツの男性は、参加者の1人で元マイクロソフト(株)社長、現慶應大学教授の古川 亨氏。(クリックで拡大)
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IoTのためのツールキット的な製品は他にも存在するが、それらが基板剥き出しであったり、モジュールの有線接続が前提であるのに対し、MESHはソニーらしいスマートで統一感のある筐体を持ち、完全に無線接続が前提で、カラーリングにも法則性がある。
また、どのハードウェアタグも、カラーパートの正面の部分はBluetoothのアクティベーションのためのボタンを兼ねているが、そこに使われるソフトなラバー系素材と側面および背面の硬い樹脂素材との色のマッチングも完璧で、難しい処理を巧みにこなしている。
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◀MESHのハードウェアタグは、現在、右からButton(スイッチ)、Move(加速度センサー)、LED(RGB調光ライト)、GPIO(汎用入出力ユニット)の4種から構成されている。入力タグは寒色系、出力系のタグは暖色系のカラーが適用され、両方の機能を持つGPIOタグは中立的なグレーの配色だ。(クリックで拡大)
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そのサイズは、凹凸こそないが、LEGOブロックとの相性を考えたものになっており、それで作られた構造体の中にピッタリ埋め込める。表立って謳われていない特徴だが、こうした配慮もメイカーズ向けの製品としては重要だ。ちなみに、MESHという名前も、"Make"、"Experience"、"SHare"の頭文字から採られている。
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◀タグのサイズは、約24 x 12 x 48mm。背面には、一応ソニーの名前があるものの、正式なロゴは入っていない。つまり、MESHの同社内での位置付けは、ある意味で特別なものなのだ。(クリックで拡大)
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◀すべてのMESHタグには、リチウムイオンバッテリーが内蔵され、底面のMicro USBポートを通じて充電できる。ポートは充電専用で、通信機能はすべてBluetooth経由となる。(クリックで拡大) |
よく見ると、ハードウェアタグの筐体の4隅にはごく小さな窪みが設けられている。これらの窪みは、自作のデバイスやアクセサリへの取り付けに利用できるよう用意されたもので、一見するとシンプルな形状だが、とても練られた設計になっていることが分かる。
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◀タグの外装の4隅には計8個の窪みがあり、たとえばアクセサリの固定などに利用できるように作られている。このネックストラップの取付けパーツは、ミートアップ用に3Dプリンタで作られたサンプル。(クリックで拡大)
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初期のプロトタイプでは、説明的なアイコンによってタグごとの機能の違いを認識させるデザインだった。また、市販の手前の段階では、長さが今の1.5倍程度あるユニットも存在したが、最終的にはより単純化されたコンパクトな筐体に落ち着いた。
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◀開発スタッフによるプレゼンテーションでは、初期のプロトタイプイメージなども紹介された。(クリックで拡大)
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実際にタグ同士を連携させるためのプログラミング環境も秀逸で、MESH Canvasというアプリ内でタグと対応するタイルを並べて、その間を線でつなぐことにより、入力と出力を関連付けることができる。
また、iPadが持つカメラやマイク、スピーカー機能を、それぞれ、撮影、音の感知、録音しておいたメッセージや効果音の再生に使うためのソフトウェアタグもある。
現状では、ロジックを組むためのタイルが、アンド(2つの入力が満たされたときに出力を実行)、タイマー、トグル(入力があるたびに、2つの出力を交互に実行)、カウンター(設定された回数の入力ごとに出力を実行)しかないが、将来的に強化されていく見込みだ。
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◀MESH Canvasと呼ばれるMESHのビジュアルプログラミング環境。必要なタグのタイルをドラッグ&ドロップでレイアウトし、リンクしたい入力と出力を線でつなぐことでプログラムが完成する。今のところ、実行時にもこのアプリが動いていることが必要だ。(クリックで拡大)
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◀ハードウェアタグ以外に、iPadのカメラ、マイク、スピーカー機能にアクセスしたり、ネットを利用して他のサービスや機器にアクセスするためのソフトウェアタグも用意されている。(クリックで拡大) |
市販に先駆けて、メイカーフェアへの出展やワークショップ、アイデアソンなどが積極的に行われており、このあたりもこれまでのソニー製品とは異なる展開と言える。
回路が隠蔽されて通信がすべて無線で行われるMESHは、扱いが楽で子どもにも安心して触らせられる上、テープなどを使って既存の製品に簡単に固定することが可能だ。また、成果が光や音を通じて把握しやすいため、IoTの基本概念を学習するための教材としてもうってつけである。
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◀すでにプロトタイプの段階で子ども向けのワークショップなどで実験的に利用されており、ゴミ箱やダンベル、フライパンなどにMoveタグを取り付けて、それらを動かすと適切な声や音(感謝、応援、料理の擬音など)が出るといったアイデアが生まれた。(クリックで拡大)
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◀これはファブで作られた容器の中にMoveタグを入れ、白の面でフィリップスのHUEを点灯、黒の面で消灯するという物理的なスイッチ機構のデモ風景。(クリックで拡大) |
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◀GPIOに市販のセンサー類を取り付ければ、さらに様々な事象をトリガーにできる。これは、2個のGPIOのそれぞれに異なる市販の距離センサーを取り付け、その前を通る物体との距離に応じて処理を分けるデモ。(クリックで拡大)
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◀古川氏の教え子の留学生は、運動時などの心拍数を測るウェアラブルデバイスのプロトタイプ作りにMESHを活用している。(クリックで拡大) |
筆者も、Indiegogoを通じて入手して以来、100円ショップで購入できる品物を使って、マスコット的なオモチャや、MESHの充電アーム兼スタンド的なアクセサリを作ってみたりしているが、1セットでは物足りなくなり、追加購入を検討している。
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◀筆者がデモしたMESH利用のオモチャの作例。1つのGPIOでは、基本的に1系統の動力(モーター)しか制御できないが、別のタグの活用で、もう1系統の動きを加えられないかと考えて作ったもの。100円ショップのマスコットトイをベースに、鼻と耳の揺れ、および全体の前進の動きを、個別にコントロールする。(クリックで拡大)
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◀実は、元のトイは、ソーラーパワーと磁石を利用して、鼻と耳を揺らす仕組みだ。そこで、背中のソーラーパネルにLEDの光が照射されると、その動きが誘発されるようにした。(クリックで拡大) |
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◀そして、前進の動きは、内部に振動モーター(タカラトミーが950円で販売していたHEX BUG nanoというオモチャを在庫処分時に100円で入手し、分解して利用)を固定し、底面に歯ブラシのブラシ部分をつけて、実現した。(クリックで拡大)
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◀これも、100円ショップのフレキシブルアーム付きLEDライトと、Micro USB充電ケーブルのパーツを組み合わせて作った、MESH用充電アーム。この状態で手元ライト的に使ったり、何らかのノーティフィケーション(通知機能)にも利用できる。似た物は1000円前後で市販されているが、自作ならば税抜き200円で作ることができる。(クリックで拡大) |
MESHは、他のIoTキット的な製品に比べてソフトウェア志向で自由度が低いと見る向きもあるが、筆者はそのような声を耳にして、DOSの全盛期に登場したときのMacintoshの評価を思い出した。
もちろん、ハードや回路寄りの製品を否定するわけではなく、今後も確実に存在して棲み分けが行われるだろうが、数年後に一般的な消費者から、どちらの方向性が支持されるのか、答えはすでに出ているように感じられる。
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